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11話 お前なら英雄になれるってことさ

炎属性相手に風属性では分が悪い。それでもなお、ヒッカはジェイクと撃ち合いをしてみたかった。何より、ジェイクの魔法を直接感じてみたかった。

「軽い怪我ではすまないかもしれないぞ。」

「大丈夫です。回復魔法も少しなら使えますんで!」

ヒッカは大丈夫なのか大丈夫じゃないのか良く分からない答え方をした。

「それにしても、どこでその撃ち合いとやらをするんだ?まさかこの街中ではあるまい?」

「ちょうどいいところがあるんです。俺が連れて行きます!」

そう言いながらジェイク右手を引っ張りながら、【エアライド】を唱えた。



到着したのは、日々の日課で行う母との特訓場だ。

「風魔法って便利だよな。こんなとこまで来るなら、馬がないと時間がかかりそうだ。」

「風魔法は四属性で一番研究が遅れてますからね。もっといろんな魔法が開発できるかもしれないんです。ジェイクさんもどうですか?」

「俺?俺も風魔法を?」

「はい。風魔法なら俺も教えることできますんで!」

「いや、俺は間に合ってるさ。それに炎魔法が俺の性に合ってるしな。それよりもさっさと始めよう。」

ジェイクはヒッカから距離をとった。

「ここからお前に攻撃でもすればいいのか?」

「いきなりですね!面白そうなんでお願いします。」

右手に小さな炎を浮かべたジェイクが言う。

「後悔するなよ?行くぞ!!」


ジェイクの右手の炎はたちどころに大きさを変えた。そのまま右手を勢いよく振りかぶり、ヒッカめがけて火球を投げつけてきた。

(この人すごい…!)

ヒッカはジェイクの火球に魅入られていた。

「…おいっ!」

ジェイクの声で我に帰る。ヒッカは無意識に全身の魔力を右手に集中させていた。

「ふん!」

一声あげるとそのまま火球を殴りつけた。ジェイクの火球はその場で飛散した。

「…。」

「ジェイクさんの炎すごいですね!思わず見惚れててぶつけられてたら危なかったです。」

苦笑しながら能天気な発言をするヒッカ。

「やるじゃないか。さすが親が王宮魔導士というだけのことはある。」

ジェイクは確かに手心を加えて魔法を放っていた。とは言え、流石に避けるだろう、運悪くとも対魔用のマントを羽織っているヒッカでは大怪我をしない程度の炎を放っていた。それが蓋を開ければ、真正面から単純魔力で打ち破られるとは思ってもいなかった。

「ならこれはどうだ?」

ジェイクは再び右手に炎を携える。だがその炎は先ほどよりも二回り以上大きいものだった。

「お願いします!」

「…しっかり受け取れよ!」

ジェイクは火球を再び放った。ヒッカは全身の魔力をさらに引き上げた。ヒッカの魔力も先程の比ではない。

「はぁあああああっ!」

魔力が目に見えるほどの高められたその拳は再び火球と真っ向勝負した。パァンと弾ける音と共にヒッカがジェイクの火球を粉砕した。

「何て奴だ。」

驚きの表情を浮かべるジェイクと、ふうと呼吸を整えるヒッカ。ヒッカは真っ直ぐにジェイクを見つめていた。

「ものは試しだ。どこまでついて来れるかな?」

ジェイクは静かに魔力を高めた。まるで炎の嵐のような魔力の高まりにヒッカは武者震いした。

「そうこなくっちゃ!」

負けじとヒッカも魔力を高める。その高まりに上限はあるのかと錯覚するほどの魔力だ。ジェイクは先ほどとは違う構えでヒッカに向かう。腰を落とし、左手で右手首を掴んでいる。一方のヒッカも溢れる魔力を人差し指に集中させていた。

「はっ!!」

凄まじい爆炎が解き放たれた。

「いっけぇー!」

ほぼ同時にヒッカも風圧弾の【ガストシュート】を放った。爆炎の真芯から少しずれた位置に【ガストシュート】がぶつかる。火は風の優位属性であるために、圧倒的に不利ではあった。が、ガストシュートは爆炎の軌道を変えた。そして…。

「はっ!」

一発目を撃ち終えた後に二発目の【ガストシュート】を放つヒッカ。今度は爆炎の中心点を的確に捉えている。爆炎の威力が大きく減衰する。

「想像以上だな…。」

そして止めと言わんばかりのだめ押しの【ガストシュート】の三発目が放たれた。爆炎は霧散した。それを目の当たりにしたジェイクは声をあげて笑った。

「どうして笑うんですか?」

「どうもこうもないさ。お前が気に入ったよ。俺だって元聖騎士だった人間だ。魔法に心得だってある。その魔法をこうも簡単に打ち破られるとはな。しかもお前は魔導士志望なのに体術もこなせる。お前、ちゃんと剣技の稽古をつけてやろうか?お前のその身のこなしや魔力を見てると魔導士だけの道ってのは惜しいんだ。」

(それに…コイツなら…。)

ジェイクは思わず独り言を呟いていた。ヒッカはそれに気づくことなく答えた。

「剣技ですか?剣技なら父に教わることはありますよ。」

「そうかい。俺の剣もやるもんだぜ?」

「なら…。」

そう言ってヒッカは少し離れた場所にある小屋から木刀を抱えて持ってきた。

「この中で好きなのを選んでください。」

「ほう。なかなか準備がいいな。」

ジェイクは幅広で長い木刀を選んだ。

「ええ。小さい頃はここで父が良く遊んでくれました。」

そう言ってヒッカはやや小振りな木刀を二本携えた。

「二本持ちか。面白い。勝敗は…そうだな。相手の剣を折るか落とさせた方が勝ちってのはどうだ?」

「…はい!」

「ならば…来い!」

「行きます!!」

山奥の特訓場で激しい剣戟が繰り広げられる。


「…そこだ!」

凄まじい魔力と共に踏み込んできたジェイクの剣は、ヒッカの左手にある剣を弾き飛ばした。

「くっ!」

剣に気を取られたヒッカはその瞬間、ジェイクの蹴りをモロに受ける形となった。思わず体勢を崩すヒッカ。

「もらった!」

二の太刀を振り上げるジェイク。間一髪で避けるヒッカ。三の太刀がさらに追撃してくる。渾身の魔力を木刀に込め、それを受けて立つヒッカ。

(…とった。)

そう思ったジェイクだったが体勢を大きく崩し、三の太刀は中を舞うこととなった。脇腹に鈍痛を感じ、足元を見ると先ほど弾き飛ばしたヒッカの木刀が落ちていた。

(コイツ、俺が弾き飛ばした木刀を…!)

「はぁああああ!」

(何をした?狙ってやったのか?)

考えながらも長年培った剣捌きをジェイクは無意識に体現し、ヒッカの剣を受け止めた。互いの魔力を込めた打ち合いはヒッカの木刀が折れることで決した。


「ありがとうございました!」

(…。)

「どうかしました?」

「ああ、何でもない。それより俺と旅に出ないか?」

「え?」

(コイツの力は必要だ。だがそれ以上にコイツをもっと見てみたい。)

「俺が聖騎士たるイロハを叩き込んでやる。魔導士志望と言ってたが、魔導士一本だけでは惜しい逸材だ。お前なら聖騎士と魔導士の両方…いやあるいは…。」

「?」

「お前なら英雄になれるってことさ。」


ここまでお目通しいただきありがとうございます!

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