126話 こいつっ! やはり土属性が本命なのか!?
泥被り大トカゲの前に立ち塞がるヒッカ。
抜剣したバスターソードの柄が金属特有の冷たい感触を伝えてくる。やはり良く馴染む剣だ。
泥被り大トカゲは全く歩みを止めない。その巨体が一歩一歩大地を踏み締める毎に、微かな地鳴りがする。
先に攻撃を仕掛けたのはヒッカだった。
「はっ!」
風属性の魔力を宿らせた刀身を振るう。刀身から発せられた衝撃波は泥被り大トカゲの顔面に直撃した。にも関わらず、歩みの速度は衰える様子はない。
(この程度ではだめか? なら、もっと魔力を込めるだけだ!)
ヒッカは瞬時に纏う魔力のレベルを引き上げる。風が唸り、木々がざわめく。
「うおおおお! それっ! くらえっ! いっけぇー!!」
先ほどの衝撃波とは文字通りレベルが違う。
何かを悟ったのか、泥被り大トカゲは顔面への直撃を避けるかの様に体勢を崩す。それでも衝撃波は、泥被り大トカゲの体に全弾命中した。
特に、最後に放った本命の波動が泥被り大トカゲにはっきりとダメージを与えた。ヒットした箇所は泥被り大トカゲの体表の泥をまとめて吹き飛ばした。
(効果はある! このままファイさんが来るまでチマチマと削っていくぞ!)
「ゴ、ゴゴ」
「何?」
泥被り大トカゲが奇妙な声を発する。ヒッカは直感的に嫌な兆候を感じた。
(何かしてくるのか?)
「ゴギ……ゴ」
(……来ないなら、こっちから!)
ヒッカは大きく剣を振りかぶり、衝撃波を放った。直後、その嫌な空気は確信へと変わった。
「効果が無くなっている……?」
先ほどダメージを与えた衝撃波よりも、多くの魔力を込めた一撃。だがその一撃では、泥被り大トカゲの体表を傷つける事はおろか、泥を吹き飛ばす事すらできなくなっていた。
「そんな馬鹿な!?」
戸惑いながらも斬撃を繰り出すヒッカ。幾多の衝撃波が泥被り大トカゲに向かう。全て命中するも、泥被り大トカゲはわずかに怯むのみである。進軍速度は変わらない。
(おかしい。土属性相手ならもっとダメージを与えてもいいはずだ。実は土属性じゃない?)
ヒッカは頭の中で次の打開策を探していた。
(本当は水属性が本命なのか?)
水属性と風属性は四属性上相反する位置に属している。一般的にお互いの属性に優劣は無いとされている。それ故に魔法効果がぶつかった場合、より魔力の大きい方が相手に打ち勝つ可能性が高い。
(これだけのデカさだから内包してる魔力も桁違いなのか……? だったら、これで……!)
ヒッカはバスターソードを納刀し、身に纏う風属性の魔力を解除した。
「はっ!」
ヒッカの纏う魔力が先ほどとは異質なものに変容する。魔力の切り替えもずいぶん慣れてきた様だ。
対する泥被り大トカゲはヒッカ目掛けて突進してくる。
(……)
泥被り大トカゲがヒッカに体当たりしようとする間際、ヒッカは軽やかにステップを踏む。まるで風に舞う木の葉の様に。影が泥被り大トカゲに向かって踊る。
一瞬、ヒッカを見失った泥被り大トカゲ。
その隙に大地に手を置き、土属性の魔法を発動するヒッカ。
「【大地の賢人】!」
瞬く間に地面が隆起し、巨大な土の拳が出現する。その拳は泥被り大トカゲの顔面を捉えていた。
ドゴッ! と鈍い音がする。土でできた拳が泥被り大トカゲにクリーンヒットした。
(これなら行ける……!)
続け様に【大地の賢人】を発動するヒッカ。左右の両手で器用にワンツーを繰り出している。
だが泥被り大トカゲとて黙って殴られている訳ではなかった。徐々に体表の泥が硬化していく。
ヒッカの感じていた違和感が確信になった瞬間だった。
「こいつっ! やはり土属性が本命なのか!?」
泥被り大トカゲの攻撃を交わしつつ、反撃に【大地の賢人】を繰り出す。
ヒッカの発動した大地の拳は、泥被り大トカゲの硬化した体表に阻まれた。
「ば、かな!?」
ヒッカは混乱していた。本格的に複数属性を操る魔獣と対峙した事はなかったのだ。
また、この手の魔獣は珍しい事もあり、その生態を記した書物もまた希少なものであった。もちろん、そこに書かれる内容もやはり、多岐に渡るものだった。それはつまるところ、即効性のある解決策は現状のヒッカには無いと言う事だ。
(待てよ? 風属性だったら……!)
ヒッカはすぐさま土属性の魔法を解除した。そして風属性の魔力を纏う。幼少期から慣れ親しんだ属性であり、風属性の魔力を展開するのはまさに早技だった。
ヒッカの右手人差し指と中指に風属性の魔力が収束される。
「【ガストバースト】!」
放たれた風玉は硬化した外皮に直撃し、大きな傷を刻み込んだ。
ヒッカの目論見どおり、今の泥被り大トカゲには風属性が効果的な様だ。ここでもう一つ、魔法を発動しようと魔力を高め始めた。
(何をしてるかは知らないけど、コイツは今は風属性が効く。なら……【サイクロン】で一気に泥を吹き飛ばしてやる!)
ヒッカがさらに一段魔力を圧縮しようとする刹那、またしても泥被り大トカゲがある変化を起こす。
(体がうっすら湿っている……? まさか! また水属性にスイッチしようとしてるのか!?)
「くそっ! 【サイクロン】!!
この時、ヒッカの放った風魔法は精彩さを欠いていた。本来はもっと魔力を圧縮して放つ魔法だったのだ。
放った魔法は泥被り大トカゲの体表に僅かばかりの傷をつけるだけにとどまった。
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