第八十五話 ニオ、着せ替え人形にされる。(1)
「……」
「……」
要塞建設予定地から町に戻り、ベルクとツキウミとイースラと別れた俺とアエカは、城塞への帰路についていた。
先ほどからの沈黙は、たぶん商店街を歩いているからだろう……。
「……ニオさま」
「はい」
「なぜ素通りしようとしているのですか?」
「じょ、城塞に戻り、衛兵隊の配備計画を見直そうと」
「そうではありませんよね? 盗賊団の一件からすでに十日、服と下着を新たに購入すると言ってから、もう十日も過ぎてしまったのですよ?」
「そ、それは、だって、いい歳のおっさんが、じょ、女性ものの下着を選ぶとか、はっきり言って外聞がよろしくないと思うのだけど!?」
「女の子が自ら履く下着を選んでいる光景は何も問題ありませんが?」
「うっ!? 外面はそうなんだけど……」
「ティコにも話を聞きました。服を洗濯に出されても、下着は一度も見たことがないと。履いたきりなんですか? 臭いままなんですか? くんくん」
「にっ、においを嗅ぐな!? 自分で洗ってるんだ!」
「あっ、美少女のいい香り……。いえそうでなく、ニオさまは恥ずかしがるお人柄でもありませんから、すぐにでも替えの下着を購入しに行きますよ!」
「そんなバカな……!?」
「おバカはニオさまです! また漏ら「うわーっ! わかったーっ!」
意固地になることはないとわかっているけど、なんだろう、自分よりも年下のティコに下着を洗濯してもらうとか、女性用の下着売り場に少女の姿でいる自分とか、どうにも恥ずかしい以外の何ものでもない。
一張羅は汚れたら洗濯に出して、その間は粗末なシュミーズを着て自室に引きこもっていればいい。
ただ、替えがない下着を洗ってしまうと履いていない状態で寝ることになるから、なんとなく落ち着かずに眠りは浅くなる気がするんだ。
だからこそ、も、もも、漏らしても替えがなかったという悲劇に見舞われたわけで、どうにか下着を手に入れなければいけないというのはわかる。
「ぐ……。アエカが買ってきてくれれば、それでいいんだけど……」
すでに貸店舗の半数以上が埋まっている商店街を進み、女性用の服飾店の前までたどり着いても、俺は往生際が悪かった。
「慣れてください」
「オレ、じゃない余を着せ替え人形にしていいから」
「それはしますが、慣れてください」
「する……の……!?」
プレイヤーたちにも何事かと遠巻きにされながら、アエカにぐいぐいと背中を押されて結局は店の中に入ってしまう。
そこはまさに“女の子の園”。
なぜこの店を選んだのかはアエカの趣味としか言いようがなく、店内にはやけにフリフリとしたガーリーファッションが陳列され、商品を手に見ているプレイヤーたちもかわいらしい少女アバターばかり。
「あ、ニオさまだ~。いらっしゃいませ~」
「コケェッ!? う、ううう、うちの店にニオさまですぉっ!?」
「え、ええと……“味噌煮込みうどん定食”と“コッコたそ”だったか……」
店はそこそこの規模で客も十人前後はいるようで、その中から真っ先に声をかけてきたのはすでに知った仲のふたり組だった。
「ニオさまも~、“ミーちゃん”って呼んでくれていいんですよ~」
「コケッ、ニオさまに名前で呼ばれちゃったっはぁと」
ならなんでその名前にした……。
ふたりは相変わらずの癒し系美少女神官と、ガチムチニワトリ頭だ。
ガチムチニワトリ頭は、そのやべー姿でかわいらしく照れている。
だけどよかった、彼女たちのおかげで変な緊張は解けた。
「それで~、本日はどのようなご用件で~?」
「はい。ヒワさんからおふたりが服飾店を営んでいると聞いていたので、今回はニオさまの着替えを見繕ってもらおうかと訪れた次第です」
あれ? 以前ふたりと会ったときにいたのはアイリーンだけど、俺が知らないところでアエカとも面識があるのかな?
「ええ~、うれし~。最高のおもてなしをしますね~」
「コケッ、ニオさま用にとデザインしといて正解でしたぉ。デュフフッ」
「えっと~、それで~、上下一式のコーディネートでよろしいですか~?」
「下着もお願いします。それも一着でなく、そうですね……普段着を十着、下着も十組で見繕ってもらいたいです」
「ええ~、そんなに~!? これは腕が鳴りますね~、うふふ~」
「マッ、ママッ、マッ!? やりたい放題できますぞ~! コケ~ッ!!」
あっ、ぜんぜんまったくもってよろしくないかもしれない。
むしろアエカだけでなく、やべー奴がふたり増えた分だけさらにやばい。
だがしかし、アエカに肩を押さえられたまま、正面からはミーちゃんとコッコたそがにじり寄り、一般客も何事かと周りに寄ってきてしまっている状況。
ニオの体裁を保つ以上は変に取り乱すこともできず、逃げ出したくとも上手い言い訳も思いつかず、このまま着せ替え人形にされることは必定。
こ、こんなかわいらしいガーリーファッションばかりが置いてある店で、大のおっさんが女性に囲まれて着せ替えとか、はっきり言って地獄だ!
他者から見た外面はともかくとして!
「でわ、でわでわでわ~、奥の特別室に一名様ご案内ですよ~」
「もちろん、ニオさまに歩かせるお手間は取らせませんぉ! このためのコッコたそですから、すべてをお任せいただいて構いませんぉコケーッ!」
「――っ!?」
「「「きゃあーーーーっ!!」」」
俺が戸惑っている間にも、有無を言わさずコッコたそにお姫さま抱っこをされた段階で、なぜかギャラリーから黄色い歓声が上がった。
ダメだ、こうなってしまえば逃げようがない。
やべー奴らに囲まれたこのやべー状況、もうやべーしか言えない。
「そ、そう、あまり奮い立たずともよい。あくまで普通の普段着で構わぬから、余に似合うものを見繕ってくれるか?」
「――っ!!」
「――っ!!!」
「「――っ!!!!!」」
俺はあくまでも普通がいいと告げたつもりだけど、ミーちゃんとコッコたそは示し合わせたかのように顔を合わせ、互いにドヤ顔で頷いた。
「コッコちゃん!」
「ミーたそ!」
「「最高のニオさまを演出いたしましょう!」」「コケ~ッ!」
普通! 普通でいいから!
お願い、ふつ……アーーーーーーッ!?




