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18. 探索隊との接触

(注意)1/28に、中途半端に一話投稿しています。(2/4)














   18



 探索隊との接触はあくまで挨拶ということで、アケルの人々は不参加となった。


 もちろん、竜淵の里の生き残りのドラゴンたちは別だ。

 彼らは護衛としてここにいるし、そもそも、加藤さんの提案であえて男性を多めに選出してあり、これには探索隊側との初対面での印象を悪くしないようにという意図があったからだ。


 早めに部屋についたおれは、みんなと言葉を交わしながら探索隊のことについて思いを巡らせていた。


 正直なことをいえば、探索隊に対する感情には複雑なものがあった。


 第一次遠征隊として彼らが出発したことで、残された転移者たちは統制を失った。

 コロニー崩壊の切っ掛けを作ったのが彼らであることは間違いない。


 しかし、彼らが悪意を持っていたわけではないこともわかっている。


 探索隊のメンバーの行動原理は、基本的には善意によるものだ。


 いまになっても、そうした方向性は変わらない。

 コロニー崩壊を経験していない彼らは、元いた世界での価値観を変質させることもなく、ごくまっとうな道徳観に従って、モンスターの脅威から人々を救っている。


 無論、追い詰められてしまえばその限りではないことは、帝国南部の小貴族領で起きた偽勇者騒ぎや、十文字が起こしたチリア砦襲撃事件のことを思い返せば否定できないが――探索隊という集団で行動している以上は、まずその心配をする必要もない。


 コロニーから旅立ったときだって、そうだ。

 彼らの行動は善意と正義感によるものだった。


 強力な戦闘能力を備えていたからといって、遠征が安全である保証はなかった。

 たとえば、探索隊の力が通用しないような危険が存在する可能性だってあった。


 それでも彼らは、この世界の人間たちに接触するために、樹海に挑んだ。


 そこには確かに、コロニーで待つ力ない生徒たちを助けたいという願いがあったのだ。


 遠征隊に参加したメンバーの多くは楽観的であり、危険をさして認識していなかったという面はあるにせよ、その行いが善意によるものだったことだけは間違いない。


 加えて、その行動には一定の理があった。


 実際、あのままなにもせずにいれば、コロニーに未来はなかっただろう。

 ただ先細っていっただけだ。


 かといって、足手纏い七百名を引き連れた大集団で、危険なモンスターが跋扈する森を踏破するというのは、まったく現実的ではなかった。


 だから、三百人ほどの探索隊メンバーから、なにがあるかわからない未踏の地に精鋭百人が立ち向かう一方で、幹部二名を含めた残りのメンバーがコロニーを守るというのは、いたって妥当な判断だった。


 無論、実際にコロニーが崩壊した以上、見通しが甘かったという意見はあるだろう。


 けれど、だったらどうすればよかったのか。

 その答えを持たない以上、彼らを責めるのはフェアではない。


 ……と、思っているのは本当だが、同時にそうした判断はあくまで理性によるものだった。


 コロニー崩壊の際、思い出したくもないような悲惨な目に遭った人間のひとりとしては、感情面ではどうしても引っ掛かるものがあるし、そのために警戒心が先立ってしまうのは、少し前にもシランに語って聞かせた通りだった。


