嘿,我是英雄的女儿!
「さぁ、ボクらの物語の始まりだ、気張っていこう!」
ボクは思う。この世に無駄なことなんて無くって、全てはボクが生きるこの世界で、誰か別の人が生きるための糧になっているんだって。けど、ボクが生きるために糧になるものがどこにあるかもわからない。なら、ひとつひとつ事細かに記録してしまえば、どれが糧で、どれが糧じゃないって、すぐにわかるよね。だから、この物語を始めようと思う。ボクが、ボクの生きるこの世界で拾うべき糧を見つけるために!
ボクが通うこの巴桜特殊戦闘学園は、異形の怪物と戦うことを前提として創立された学校なんだって。でも、最近じゃその怪物たちも息を潜めているんだよねぇ。なにせ、ボクが生まれるよりずーっと前に、『英雄』が怪物の王様倒しちゃったから。それでも、たまぁ~に怪物がどこかの国の名前も知らない街に出現した、とかってニュースを見るから、この学校は続いてるんだよね。さて、それじゃあ今日はなにもないボクの一日を記録しようかな。
ボクは毎朝けっこうすっきり起きるタイプなんだ。でも、ルームメイトはそうじゃないから、ボクは毎朝彼女を起こさなきゃいけない。全く、たまには無意識で目覚まし時計を叩くその手を引っ込めてほしいね! あ、引っ込めたらまずそのまま寝ちゃうのかな?
「モミジちゃん! おきてぇ! 朝だよっ!」
ボクのルームメイト、轟椛ちゃんは、何にしてもちょっととろくさいところがあるんだ。いつもいつも、ボクを見て、「ワタルちゃんはいいね」って笑う。そんなモミジちゃん(の、主におっぱいだけど……)を見て、ボクはそんなことないのになぁ、と思う。モミジちゃんにはモミジちゃんのいいところがあるんだし(主におっぱいだけど……)、誇らしくいればいいと思うんだよなぁ。
「うぅ……。あと五十分……。」
「授業思い切りさぼる気だねぇ!?」
ボクは呆れながら、窓のカーテンを思い切り開け放った。五月のぽかぽかした朝日が、モミジちゃんの寝ぼけ眼に直撃する。
「きゃー! めが、めがぁー!」
「ほらほら起きてぇ!」
ボクは目をこすりながら洗面所に向かうモミジちゃんを見やりながら、制服に腕を通した。巴桜の制服は男性用と女性用、両方とも二種類あるんだ。男性用はブレザーと詰め襟、女性用はブレザーとセーラー服。ボクはセーラー服を選んでいるよ。セーラー服って言っても、スカートはミニだし、白基調で重苦しくないデザインなんだ。
「モミジちゃん! 先に行ってるからね! 二度寝しちゃダメだよぉ~!」
「うん~。」
洗面所から眠たげな声が聞こえた。大丈夫かなぁ……。
今日の授業は、数学と国語と、生物と体育、それとホームルームみたい。モミジちゃんも、なんとか遅刻ギリギリで登校してきて、一緒に勉強した。この学校は、何も戦闘ばっかり習うわけじゃなくて、こういう普通の授業もちゃんとあるんだよ。ただ、体育は……。
「モミジちゃん、体育着になるとよりいっそうおっぱい目立つね!」
「え、えぇ? そ、そんなにいいものじゃないよ。肩こるし、それに戦闘時は邪魔だし!」
持つ者の余裕だね。ボクはスタイルにそこまで執着しない方だけど、それでもぺったんこなのは少し気になるんだよね……。そうこうしているうちに、体育の先生が号令をかけた。
「はい、好きな人とペアになって、受け身の練習をするぞー。」
体育はこうやって、少し戦闘寄りの授業なんだよね。何でもいいけど、さっきから後ろの方で「好きな人と!? 俺好きな女子いねーんだけどー!」とか騒いでる男子が五月蝿いなぁ……。
「ワタルちゃん、ペアになろ。」
「いいよぉ。」
まぁ、こういうのってやっぱり仲のいい人とペアになるものだよね。奇数人数クラスにとっては地獄かも知れないけどさ。あ、そういうときって三人グループが許されるのかな?羨ましいなぁ。実はボク、気になってる子がいるんだよね。体育とかいつも休んじゃう……本人曰く「虚弱体質」らしいんだけど、彼女のせいで(おかげで?)ウチのクラスはペア分けの時に余りが出ないんだ。あの子、いつか話しかけてみたいなぁ……。名前なんて言ったっけ。真坂……さん?
