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26話 暁斗の戦い【暁斗視点】

 「レイラさん!」


 メフィストを模した姿の巨人星宮獣セバイラヴィッシュは、片腕を落とされながらもレイラさんの操るベーネダリアの腹を貫いた。


 止まる聖なる調べ(サンタリカ)

 それとともにアメリアは気を失い、俺は彼女を抱きしめて支える。


 だけど向こうでは、ベーネダリアが崩れて落ちてゆく。

 糞、このままレイラさんとベーネダリアは海中に沈んでしまうのか!?


 「がんばって、ベーネダリア! マギアの聖骸布(せいがいふ)!」


 ギュウウンッ


 ひん死のベーネダリアの衣服から布が伸びて舞う。

 それはセバイラヴィッシュの体に絡みつき、落下を防いだ。


 「負けない! メイのためにも」


 「レイラさん、やった!」


 レイラさんは、どうにか終わりを数秒だけ遅らせることが出来た。

 だけどベーネダリアは腹を貫かれて、完全破壊寸前。


 セバイラヴィッシュは片腕を落とされてパワーが落ちているとはいえ、マギアの聖骸布の拘束を破るのは、さほど時間はかからないだろう。


 ここで俺が支援に向かわなけりゃ、レイラさんはメフィストの野郎にトドメを刺されちまう。


 当然、俺はソーサーを動きの拘束されているセバイラヴィッシュへと飛ばす……飛ばそうとした。しかし――


 「……くっ、お前も来たか! ミランダ」


 「おおう、来てやったで! 今度はウチとも遊んでくれや、暁斗クン」


 残念ながらフリーになったギルスレインがこちらに向かって迫ってきやがった。

 だがアイツは最強の武器である尾棘を失っている。

 今のアイツなら、ソーサー部分しかないプラーナキアでも倒せる!


 「針も尻尾もない蠍なんか恐くはないぞ、ミランダ!」


 セバイラヴィッシュに向けかけたソーサーを、ギルスレインへ向けて放つ。


 「はっ、アホか。バフでようやく互角やったのに、それが無くなった今も戦えるつもりかい!」


 ギルスレインは飛ばしたソーサーを軽々片手で弾き飛ばした。

 しまった。四十メートル級に巨大化した星宮獣を二十メートル級のソーサーで戦えたのは、ベーネダリアの聖なる調べ(サンタリカ)のおかげだ。

 それが消失した今、単純にパワー負けするのは当然だった。


 「くっそぉぉぉ!」


 乗っているソーサーを素早く移動させ、ギルスレインの突撃をかわす。

 気絶しているアメリアが振り落とされないよう、強く抱きしめながら。


 こうなっては、レイラさんの助けに行くどころではない。

 ギルスレインの牽制をしながら、アメリアの復活を待つしかないのか。


 ギュウンッ ギュオオオッ ビュンビュビュンッ


 ギルスレインの攻撃をかわしつつ、肩に乗るミランダへ攻撃をしかける。

 されど二倍のサイズ差はやはり圧倒的。


 向こうはソーサーを軽く受けてはじき返せるのに対し、こちらは一撃もらえば即ジ・エンド。

 まるで薄氷を踏むかのような攻防だ。


 ギュルルルルルッ ギュオンッギュオンッ ビュオオオッ


 糞っ、キツい。

 向こうでメフィストの相手をしているレイラさんはどうなった? 


 まだ、もっているのか。それとも……

 なにかないのか? 逆転できる一手が!


 ピタリ


 「!?」


 「がんばるやないか。その根性、気に入ったで」


 なにを思ったのか、ミランダはギルスレインを止めてそう言った。


 「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……」


 思わぬ休憩に息を荒げて呼吸する。ずいぶん酸素を吸っていなかったんだな。


 「でもなぁ、無駄やで」


 「ハァ……なに?」


 「アブロのやつ、ライオンちゃんの料理が終わったようや。見てみぃ、あの凪の海を」


 ミランダの言う通り、さっきまで竜巻の渦巻いていた海はシンと凪いで静まり返っていた。されどその静寂は殺気をはらむもの。


 アブロディがビークレザロを駆ってこちらの戦闘に介入してきたならどうなる?

 たちまちに俺たちの運命は決まってしまう。

 今でさえギリギリ命を保っている状態だというのに。


 「さぁて、どうする? 命乞いすんなら聞かないこともないけどなぁ」


 「…………しない。お前の命だけでも、もらってゆく」


 アメリアの小さな体をギュッと抱きしめる。

 悪いなアメリア。やっぱ悪党に頭下げられねぇよ。

 道連れにしちまう俺を許してくれ。


 「……そっか。暁斗はん、けっこう好みなんやけどな。ま、いい男は早死にするもんやしな」


 「なんだ、本気だったのか。ただのブラフかと思ったぜ」


 「なら、気ィ変わったか?」


 「まさか。覚悟はとうに完了している」


 「ははっ、そうやろな。じゃ、ラストダンス、踊ろうかい」


 「ああ!」


 ふたたびミランダとの間に緊張が走る。

 ここからまた呼吸する間すらない高速ダンスのはじまりだ。


 だけど妙な感覚だ。ミランダはまぎれもなく許せぬ悪党。

 なのに奇妙な友情めいたものを感じる。


 「いくぜ、アメリア…………うっ!?」


 最後にと、その顔をあおぎ見た彼女。

 だがアメリアの目は、なんと開いていた。


 無言で虚空をみつめる目。今彼女はなにを想っている?

 絶望か、それとも放心してるのか。


 「……シュ」


 「え?」


 微かなつぶやき。

 だけどたしかな意思をはらんだ言葉が、彼女の口から聞こえた。


 「バッシュ……ノード……」


 「アメリア、バッシュノードはもう………」


 ドンッ

 アメリアは俺を突き飛ばし立ち上がった。そして叫ぶ。


 「目を覚ませ! 撃て、破壊光線を!!」


 その叫びに呼応するかのように――


 ドッゴオオオオオオオオオ!!!


 海原の一角から巨大な水蒸気爆発が起こった。

 誰しもその光景に見入った。動くことすら忘れて。


 「まさか……」


 白い水煙はたちまちに辺りを覆い尽くす。

 それは視界を白一色に染めあげる。


 まさに獅子の咆哮。

 轟いたそれは、すべての戦局を覆すはじまりの雄叫びであった。

 




 アメリア復活!

 自分のはじまりを見た彼女は、戦局になにをもたらす?

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