 島津さんが主導で提案された探索隊との合流に関しては、それらの感情は置いておいて、正確な判断を下す必要がある。


 今日の中嶋小次郎との接触は、そのあたりを見極める良い機会になるだろうと考えていて……だから、少なからず面食らった。


「おっ? お前が真島孝弘か」


 指定のあった部屋に先について待っていたところ、用事を終えた探索隊がやってきた。

 数は男女合わせて四人。


 先頭に立って部屋に入ってきた背の高い青年が、屈託のない笑みをこちらに向けた。


 テレビでしか見ないような、とても魅力的な顔立ちの青年だった。


「おれが探索隊のリーダー、中嶋小次郎だ。会えて嬉しいぜ」


 あながち社交辞令でもないらしい興奮した口調で言って、握手を求めてくる。

 おれは立ち上がってそれに応えた。


「真島孝弘です。辺境伯との件については、いろいろと動いていただいてありがとうございました」

「礼なんていいって。好きでやったことなんだからさ」


 笑って肩を叩かれる。


 飯野から聞いてはいたが、気さくな性格のようだった。


 この世界で最大クラスの武力を率いている人間であり、ここまでの旅では常に英雄として下にも置かない扱いを受けていただろうに、偉ぶったところはかけらもない。


 それでいて、誰も軽々しく扱えないような独特の存在感があった。


 目鼻立ちが整っているとか、上背があって均整の取れた体をしているとか、そうした表面上のことだけではなくて――内側からにじみ出るものが、青年の存在を際立たせているのだ。


 多分だが、これは転移したことで絶大な力を与えられたこととは関係ない、青年生来の気質だろう。


 そのうえ、転移者のなかではトップクラスの戦闘能力を持ち、転移初期にみんなをまとめあげたリーダーシップと、果断な判断力を併せ持っている。


 なるほど、これが探索隊のリーダー。

 並み居るチート持ち連中を率いていたというのも納得だった。


 ただ、彼がそんな人物であればこそ、こちらに向けてくる態度におれは戸惑いを覚えた。


 同じことを感じていたのだろう、隣に座ったリリィがこそっと耳打ちをしてきた。


「なんだか、すっごく友好的……というか、嬉しそうな感じだね?」


 そうなのだ。


 単なる社交辞令以上に、探索隊のリーダーを務める青年がこちらに向ける態度は、純粋な好意に満ちていた。


 そして、それは眷属であるリリィたちに対しても同様だった。


「そっちが真島の眷属たちだよな。話は飯野から聞いてるよ」


 席に着くと、中嶋さんはリリィたちひとりひとりに目をやりつつ、屈託のない笑顔で語りかけてきた。


「これまで大変だっただろう。この世界でモンスターが仲間っていうのは、どうしても偏見の目で見られるだろうからな」


 口にされた言葉には労りがあり、心からの共感があった。


 だからこそ、戸惑ってしまう。


 以前に飯野が探索隊に戻った際、中嶋さんがおれたちに興味がある様子だったという話については、聞いたことがあった。


 だが、その関心のほどまでは知らなかった。


 妙な話だが、いまの彼はまるで好きなアーティストかスポーツマンでも前にしているかのようだったのだ。


 この世界で英雄として扱われたきたはずの彼がこんな態度を取るというのは、なんだかあべこべな感じがした。

 だが、そうした感覚はこちら側だけのものらしい。


 やや前のめりになって、中嶋さんは続けた。


「ずっと会いたいと思っていたんだ。これまでの旅の話について、ぜひとも今日は話を……」

「ちょっと、リーダー? 落ち着いてください。真島さんが驚いていますよ?」


 と、そこで冷静な声が割り込んだ。


「真島さんに会えて嬉しいのはわかりますが、少し抑えてください」


 声の主は、怜悧な印象の女性だった。


「しかしだな、萌子……」

「あなたは探索隊のリーダーなんですよ? 落ち着きは必要です」


 なにか言いかけた中嶋さんにぴしりと言って、女性がこちらに向き直った。


 にこりともしない、愛想のない表情だ。

 しかし、別にこちらに隔意があるというわけでもないらしい。


「はじめまして。わたしは栗山萌子と言います」


 当たり前の挨拶をしてきた。


 愛想がないのは、単にそういう性格というだけのことらしかった。


「ああ。あなたが……話は聞いています」


 こちらからも返した。


「はじめまして、栗山さん。確か探索隊でリーダーの補佐役をしているんですよね」

「そこまで大したものではありませんが」


 とはいうものの、明らかに有能そうな雰囲気だった。

 実際、およそ探索隊の外部との折衝は、リーダーである中嶋さんと彼女が請け負っていると聞いている。


 とっつきづらい感はあるが、そのあたりは中嶋さんが緩和しつつ、うまいことこれまで探索隊を動かしてきたのだろう。


 しかし、あくまで栗山さんは控えめだった。


「わたしはただの事務方ですよ。二つ名持ちではありませんしね。ですが、ここにいるわたし以外のメンバーは、全員が二つ名持ちです。まだ来ていないメンバーも何人かいますが、おいおい来るものと思います」