「ワタルちゃん?」
一緒にペアになったモミジちゃんが、ボクの名前を呼んだ。いけない、ちょっとぼーっとしすぎたね。さ、練習しようか。
「受け身は、倒されたときに腕や足を使って衝撃を緩和する体勢のことだが。もちろん、通常の受け身では、能力者同士の決闘や、怪物との戦闘を想定すると、あまり意味をなさない。今回は、各自で衝撃を緩和できる体勢を探ってみてくれ。」
そうは言われてもなぁ……。つまりはそれって、吹っ飛ばされないとわからないよね? ということは、能力を使わなきゃいけないよね?
「モミジちゃん、これってさぁ……。」
「さぁーやろうワタルちゃん!」
モミジちゃん、やる気満々の顔でその得物を私に向けるのやめよう? 長槍とか普通にこの距離じゃボクにぐっさりだよ? いやまぁ、授業だし、仕方ないかなぁ。いいや、気張っていこう!
「ポーン、解放!」
能力というのは、常時はボクが今放り投げたチェス駒型の制御装置に封印されているんだ。(確か、能力が発現するための、現象や法則をねじ曲げる力、『素力』を抑制化する音波を出しているんだっけな? 授業よく聞いてなかったや……。えへへ)だから、そこに音声入力で能力の解放を宣言すると、ボクらは能力者たり得る存在になる。
「じゃあ……いくよっ!」
モミジちゃんがかけだし、大きく長槍を突き出す。それを躱して、ボクは自らの能力に願う。
「乞い、願う。焼き払え、我が神器、――≪天叢雲剣≫。」
炎から生み出された古代の剣を持って、くるりと反転、長槍を焼き切り、手の中の武器を炎に戻した。
「乞い、願う。灼き穿て、我が神器。――≪火尖槍≫。」
そして、それをモミジちゃんが持っていたものと同じほどの長さの槍を炎の内から取り出し、モミジちゃんの豊満な胸を、一息に突く。さすがモミジちゃん。とろくさいよね。躱せるはずもなく、びゅーんと、紙切れのように飛んでいった。で、ここからが授業内容。モミジちゃんはなんと、一回地面に叩きつけられてから、ごろりと横に転がって立ち上がったんだ。うん、ちょっとびっくりした。いや、別にモミジちゃんのことを悪く言ってるわけじゃないんだけど。それで、モミジちゃんが何をしたかというと、長槍をもう一度出現させて、ボクめがけて投げてきたんだ。モミジちゃんの能力的に、この長槍はこの一回じゃ済まない。
「いよ……っと。」
一本目を躱すと、案の定長槍がいくつも飛んできた。さながらに「槍が降ろうが」、だね。こうなったらよけられるものでもないし……。
「乞い、願う。我が神器、≪パンドラの匣≫。」
なら、こちらも武器の雨を降らせるのみ! ボクはいくつもの神器、いわゆる必殺技を持ってるけど、実はコレ、全部本物の武器……伝説や伝承に登場する武器、その現物なんだ。すごいでしょ? そのうちのひとつ、この≪パンドラの匣≫は、多種多様な武器(剣もあるし、槍もあるし、鎌も、ボウガンもあるよ!)を空中に浮遊展開させて、相手めがけて射出する神器。残る希望は……、ボクの存在♪ なぁんてね。で、その武器たちを今回は、モミジちゃんが投げてくる無数の長槍にぶつけて破壊する、ってわけ。――というかクラスのみんな、ボクらのを見てないで、自分たちの練習しようよ。先生も見とれてちゃだめでしょ!
「もう! これじゃ練習にならないよ!」
モミジちゃんがそう言って、ボクらの練習は終わった。授業が終わると、みんな更衣室に向かっていく。おなか減ったなぁ。今日の食堂のメニューはなんだろう? なぁんて考えてたら、白髪交じりの体育の先生が話しかけてきた。
「今川、お前すごいな。中学一年生でその戦闘能力は、俺も長年ここで教師をやってきたが、過去にひとりしか……ん? 待てよ? 今川……? ……まさか、お前。」
えへへ。とうとうばれちゃった。隣のモミジちゃんもなんだか誇らしげだけど、ボクはその数倍は嬉しい。だって、ボクの父さんは……。
「はい! ボクは今川渡! 十五年前の『英雄』の、二番目の娘です!」
――「嘿,我是英雄的女儿!(ボクはね、英雄の娘なんだ!)」