最終話 エピローグ
僕と太一と優太。
高校から学生バンドを組んでいて、大学まで続けていた。
しかしそろそろ就職活動に力を入れなくてはならない時期に来ていて、なし崩しに解散するより、思い出に残るライブをやってスッパリ解散しようということになった。
それで決まったのが本物のライブハウスでの演奏だ。
なんでも太一の叔父さんがハウスのオーナーなので、特別にチケットノルマなしに一曲だけ演奏させてもらえることになったのだ。
だけど場所はかなり離れているので車で出張ってきたのだけど。
その途中に謎のドライブインに迷い込んで、不思議体験をして――
というのが、僕らの経験したことだ。
いや不思議体験は僕だけか。他二人はただ眠り込んでいただけらしい。
まぁともかく目的のライブハウスに無事到着。けっこうギリギリだったんで、慌ただしく準備をしてスタンバイ。
「やれやれ間に合ったのはいいが、リハもなしに本番たぁな」
「おまけに観客エリアはガラガラ。卒業ライブにしちゃ、さみしいこったぜ」
「ま、しかたねぇさ。俺らのライブはいわゆる『トイレタイム』だ。この後のビッグネーム前の骨休めみたいに思われてるらしいからな」
「だよなぁ。じつはおいらも、この後のミッシィポリスが楽しみだったりする」
「あーそうだった。ミッシィの前座だって思ったら、急に緊張してきた。冷や汗がぁ」
とまぁ太一と優太はいつも通り。ずいぶん長いことアメリアだった僕には懐かしく思える。
「数志、ボーカルのお前は大丈夫か? ちゃんと声出せるか?」
「ん? ああ、平気だよ。なにしろ僕はレオナルド・シルヴァリオとライブ対決した男だからね。夢の中で」
「おいおい、なんだそりゃ。夢とはいえ対決になンのかよ。どんだけ実力盛ったキャラになってたんだ、お前は」
「金髪ガールキャラだった。でっかいライオンの上に乗りながらギター弾いて、でっかい山羊の中にいるシルヴァリオと勝負したなぁ」
「なんだ、そのワケわからん夢は。まぁ緊張してないなら、それでいい。どうせ最後だ。悔いが残らないよう全力でやれ」
『最後』か。そう思って弾くのは三度目だな。
最初はシルヴァリオとの勝負。
二度めはアイオライドローアとの戦い。
どちらもこの後に命はないと思ったな。すべてを出し切るつもりで弾いた。
………うん、あの時を思いだして弾こうかな。
バッシュノード、君の声には及ばないけど。
それでも、君の雄叫びのようにギターを鳴かそう。
ガラガラな観客エリア。それでも四、五人は興味か残ってくれている。
この人たちに聞かせよう。別の世界で経験したすべてを。
「音楽が好きなモンどうしが集まって、好きだけでやってきました。この後僕らは解散しますが、最後にこのライブハウスで演奏させてもらって幸せです。どうか聞いてください」
MCを終えて僕らの演奏をはじめる。たった一曲だけ作ったオリジナルだ。
ジャーーーンジャカジャラーーン♪
曲が始まったってのに、相変わらず観客たちはスマホ見たり仲間内でしゃべったりだ。
ちょっとだけ腹がたってきた。カマしてやろう。
かつての相棒。バッシュノードばりの雄叫びで……
ウオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!
――!?
信じられない叫びが出た。
ライブハウス全体を揺らし、観客すべてを黙らせ意識をこちらに向けさせるほどの。
まるでバッシュノードの『獅子の咆哮』のような…………
ハッ! もしやこれが、ゾディファナーザの言っていた『力の一部』が僕に宿っているということか?
ヤバイ。後ろのふたりの演奏がおぼつかなくなっている。
こうなりゃ、僕が引っ張っていくしかない。全力で!
ギャギャーーンギャリリィーー♪
シルヴァリオと張り合って身につけた渾身のギタープレイ。
指を止めたら即死、崖っぷちそのものの極限状態で弾いただけあって、引き裂くような音を奏でる。
それに被せるようにライオンヴォイス。観客を震わす猛獣の雄叫び。
その相乗効果で、まるで地獄のような音になってしまった。
ああっ、人が………!
人がどんどん集まってくる!