 探索隊には現在、七人の二つ名持ちがいる。


 ――『光の剣』中嶋小次郎。

 ――『多重存在』窪田陽介。

 ――『妖精の輪』島津結衣。

 ――『万能の器』岡崎琢磨。

 ――『韋駄天』飯野優奈。

 ――『堅忍不抜』石田哲男。

 ――『剛腕白雪』御手洗葵。


 彼らに加えて、現在、所在が不明の二つ名持ちが四人だ。


 ――『闇の獣』轟美弥。

 ――『絶対切断』日比谷浩二。

 ――『疾風怒濤』柚木園瑠衣。

 ――『竜人』神宮司智也。


 栗山さんは探索隊の一員である以上チート持ちではあるが、二つ名持ちではない。

 どちらかというとおれに近いタイプらしく、影の魔法で武器を生成できる固有能力を持つが、本人の戦闘能力は高くないと聞いている。


 世界の行く末を左右できる圧倒的な戦闘能力こそが、二つ名持ちの条件なのだ。


 そんな二つ名持ちのうち、この場にいるのは、中嶋さん、窪田さん、島津さん、飯野、石田の五人だった。


 御手洗さんがこの場に来ていないのは少し意外だったが、そもそも、これは探索隊へのメンバーへの挨拶が目的なので彼女には必要ないものだ。


 来ることになっていた岡崎がいないほうが気になるが、こちらは性格に難があるようなことを聞いている。

 こういうことはよくあるのかもしれない。


 探索隊の面々もあまり気にしていない様子で、残りふたりの初対面の挨拶に移った。


「おれは窪田だ。よろしく頼むぜ」

「石田哲男です」


 窪田さんはぞんざいに手をあげて、石田のほうは朴訥とした口調で言って頭を下げる。


 中嶋さんほど好意的というわけではないものの、彼らも特におれや眷属たちに対して思うところはないようだ。

 あるいは、島津さんあたりが言い聞かせておいてくれたのかもしれない。


「にしても、悪いな」


 挨拶を終えると、窪田さんが話し掛けてきた。


「リーダーのやつ、はしゃいでて驚いただろ。許してやってくれ」


 くっくと喉の奥で愉快そうに笑う。


「なにしろ、ずっとお前に会いたがってやがったからな」

「そんなにですか」


 さっき、栗山さんもそんなことを言っていた。


 おれが目を向けると、中嶋さんは人好きのする笑みを返してきた。


「それはもう。おれは真島のファンみたいなもんだからな」

「ファ、ファンですか……?」

「はは。なにを驚いているんだか。お前はそれだけのことをしてきただろう」


 肩を揺らして笑う。


 ファンという言葉自体は冗談なのだろうが、こちらに向けられる好意的な感情は本物だった。


「さっきも言った通り、モンスターを眷属にする真島にとって、この世界は生きづらかったはずだ。そんな逆境のなか、信頼できる相手を探して、居場所を作って、降りかかってくる火の粉を払って、旅を続けてきたんだろう。そして、いまではアケルの英雄だ。本当に大したもんだよ」

「……成り行きですよ。おれはただ、自分の大事なものを守っていただけですから。結果として、そういうことになってしまったというだけのことで。本当の英雄というのは、中嶋さんたち探索隊のようなことを言うんだと思います」


 別におべっかというわけではなく、本心からの言葉だった。


「探索隊は各地でモンスターを退治していたと聞いています。助けを求める見も知らぬ誰かを、わざわざ助けに行っていた。助けた人間の数はおれの比ではないはずです」

「その活動を否定はしない」


 中嶋さんは頷いた。


「だが、おれはこれまで逆境を覆してきたわけじゃない。お前と違ってな。逆境。苦境。艱難辛苦。困難に行く手を遮られたときに、それを乗り越えるだけの意志。そのあたりを、おれは評価しているんだよ」


