第七十話 姫さま、自ら盗賊退治へ。
「ん? なんだ?」
ヒワから逃げ出してとりあえず城塞へと戻る途中、北門の様子がなにやら慌ただしく人だかりもできていた。
時刻はまだ昼前だから、プレイヤーが狩りから帰るにはまだ早い。
「掲示板でも動きがあるみたいなのよ。なになに、近隣を騒がせていた盗賊を捕らえたとかで、討伐隊の一団が帰ってきたところなのよ」
「ああ、直接出向かなくて済んだのはよかったな」
「それがちょ~っと様子がおかしいのよ?」
「ん? どういうこと?」
「掲示板に詳細はないから、直接訊いたほうがいいのよ」
「そうするか」
俺とアイリーンは、道すがらでもある衛兵隊詰所に近寄っていく。
周囲には衛兵のほかに十数人のプレイヤーがいるけど、彼らの八割が揃いの軍服もどきを着ているので、所属はすぐにわかった。
「そのように慌ただしく、何かあったのか?」
「ニオ姫さま!」
「今日もちっちゃかわいくて尊い!」
「生アイちゃんって美人すぎね」
「アエカさまと瓜二つだし」
「おふたりとも拝めるわ」
「全隊、敬礼!」
ニオが登場したことで、周囲にいる者の興味はこちらへと移ったけど、その中のひとりが号令を出すと皆一斉に敬礼をした。
「よい、楽にせよ。現状を説明できる者はおるか?」
「はっ! 自分が説明をさせていただくであります!」
「そなたは見覚えがあるぞ。名乗るがよい」
「光栄であります! 自分の名は“いっちゃん一等兵”、“ニオ姫さまがための皇国大隊”に所属する一兵卒であります!」
名前と階級が一緒……? 皇国大隊の皆がそうなのか、彼がもとからそうなのかは訊いてみないことにはわからない。
当のいっちゃん一等兵も揃いの黒い軍服もどきを着て、その中でも凡庸というかなんというか、あえて平均を取ったかのようなキャラメイクだけど、唯一の坊主頭なのでむしろ見分けはつきやすかった。
「いっちゃん一等兵、して何事か?」
「現在は、捕縛した盗賊の一味を衛兵隊に引き渡し中であります!」
その言葉に嘘偽りはなく、いままさに縄で縛られた六人ほどの盗賊を、トーレが先導して詰所内に引っ張っていくところだった。
「ふむ。掲示板を確認したアイリーンから様子がおかしいと報告が上がっておるが、それだけではあるまい?」
「ニオ姫さまのお耳に届いてしまわれましたか! 実を申しますと、盗賊の半数以上と率いる赤ネームは依然として逃走中、さらには人質も取られてしまったため、迂闊には追撃できない事態となっているのであります!」
「ふむ……」
“赤ネーム”とは、プレイヤーやノンプレイヤー、総じて“人”に対する“殺人”を行った者を鑑定すると、名前が赤色で表示されることから。
復活するプレイヤーに対してならゲームで済むものの、それがノンプレイヤーに対してだと、“殺人”という行為は真に迫るものとなってしまう。
そうしたアウトロープレイは特に禁止されていなく、領主や一般プレイヤー側も防備を固めることで自身や町を守ることがロールプレイなため、殺人者だからといって運営が安易に処罰をすることはできない。
当の本人たちからすれば、いわば楽しめる対人戦でしかないんだ。
「人質とは、詳細を教えてもらえるか?」
「はっ! 捕らわれた者は四人、そのうちのひとりがプレイヤー、残り三人がノンプレイヤーという状況であります!」
「四人も捕らわれておるのか……」
赤ネームに四人もの人質……なるほど、厄介だな……。
罪を犯したプレイヤーは、捕らえさえすれば現地の法で裁ける。
つまり、アウトロープレイから囚人プレイへと強制的に落とされるわけだけど、それを覚悟して町の近くで事を起こしているのは、ちょっと理解できない。
スリルを求めているということなのか、なんにしても、平々凡々と日々をのんびり暮らせたらいい俺とは相容れない存在なのはたしかだ。
対峙するなら、覚悟をしなければならない。
「人質の奪還についても、我ら“皇国大隊”の本隊が動いております! お手を煩わせることなく事態を解決にいたらせますので、ニオ姫さまにおかれましては、安心してユグドウェルの発展に専念していただければであります!」
「それは、余としても助かるが……」
事はそれで済む話ではない。
というのも、時を同じくして“ウォルダーナ森星王国”とマップが繋がったから、国交の樹立とワープポータルを設置するために、盗賊が出没しているという地域を抜けて使節団を遣わせようとしていたんだ。
それも、現状で使節団なんて組織できないから、ニオが自ら。
となると話は別で、そんなスリルを求める赤ネームプレイヤーなら最上級の獲物をみすみす逃すはずはなく、俺としてもかち合う腹積もりでいたというわけ。
それに、運営からはもっと暴れろとも言われているし……。
「だが、我こそが“輝竜種の姫”なのだ」
「はっ!?」
「盗賊ごときに後れを取っては名が廃る。そなたらも、余の姿に何かしらの思いを抱いたからこそユグドウェルを訪れたのであろう」
「仰せのとおりであります!」
「ならば余は、そなたらの陣頭に立ち自ら戦場へと征く」
「ニオ……姫さま……!」
「うおぉ……」
「さっすが俺らの姫さま……」
「それでこそ付き従う価値がある……!」
「ニオ姫さまに一生ついていきます……!」
「いつか、そのおみ足で踏んでもらうためにも……!」
「ワ、ワイも、できれば生足で直接……!」
「俺は尻に敷かれたい……生尻で直接……!」
「メェ~! メッ、メェ~~~~~~ッ!」
持ち上げてくれるのはいいけど、なんで途中から変態が混じるんだ。
皇国大隊の連中の中には涙を流す者までいて、誰からともなく、号令されることもなく、全員がそれはもう見事な敬礼で俺の口上に応じた。
その様子は伝搬し、ほかのプレイヤーや衛兵隊まで敬礼をする。
「アイリーン、皆に召集令を出せ。盗賊ごときにこれ以上はやらせぬ」
「あいあい、早速の~メール一斉送信なのよ~」
ウォルダーナを目指す前にまずは目の上のこぶ、盗賊退治と行こう!




