第七十一話 メンタルダメージ!
――ユグドウェル城塞、談話室。
盗賊団の追撃に戻るといういっちゃん一等兵たちと別れたあと、俺とアイリーンはツキウミとも合流して城塞に戻ってきていた。
いまはアエカを待っていて、ベルクのログインも夕方以降、イースラにいたっては商隊の護衛から今朝戻ってきたばかりのため、自宅で仮眠中。
「う~ん、甘いものが身に沁みる……」
「ほんとにあま~いですぅ」
そんな状況で、俺とツキウミはとりあえず机に並んで昼食を食べているけど、実験的にティコに作ってもらったパンケーキがおいしい。
生地は現実のものよりも硬く、それでも最近になって手に入れたはちみつがよく馴染み、むしろパリッとした皮の食感が楽しい久しぶりの甘味だ。
パンケーキ?と問われたらまだ違うとはいえ、少女の身だからかその甘さにはやたらと食欲をそそられ、無我夢中で頬張ってしまうほど。
ヤギミルクからバターと生クリームも作ってもらったかいがあった。
「ニオさま、お口の周りをお拭きしますね♪」
ティコはそう言うとハンカチで丁寧に拭ってくれる。
「ん、んぅぅ……。あ、ありがと……」
ちょ、ちょっと夢中になりすぎたようだ……。
それほどに貴重な甘味は美味だけど、いちおう手を出してみた“養蜂”は、まだ特産品にできるほどのはちみつを生産できていない。
だから、ウォルダーナとなんとか国交を結んで、その辺りの改善が進むような交易品や技術との取り引きを求めたいところ。
ユグドウェルはすでに工業へと舵を切ってしまっているから、自然と共生する“森星王国”には本当に期待をしている。
「ふあぁ、おいしかったぁ~。ティコさん、ごちそうさまぁ」
「はい♪ お粗末さまでした♪」
「お互いに堪能してしまったようだな」
「はいぃ、お腹いっぱいですぅ。料理スキルがあると、お菓子もこんなにおいしく作れるんですねぇ。ボクも取ってみようかなぁ」
エプロン姿で台所に立つツキウミくん、いいですね……。
だけど道を違えてはいけない……彼は男だ。
「カスタマイズ保存機能を利用し、職人ビルドを組んでみるのはどうだ? 一つひとつといちいち組み替えずとも、そのほうが楽であろう」
「あっ、そうでしたぁ。町中用のカスタマイズも考えよぉ」
ツキウミはうきうきとした様子でレリックのカスタマイズをはじめる。
俺も追従してカスタマイズがしたいけど、専用特大剣は形状をいじれないし、シードクリスタルも余分な物はないしと、現状では完結していた。
とはいえ、予期せず解放された地下水道三層ではシードクリスタルのドロップ率が上がっているらしいので、どこかのタイミングで掘りに行きたい。
「そいえば、アエカさん遅いですねぇ?」
「ああ、すでにログインはしておるみたいだぞ?」
「ほんとだ、フレリストに上がってましたぁ。えとぉ、地下ですねぇ?」
「うむ、地下だな……?」
アエカのフレンドリストの表示は城塞の地下になっている。
いつもなら真っ先に来るはずなのに、いったいどうしたのか。
「……あ、ポジションを転向するという話だから、地下の練武場で新たなレリックの確認をしておるのやもしれぬな」
「なるほどぉ。やっぱり銃なんでしょうかぁ?」
「その辺はまだ聞いておらぬが」
「ふむぅ」
ツキウミは興味ありげに“銃”と口にし、この辺はやはり男の子なんだ。
「そういえば、食事中にメールが来ておったな……」
「アエカさんからですかぁ?」
「おそらくは。パンケーキに夢中になりスルーしてしもうた……」
「あは、おいしかったですからねぇ」
取り急ぎ、着信していたメールを確認する。
間違いなくアエカから送られたメールには、律義にも新たなレリックの仕様が記されていて、俺とツキウミは思わず顔を見合わせてしまった。
そのレリックの詳細はこう――。
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≪秀真≫
形状:散弾銃鉾槍
属性:無
物理攻撃力:150
属性攻撃力:0
重さ:5
シードクリスタル スロット数:5/6
≪可変防御≫:レベル3 ≪生命探知≫:レベル2
≪速射連撃≫:レベル1 ≪護盾≫:レベル1 ≪活性化≫:レベル1
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字面からしてもうやっば……。
アエカのレリックは、最初からオーバーテクノロジーな“小銃”だったけど、さらに白兵戦にまで対応可能なカスタマイズとなったようだ。
武器種がてんこ盛りの“散弾銃鉾槍”……。
戦い方を想像すると斬突射と隙がないように思えるけど、その分は動きが複雑化するだろうから、間違いなく使いづらくなるとも容易に想像がつく。
盾まで付いているようだし、無理をしていないといいんだけど……。
「これすごいロマンですねぇ。かっこいいなぁ」
「ん? ツキウミの魔法だとて、余はかっこいいと思うぞ?」
「ボクとしては、格闘ビルドにしたかったんですけど、ヒワちゃんにおだてられて杖を選んじゃったんですよねぇ……」
「な、なぜあやつはツキウミに魔法ビルドを……」
「『皮鎧よりぃ、ローブのほうがかわいいよぉ』って、ヒワちゃんはすぐボクに女装させようとするけど、ボクは男だ!」
「そ、それはそうだな! この手の物にロマンを感じるなぞ、そなたは男の中の男に違いない! わかるぞ……その気持ちよくわかるぞ……!」
「ニオさまぁ、わかってくれるのはニオさまだけですぅっ!」
「わっ、わわっ……!?」
ツキウミは俺の共感に感極まったのか、勢いよく抱きついてきた。
やっ、やわらかいっ! なっ、なんかいい匂いもするっ!
「えへぇ、ニオさまはやわらかくてぇ、甘いはちみつのいい匂いぃ」
「……っ!?!!?」
俺の胸元で顔を上げ、ふにゃりと微笑んだツキウミはかわいい。
いけない……彼は男だ……彼は男だ……彼は男だ……彼は男だ……。
変な衝動が俺を禁断の領域に誘おうとするけど、間違ってもここで魅惑の果実に手を出してしまえば、人として終わってしまいます!
無心だ! 彼は男……彼は男……彼は体だけは美少女アーーーーッ!!
くっ……! 負けるな、俺の日本男児たる自制心……!!
「ボク、毎晩ヒワちゃんの抱き枕にされるより、ニオさまに抱かれたいぃ」
「ごふぅっ!!!!!」
ニオ は メンタル に会心の一撃をくらった!
「ニオさまぁっ!?」




