第八十六話 ニオ、着せ替え人形にされる。(2)
「ブラをしっかり着けたら~、こうしてバスト全体を脇から寄せるように整えて~、きつくもなくゆるくもなくちょうどいい感じになればおっけ~です~」
「ん……んぅぅ……。も、もう少しゆるいほうが……」
「あ、ごめんなさい~。ニオさまのお肌って~、やわらかくてしっとりすべすべしてるから~、つい力が入っちゃうんですよね~」
「んぁ……。あ、あまり抱きつかないで、く、くれないか……」
「でもこうしたほうが説明しやすいので~、うふふ~」
「そ、それなら多少は仕方なんぅっ!? 揉むのはアウトだが!?」
「えへへ~、手が滑りました~」
「くぅっ……」
ミーちゃん、この娘は何事も笑ってごまかすから強敵だ……。
VIP専用の特別室とやらに案内されたあと、俺はすぐに服をひん剥かれ、なぜかブラジャーの着け方を指導されることとなった。
いや意味がわからない。アエカがなにやらごにょごにょと伝えていたせいなのはわかるけど、だとしたらニオの中の人が現実では普段からブラジャーを着けない、“ひょっとしたら男”ともバレかねない相談事だからだ。
だけど、ミーちゃんは特に気にすることなく、うしろから抱きつく形で丁寧に指導をしてくれたから、むしろ俺が背徳感に打ちのめされていた。
女性の中に、下着の少女姿でおっさんがいるのは……大罪です。
「わ~、やっぱりニオさまに似合う~」
「さすがはミーちゃんですね! 黒の生地にストロベリーピンクのフリルは、色素が薄いニオさまにはとてもよくお似合いになります!」
「でしょ~。もちろん、王道の純白で着飾るのもいいけど~、私としては小悪魔なニオさまも見たかったんです~」
「ミーちゃん、本当にグッジョブです! ユグドウェルの人間国宝に指定したいくらいに、そのセンスがニオさまを最高に輝かせていますぐ噴水広場に飾りつけたいほどっ! あっ、でもそうするとまた変な輩にも目をつけられるのは確実ですから、とてもとても悩ましいですねっ!」
「えへへ~、アエカさま褒めすぎだよ~。たしかにニオさまは最高の最強にかわいいけど~、その魅力を引き出すにはまだまだ~」
「そんな謙遜せずとも」
「謙遜じゃなくて~、まだまだこれからがあるってこと~」
「それはっ! 期待をせずにはいられませんっ!」
「……」
下着姿の少女を取り囲んでもてはやす君たちも、その“変な輩”だよ……。
「あ、アエカさま、アダルトな下着もあるんですけど~、どうします~?」
「それはもちろんっ! いますぐに着けてもらいますっ!」
「着けないが!? おまえら、余で着せ替えをするのはやめないか!?」
「ええーっ! さきほど、『着せ替え人形にしていい』と言質を取ったではないですかっ!? いまさらお逃げになるつもりですかっ!?」
「交換条件があったはずだが!? いいから早く服をよこせ!」
「うーっ! しっかりと覚えているんですねっ、ずるいですっ!」
「ずるいのはどっち!?」
状況はもうしっちゃかめっちゃかだ。
俺とアエカが言い合う横で、ミーちゃんが恍惚の表情を浮かべて涎を垂らしているから、この娘もこの娘でやべー奴なのは確定的に明らか。
それもこれも、俺自身が強気に出ているようで、実際は胸元と股間を手で隠して身を縮こませた状態だから、それがよりいっそうそそるのだろう。
だってまじまじと観察されるんだから、隠したくとも隠しようがないこの状況では、自らの手のみを頼りない覆いとするよりないんだ。
「いーやーっ! 着替え途中の美少女を公然と堪能できるこんな機会なんてまずないんですからーっ! 普段からいっぱいがんばっている私にもっと施しを与えてくれてもいいではないですかーっ!」
「わーっ!? きゅ、急に駄々をこねるなっ!? 子どもかっ!?」
しかもこのパッと見は淑女、人前で煩悩がだだ漏れである。
アエカは俺の腰にしがみつき、駄々をこねているようでむき出しのお腹に頬ずりをしているから、まったく油断のできないしっかり者だ。
「おふたりのやり取りを見ていたら興奮してきました~、私も~」
「わっ!? ミーちゃんまで……んにゅっ!? む、胸はダメェっ!?」
「少しだけ~、少しだけですから~、すりすり~」
「はぅっ!? んやぁっ、そんなにしないでぇ……やんっ……」
腰にしがみつくアエカ、胸に頬ずりをするミーちゃん。
両者ともに絶妙な刺激を、それも生肌に直接与えてくるから、ほんの一瞬で体からは力が抜け、俺は必死に耐えるだけの状態とされてしまった。
こ、このニオの体が、妙に感度がよすぎるせいだ……。
「ん、あ……んはっ……。ほんとにっ、やめ……んぅっ……!」
「デュフッ、このような場面に相まみえようとは、役得ですぉ……」
そんな、間もなく落とされそうという時に、部屋を仕切るカーテンの隙間からこちらを覗いていたコッコたそと目が合う。
彼女は服を取ってくると席を外していたから、少しの間いなかったんだ。
「コッコたそ……助けてっ……!」
「百合に介入するなぞ、許されざる罪業ですぉ……」
「それはっ、ちょっかいをかけるのが男の場合でんはっ……そっ、そなたは女性なのだからんぅ……もっ、問題ないであろうっ! はぅぅっ!?」
そ、それに本質的には百合ではない……!
「ニオさま、コッコたそはわきまえておりますゆえ、録画はせずに心のメモリアルページに焼きつけるのみ……大丈夫ですぉ!」
「なにがっ!?」
「コッコたそのことは気にせず、堪能してくださいですぉ! コケ~ッ!」
「いーーーーやーーーーーーーーーーーーっ!!」
頼みの綱(?)はカーテンの向こうに身を潜め、もはや野獣と化したふたりを止められるのは自分自身しかいなくなってしまった。
せっかく整えられたブラジャーはすっかり肩紐が外れ、パ、パンツまでずり落ちてきているから、早く我を失った獣どもを止めなければならない。
そ、それどころか、下腹部を刺激されているせいで尿意まで感じるようになっているから、ここで落ちたらまた漏らしかねない緊急事態だ。
「くっ、うぅっ……。そなたらっ、いい加減にっ……」
「はぁはぁ……。ニオさまのお腹の上で一生過ごせます……」
「ひゃあんっ!? おへそはっ、ダメッ……」
「ふわわ~、マシュマロもち肌~、これは人をダメにする~」
「はぁんっ!? もうっ、刺激しないでぇっ……」
はっ!? 相手のペースに飲まれては、いけない……!
ここはもうガツンと、ニオの腕力に物を言わせて力づくで……!
「ニオさまーっ! もっと食べるーっ、はむぅっ!」
「ニオさま~っ! うちの娘になってほし~っ!」
「ぎゃーーーーーーーーーーーーっ!!」
そんなわけで、抵抗(?)もむなしく押し倒されました。




