第14話
人々の喧騒で目を覚ますと、既に王宮の中。
大広間の王座の傍の揺り篭で意識が覚醒した。
揺り篭の周辺には、キッズルームにいた顔見知りもいる。・・・・残念ながら興味がなかったため名前までは憶えていない。長男は既に26歳で、王の傍らで瀟洒な衣装にみを包み名代として会場を見渡している。
老若男女、細身の紳士からでっぷりと肥えたご婦人、名代と思われる若い貴族など様々に会場を埋め尽くしている。
執事のような人物が声を張り上げる。
「 クラウス・フリード・フォン・ヒューラ閣下 ご入場!! 」
王がゆっくりと入場し、王座に座る。
会場が一気に静まり、皆が頭を垂れる。
会場を護衛する騎士たちは儀仗を捧剣し、法衣を纏った集団は片膝立で父を迎えた。
王が立ち上がり口を開く。
「 諸兄達、お披露目のパーティに参じた事、大儀である。
我が12番目の子、息子のラインハルト・フリード・フォン・ヒューラを披露する。
まだ赤子であるにも関わらず教会より賢者の称号をえる息子を得た事、誠に喜ばしい。
よって、皆にも我が息子の力を披露しようと思う。」
「「「「「 ワァァァァァ 」」」」」
会場が歓声に包まれる。
中には、「あれでまだ三ヶ月?大きすぎない?」などと囁くご夫人らもいるが、軽くスルーだ。
・・・・
会場の奥から法衣を纏った美女が震えながら、おずおずとこちらに歩いてくる。
王は自分を抱え上げ、彼女の到着を静かに待つ。
水晶球には新しい台座が設えられ、ビロードの布に包まれた状態だ。
法衣の美女が小声で呟く。
「 閣下、あの・・・その・・・大変危のうございますので、くれぐれもご留意くださいませ。」
「 うむ、心配は要らぬ。概ね聞いておる。」
「 しょ、承知しました。では・・・・・ 」
彼女が震えながらビロードを取り除くとそこには見覚えのある水晶球が姿を現した。
そして震えながら水晶球を掲げ、自分が触るのを待つ。
その間、ガタガタと震え決して視線を上げない。
王が水晶球に自分を近づける。
その手は汗ばみしっかりと力が入っているのが解る。
「 ぶぶぅ? 」
「 あぁ、触ってよいぞ 」
振り向いて了解を取ると許しを得た。
「 きゃは! (よっしゃ盛大にいくぞ!)」
両手に治癒と浄化の魔法を練りこみ、びた~と触る。
その瞬間、白い発光が大きな会場を埋め尽くし、会場の皆に治癒と浄化の魔法が降り注ぐ。
「 光魔法! 」
彼女は下を向いたまま大声を張り上げる。
続いて黒い靄が立ち上がり会場全てを闇に閉ざす。
「 闇魔法! 」
更に赤い閃光が部屋を染め、一気に気温が上昇する。
「 火魔法! 」
次の瞬間、一転して氷点下の冷気が部屋を包む。
「 氷魔法! 」
冷気が暇もなく、水晶の台座から滝ような大量の水が噴き出し、広間の絨毯を濡らしていく。
「 ごぼがぼ・・・水魔法! 」
彼女が溺れかけながら声を張り上げる。
濁流がぴたりと収まり、会場に向け突風が吹き抜ける。その勢いに飲まれ、幾人もの参列者が転倒した。
「 風魔法! 」
突風が止み、水晶球から紫電が煌めく。
濡れた床を伝い、甲冑をきた衛兵たちに電撃が襲い掛かり、手にした儀仗剣を殆どの者が取り落とす。
バリバリバリバリィ!!!
「 アババ・・・・雷魔法! 」
電撃を至近距離で受けた彼女が湯気を挙げながら大声を張る。
そして、水晶玉が盛り上がらんばかりに砂が水と同じようにザラザラザラと噴き出し山を作り始める。
「 土魔法! 」
遂には、台座がメキメキと音を立て、枝が伸び葉を茂らせ、根が伸び始める。
その勢いは凄まじく広間の天井に一気に幹を伸ばし、花を咲かせた。
「 木魔法! これにて全属性魔法が証明されました。」
半分幹に飲まれかけた法衣の美人の声が、震える声で終わりを告げようとしたが、やっぱり水晶の反応は終わらない。
大木になり花を咲かせた木がぐにゃりと歪み水晶に吸い込まれ、水晶球が空中に浮いた状態となる。
そして、七色に発光しビリビリと振動し、ゴトリと床に落ちた。
そしてお約束通り、彼女は失禁し、へなへなと床に座り込んだ・・・・
幸いなことに、絨毯は水でグショグショに濡れており、彼女の失禁は気づかれずに済みそうだ。
「 あぶ? (片づける?)」
「 何? まだあるのか? 好きにせよ」
お許しがもらえた。
風魔法を使い三つの旋毛風を作り出す。
そこに珪砂を一粒残らず搔き集め、同時に水流操作で絨毯の水を排水する。
旋毛風の中で水晶球を作り圧縮を繰り返すと、赤銅色に染まり、新たに三つの水晶球が出来上がる。
それを温度変化で冷却すると、ゴトリと床に落ちた。
「 あきゃ!(完コピ完了!) あい!(どうぞ!)」
「「「「「 ・・・・・・・・ 」」」」」
国宝が新たに三つ出来上がった瞬間を皆が完全に固まって見守る。
王も開いた口が塞がらないが、さすがにポーカーフェイス。
「 こ、これで終いか? 」「 あい! 」
子声で自分に語り掛けると、小さく返事をする。
気を取り直した王が、声を張る。
「 これが、我が息子力である。全属性を統べる者、それは賢者で相違ないか?! 」
張りのある声で法衣の美女に問いかける。
呆然としていた彼女が我に返り、震える声で答えた。
「 は・・はい! 間違いなくラインハルト殿下は賢者の資質を示されました! 」
「 教会は賢者ラインハルト殿下を新たな賢者とお認め致します。」
「「「「「 ・・・・・・ 」」」」」
水を打ったような静寂から、まばらに拍手が聞こえ始める。
中には、「古傷が治った」「体が軽くなった」などの囁き声が聞こえ、気が付けば割れんばかりの大喝采となっていた。
「「「「「 ウオォォオオオオオ!!! 」」」」」
喝采の中には「子供賢者様の誕生じゃ!」「将来の大賢者だ!」「大賢者さまの生まれ変わりだ!」などと好き勝手に叫ぶ声が聞こえる。
そして賢者様コールが巻き起こる。
「「「「「 賢者様! 」」」」」「「「「「「 賢者様! 」」」」」
そこで王が声を張る。
「 静まれい!!!! 」
「 この国に新たな賢者が生誕した。ラインハルトはまだ三月の赤子、これ以上の負担は許容できぬ、賢者への謁見はしばらくは控えるよう!!!」
王は、自分を抱きかかえ、会場を足早に辞する。
「 か、か、閣下、ご退出!!」
執事の紳士も呆然自失としていたのか噛みまくり、王の退出を告知したのだった。