さっきまでガラガラだった観客エリアに押し合うように人が殺到しはじめている!
僕らの演奏を食い入るように見ている!
なんだ、こんな光景は初めてだぞ。
大学の仲間内で、それなりにやっていただけだったのに。
こんな大きなハコのライブハウスで観客集めちゃっていいの?
くそっ、どうなるか分からないけど、とにかくやり切るしかない!
ギャギャギャギャアギャーーン♪
はぁはぁ、やり切った。
あとは決められたMCをやって退場だ。
「つたない演奏を聞いてくれてありがとうございました。おかげで最高の思い出になりました。次はお待ちかね、当ハウスでも人気急上昇中の『ミッシィポリス』さんです。みんな集まれー………」
いや、これ以上ないくらいすでに集まっているよな。この場合なんて言えば……
いやいや、僕たちの出番は終わりだ。余計なことは考えず、さっさと撤収しよう。
――「アンコール!」
――「アンコール!」
――「アンコール!」
オッオッオッオッオ オオオオオオオオオン
アンコ-ルなんてあるか! オリジナルは一曲しかないのに!
――「これで終わり? ウソだろ!」
――「あのボイス、まじヤバすぎ!」
――「もう一度聞かせてくれええええ!」
そそくさ、逃げるようにステージから撤収した僕たち。
次の出番のミッシィポリスさんたちの放心したような顔が忘れられない。
ヤバいくらいアウェイな空気にしてゴメンナサイ。
「数志、なんだよあの声、あのギター!」
「直前のスタジオ練じゃ、あんな声もギターも出せてなかったろ。どうしちまったんだよ!」
「いやだから、夢の中でシルヴァリオとギター勝負しているうちに、ああなったんだって!」
「ぐぐっ、そんなたわ言を信じなければならんというのか。俺のアタマが狂う」
「ま、まぁ、これで僕らのバンドは終わりだし。思い出に残る卒業ライブということで」
だがしかし――
僕だけ卒業しなかった。いや、させてもらえなかった。
この日のアンコールがあまりに異常なまでに激しかったため、何度もこのハウスに呼ばれてはライオンボイスで歌いまくり。
やがてプロ志望のグループにスカウトされて。
わずか一ヶ月でプロデビュー。
一年目には全国ツアー。二年目には国内ヒットチャート上位。
そして三年目には海外ツアーまでするようになってしまった。
「あれは夢だったのかなぁ……」
スマホでまたソルリーブラを視て思い返す。
それを見れば、いつもみんなはそこに居る。
「なんだ、またソルリーブラの世界に行ってたって話か。俺にしちゃ変なドライブインに迷い込んぢまったってだけの話だがよ」
時は経って、今はトッププロのギターボーカルになった僕とそのマネージャーになった太一。
何度も何度も、あの日起こったことを話した。
「うん、でもライオンボイスなんて出せるようになったんだから。やっぱりただの夢とは思えないんだよね」
「思い込みが人を変えるなんて話はあるだろ。異世界ならワンチャン真実の可能性もあるがよ。アニメ世界だぞ。日本もアメリカも中国もある。それにレオナルド・シルヴァリオまでいるって、そりゃ夢に決まってんだろ」
レオナルド・シルヴァリオはあれから数日後に死亡した。
死因はあまりに激しいプレイをしての心臓マヒだというが、あの世界のことが関係しているのかないのか。真実は闇の中だ。
「だよね。でも…………」
やっぱり僕は信じたい。
暁斗もレイラさんも桜庭さんも、どこか別の世界に生きていて。
壊れた世界を復活させるために、がんばって生きているんだって。
だから歌う。届かなくても、知られなくても。
共に戦いをくぐり抜けた戦友のために。
散った敵の哀悼のために。
ここじゃない世界のどこかに、彼らはたしかに居たことを信じて。
「行こうか。今日もギンギンにブチかましてやる」
ギターをたずさえ、威風堂々ステージに僕は向かうのだった。
了
短い間でしたが、ご愛読ありがとうございました。
この話の設定を考えたのはファイナルファンタジータクティクスのルカビィからです。
十二宮の怪物たちが聖石に閉じ込められているってのが、まんまですね。
あれって半分くらいしか出てこないので、全部を出してみたいと思ったのが、この話を書いたきっかけです。