 会話を楽しむ笑顔で言って、両手を広げてみせる。


「単純な話さ。おれはな、真島、お前みたいな気合いの入ったやつが大好きなんだよ」

「……」


 その言葉に嘘は感じられなかった。


 探索隊の二つ名持ちたちは、またかとばかりに苦笑を浮かべている。

 とはいえ、彼らのリーダーへと向けられている感情は、好意的なものだった。


「暑苦しいぜ、リーダー」


 窪田さんが茶化して、みんなが笑う。


 これが普段の彼らのやりとりなのだろう。


「悪かったな、暑苦しくて」


 中嶋さんも苦笑して、肩をすくめた。


 改めて、その目がこちらに向けられる。


「とにかく、そういうわけでおれはお前の味方だよ、真島。だから、これからも辺境伯のことに限らず、協調していければいいと思ってる」

「それは……ありがとうございます。そう言ってもらえると、心強いです」


 こちらから言わなければならないと思っていたことも、言ってくれた。

 予想以上の感触だ。


 これならば、探索隊とは友好な関係を保っていけそうだった。


 そうなると当然、話は特定の方向へと流れていく。


「そういえば、真島は探索隊に合流するって話が出てるんだよな」


 言い出したのは窪田さんだった。


「島津が熱心に話を進めてただろう。署名まで集めてたよな」

「ええ」


 話を振られると、島津さんは頷いた。


「あれ、どうなったんだ」

「現時点で六割同意が得られているよ。このぶんだと、七割八割もすぐだろうね」

「ほう。そりゃすごい」

「わたしだけの手柄じゃないよ。実際、真島たちを迎えに帝都を離れた時点では、まだ三割くらいだったし」

「ふうん。ある程度、名前が集まったから考えを変えたやつもいたってことかね。それじゃ、これで真島もおれたちの探索隊の一員になるわけか」

「いや。それはまだわからないけど」


 先走る窪田さんの言葉を、島津さんは否定した。


「それは真島次第」

「……そうなのか?」


 窪田さんが意外そうな顔をした。


「え? だけど、なんでまた。合流すればいいだろ」

「真島さんにだって、アケルでの生活があるでしょう」


 と、口を挟んだのは栗山さんだった。


「ま。別に、合流しなければいけないわけじゃないしな」


 中嶋さんも言う。


「これまでだって離れていった連中はいただろう。おれは個人の意思を尊重するよ」

「まあ、お前はそういうやつだよな」

「もちろん、合流するというならおれは歓迎する」


 ここで、中嶋さんはこちらに水を向けた。


「それで、どうなんだ?」


 眼差しに期待の色があった。


 意思を尊重するというのは確かなのだろう。

 それはそれとして、合流してほしいという気持ちはあるらしい。


 全員分の視線がこちらに向いている。


 答えを求められている。


 探索隊とは接触した。感触は得た。

 判断材料は十分だろうか。


「おれは……」


 数秒考えてから、おれは言いかけて――その直前に、部屋の扉が音を立てて開いた。


 大きく開け放たれた扉の向こうに、全員の視線が向けられる。


「ちょっと待ってほしいっす」


 険しい表情をした御手洗葵が、その視線を受けとめていた。


◆前回の更新時、変なタイミングになってしまいましたが、改めて。


飯野と工藤が表紙を飾る11巻が発売になりました。

ウェブ版ともども、応援いただければさいわいです。


それに伴い、新規のキャラデザについて活動報告にあげています。


(※ 前回の更新で「キャラデザが活動報告にあります」と更新当初書いてありましたが、

ミスでの更新だったため、あの時点では、まだキャラデザを活動報告にあげていませんでした。

意味不明な状態になってしまっていました……。)


ちなみに、キャラデザは、ドーラと『竜人』神宮司になります。



◆あと3回、更新します。一気にいきますよー。

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