第八十一話 連携スキル!
「ニオたぁ~ん」
ひぃぃっ!?
俺とディーは追い立てられ、すでに部屋の三方を取り囲まれている。
システムの制約があるプレイヤーと違うのは、NPCである彼らにはハラスメント対策によるスタンショックが効かないということ。
つまり、彼らの言動から捕まってしまえばまわされるのは確実。こ、こんなところで、女性として孕ませられるなんてことが、あ、あるのか……?
確証を得られないまま、自分の中では現実だと認識した≪星霊樹の世界≫だけど、い、いまばかりはゲームだと思いたい……。
くっ、プロトンめ……なんて置き土産を……。
「こいつら、正気を失ってやがる。姫さんは逃げろ、ここはなんとかする」
「に、逃げろというても……この手の場合の輩は、筋力の制限が取り払われ捕まってしまえば振り払えないのが定石ぞ……」
「どこの定石かは知らんが、ならこの状況をどうする?」
「ど、どうするって……」
どど、どうしよう……?
逃げるために押しのけようとしても、本当に筋力リミッターが外れていて、その瞬間に手籠めにされる可能性がある。
初動で窓際に逃げればよかったんだけど、呆気に取られてまっすぐにあとずさってしまったのも悪手だった。
そのせいでいまは三方を囲まれているわけで、痩せこけた農民たちが下卑た笑みを浮かべながらジリジリと距離を詰めてくる状況だ。
で、できれば怪我をさせたくないけど、やらねば確実にやられる……。
「えへへぇ、ニオたぁん」
「ええいっ! 近寄るなっ!」
一歩を踏みだそうとした農民に向かい、俺は特大剣を振るった。
当てにいったわけでなく空を斬っただけだけど、さすがにこちらが刃物を持っているからか、そのひと振りで全員の前進が止まる。
こ、こうなったら一か八か、あれをやってみるしかない……。
あれとはつまり――
≪柔軟性向上≫+≪装甲武器≫+≪千陣破断≫=?
まだ試してすらいないけど、俺の想定では軟らかくなった特大剣による広範囲薙ぎ払いが可能となるはず……?
さらには、特大剣の側面を当てることで殺さず、より多くに光焔属性の混沌特攻を伝搬させてついでに瘴気も浄化、だったらいいな……。
「ディー、余が行動に出たら伏せろ。プランAだ」
「プランAがなんだかわからんが、わかった」
「巻き込まれるなよ……!」
ちなみに、プランBは「ねぇよそんなもん」と言いたいところだけど、“アエカたちが来るまで特大剣を振り回して近寄らせない”だ。
「ニオたぁん、いますぐ気持ちよくしてやるべなあ」
「絶対にごめんだ……! ≪装甲武器≫!!」
まずは光焔属性を付与し、続いて音声認識でスキルを発動させる。
いつもどおり、剣身が発光して光焔を帯びたのはわかるけど、ぱっと見では≪装甲武器≫が効果を発揮しているのかはよくわからない。
「その物騒なもんを置いておとなしくするだあ、やさしくするからなあ」
「ギンギンの股間を見せられて、素直におとなしくするか!」
いやもう四十二人分が天を衝く勢いで、心の平穏のためにもちょん切ってしまいたいけど、俺自身が考えただけでもキューンとなるからダメ。
そうして、お互いに牽制し合いジリジリと詰め寄っていく。
「聞き分けのない娘じゃあ! 皆の衆、やってしまえぇっ!」
「「「よいやさーーーーーーーーーーーーっ!!」」」
「バカどもが……!! ≪千陣破断≫!!」
≪千陣破断≫――対複数戦線突破用の広範囲攻撃スキル。
まさにいまの状況を打開するための性能だけど、本気で振るっては全員が胴を真っ二つにされて絶命してしまうから、剣の側面を使って強当てする。
さらに≪装甲武器≫で≪柔軟性向上≫を付与すれば、ニオの筋力ではひと塊になって吹き飛ばすところを、筆で撫でる程度になるのではないか。
か、完璧な組み合わせだ……!
まるで予見していたかのような、定められた運命……!
これこそが頭上に戴く星霊樹の恩寵……!
「おらああぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ああっ? あ、あ……? あっ……」
「え?」
「「「え?」」」
そうして、勢いよく特大剣を振り回した瞬間、床に伏せたディーも、取り囲む農民たちも、行使した自分ですらも目が点になった。
「え、ええ……?」
特大剣が、思っていた以上に軟らかくなった特大剣が、農民たちをやさし~く撫でたあと、まさかの勢いがつきすぎて自分自身の体に巻きついた。
そうなのである、特大剣ですまきにされてしまったのである。
「お、おい……姫さん……」
「わ、わかっておる……。何も言うな、ディー……」
正気を失った農民たちの前で自ら緊縛プレイとか、ありえない……。
だ、だけど、こここっ、このくらいなら想定の範囲内なんだからっ……!
むむむ、むしろっ、これなら鞭として使えば大怪我を負わせなくて済むっ!
た、たしか、テレビで見た鞭使いも、こんな感じで手元を引いて……。
「ふんっ!」
あくまでも拘束を解くためだった。あくまでも拘束を解くために、勢いよく柄を引いてみたところ、なんだかビリビリと布のようなものが破ける音がした。
「……」
「……」
「「「……」」」
「裸祭りじゃああああああああああああっ!!」
「「「いぇああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」」」
「ふぇええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?!!?」
特大剣の拘束が解けると同時に破けたのはニオの服!
強く引っ張ったことで引っかけてしまったのか、ただでさえ背中が広く空いていたホルターネックワンピースが、無残にも斬り裂かれてしまった!
完全に真っ裸というわけではないけど、さらに広く大きく露出した肌に農民たちは歓声を上げ、咄嗟に晒された胸を隠してへたり込むと、自分の意思とは関係なくじんわりと涙と感情がこみ上げてくる。
「う……ううう……。うぇ……うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ……」
あふれ出した涙が止まらない……。
これが、あられもない姿を晒した女の子の感情……。
あとはこのまま……勢いづいた暴徒どもにいいようにされて……。
「何を……いったい何を……しているのですか……?」
だがしかし、唐突に現れた鬼神によってすべての蛮行は止められた……。




