28話 米軍からの来訪者
あの海上決戦から二週間。
九十九里浜海岸に集めた最精鋭を失った上層部は大慌てらしい。しかも目標だったミランダは取り逃がしちゃったし。
そしてレイラさんは、あの時メフィストのやつとどんな話をしたのか話してくれない。その内容を話してくれるには、もう少し時間がかかるかもしれないね。
上は毎日会議だし、ボクらはメイの葬式を終えたらやる事がないし。
なので休暇をもらったボクは、エレキギターを買いに暁斗に楽器店に連れていってもらった。
そう。元のボクは大のギター好き。また元の体と世界に戻れる兆しもないのだから、これがないと毎日やってられないからね。
ギュィーン ギュギュギュ キュイーン♬
楽器店で選んだギターで軽く試奏。
体と世界が違っても、この奏でる音だけは変わらない。
うーん、やっと元の自分に戻った感じだ。
暁斗もボクの腕前に感心している。
「大した腕前だな。ブラゾに居たころからギターを弾いていたのか?」
「え、ええ。まぁ、そんなところです」
「じつは俺もドラム叩くのが趣味なんだ。明日スタジオ借りて合わせないか?」
「いいですねぇ。帰ったらやる曲を選びましょう」
帰り道、メチャクチャ話が弾んだ。暁斗とフラグめいたものを建てた気がする。
このまま音楽を通じて仲良くなっていくと、最終回あたりに恋人になってしまうのでは……いや、ソルリーブラは恋愛モノじゃないけどさ。
しかし、とうとう沈黙していた何かが動き出してしまった。
マンションに帰宅するなり、桜庭さん自らがボクらのところに来て告げた。
「戻ったか。休暇中スマンが、談話室に来てくれ。君らに面会希望のお客が来ている」
「客……ですか。もしかして面倒な人だったりします?」
「なぜそう思うのかね?」
「桜庭教官の顔がひどく疲れて見えますので。もしかしてスコーピオン暗殺作戦の失敗に関係あります?」
「まぁ任務の失敗より、双方国防の重要な押えである精鋭部隊を失ったのだからな。関係者はみな、これまで通りとはいかんよ。犠牲者の親族もな」
「で、お客ってのはどちらです。部隊関係者? それとも親族?」
「両方だ。米軍の元作戦指揮官かつ息子が部隊隊員だったジョアン・ミゲル氏だ。ミゲル氏は元スコーピオン排除作戦担当者であり、自身が教導して育て上げた精鋭部隊をすべて九十九里浜で失った。隊員の一人であった息子もな」
き、気の毒すぎる……! そんな人の相手をしてたら、そりゃあそんな顔にもなるよ。相手したくないなぁ。
「そんな人がどうしてボクたちに? サクラモリのただの下っぱですよ」
「ただの、ではないだろう。世界に甚大な被害を出している星宮獣を三体も撃破したのだ。テロリストとして名高いアブロディ・ティーチとデスバランも排除した。米国特殊部隊の出来なかったことを、君らはやってのけたのだよ」
嗚呼。そりゃ、米国の特殊部隊関係者には面白くないよね。妬みやっかみの炎をメラメラ燃やしてそうだ。ますます会いたくないなぁ。
「まぁ、詳しいことは面談して聞いてくれ。ミゲル氏は君らに、とくにアメリア君にはすごく会いたがっている。重要な政治カードを切るくらいにはな」
さらにさらに会いたくねぇ! 今すぐ逃げ出して公園でギターをかき鳴らしたい気分だ!
桜庭さんに連れられ談話室で待っていたのは、髪ははボサボサ。ヨレヨレのコートを羽織った、目だけがやけにスルドイ外国人の爺さんだった。
なんなんだ、このうらぶれたオヤジは。元軍人の偉い人らしいけど、目以外はぜんぜんそうには見えない。
「やぁ、君らがウワサの英雄君たちか。わが合衆国と世界に甚大な被害をもたらしたデスバラン、アブロディ・ティーチを連続で葬ってくれたという」
「は、はぁ。運にめぐまれ世界秩序の貢献に役立てたことは、大変ありがたいと感じています」
とりあえず暁斗が当たり障りない言葉で挨拶。このまま良い雰囲気の会話で終わってくれ……と願うも、この爺さんはそんな面倒ない人間ではなかった。
「それに引き換え、私の教え子らは恥ずかしい限りだ。少なくない国家予算をつぎこんで育成したにも関わらず、何の成果も残せず消えていった。私のキャリアもそこでお終いだ」
そんな告白聞かせないでくれないかな。『お気の毒さま』って言葉を修飾語で思いっきり飾りたてて、お悔やみ言わなきゃなんないだろ。苦手なんだよ。
「ミゲルさん、任務で命を落とした隊員を愚弄するのはいかがかと思いますが。ましてやあなたの教え子だったのでしょう?」
「ああ、悲しいとも。悔しいとも。そのうちの一人はわが息子だ。しかし私の悲しみなどで国が守れるかね? 大勢の国民に安全をもたらせるかね? 結果を出せなければ、命懸けの訓練も鍛えた肉体もすべてが無意味だ!」
暁斗、ヤケになったオヤジはデリケートなんだ。ヘタなキレイ事なんか言わない方がいいよ。
とにかく早くこのヤケクソオヤジから解放されたい。
ボクはギターを弾きたいんだ!
「それでミゲルさん。ボクたちに何のご用なのでしょう。かなりの熱意をもって面会を希望されたと聞きますが、それだけのご用があるのでしょうか?」
「ふふん。まぁ、こうして会って話をするというのが用といえば用だな。本当にただの子供だな。そう言うほかないな」
ブッ殺すぞ、ヤケクソオヤジ!!
「はい、ただの子供です。ほかにご用が無ければ失礼させていただきたいのですが。ボクたちも忙しい身ですので」
買ったばかりのギターをかき鳴らすとか、暁斗とスタジオに行くとか、こっちで弾き語りデビューするとか。
「そうかそうか、英雄様ともなれば忙しい身なのだね。元無能指揮官の暇つぶしにつき合わせて悪かったね」
まったくだ。全部許してやるから、さっさと解放してくれ。
「じゃあ、そろそろ本題に入ろうか」
本気で殺す! このジジィは生かしておけない!!
「これは合衆国政府からの協力要請。君らにとっては次の任務だな。サクラバ、私から話をするが構わんかね?」
「ええ。この際ですから、ここで話しておきましょう。ミスター・ミゲル、お願いします」
心なしか、爺さんに威厳めいたものが出た。
「先日ホワイトハウスに脅迫してきた者がいる。”人民を蹂躙する愚かな大統領は即刻退任せよ。聞きいられない場合、アメリカは地獄と化すだろう”とな」
おや? ちょっと危険なカホリのする話に?
「ずいぶん大胆な真似をする奴ですね。誰です、そいつは」
「その名は【ヘルマスク】。革命家を名乗る恐るべきテロリストだ」




