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第六十五話 核心へといたる機会

『ああぁ、あわぁ、あぁ~?』


「幽霊ちゃんが『これでどう?』ってぇ」


「う、うむ……。驚くほどにかわいいな……」



 本当に驚いている。


 俺が怖がったせいで、“幽霊ちゃん”は姿を変えてくれたんだけど……その姿が普通にかわいらしい幼女だったからだ。

 もとの面影すらない、白髪灰眼の色素の薄い美幼女……。その儚げな様子は、怖いというよりも守ってあげたくなる庇護欲を抱かせてくれた。


 うん、これなら怖くない。


 アエカなんて幽霊ちゃんに抱きつこうとしているけど、実体がないせいで触れることができずに、真剣な表情で涙を流している。



『あぁ、あわぁ~』



 笑った、かわいい! これなら楽園に入ってもらっても大丈夫!



「彼女、いちおう管理者としてぇ、許可のない者を追い返す役割があったんですけどぉ、そこはヒワがキークエを解除したんで感謝してくださいねぇ」


「う、うむ。この幼女姿が本来の姿と受け取っても?」


「ですねぇ。幽霊ちゃんを見た者の恐ろしいと思う姿を幻視させるらしいのでぇ、スキルを解除すれば当然もとの姿に戻りますよぉ」


「よ、よかった……。もとの姿がかわいらしくて、本当によかった……」


「くふふぅ♪」



 ヒワに弱みを握られたのはよくないけど……。



「う、うぅぅ……」


「アエカ、どうかしたか……?」


「至高の幼女を目の前にしてっ、なぁんで触れないんですかぁーっ!!」


「……あいつは放っておいて本来の目的を果たそう」



 そんなこんなで一波乱はあったものの、そうまでしてここを訪れた本来の目的、この国、この世界の歴史を紐解くことにした……。





 そうしてランタンを片手に軽く見て回ったけど、お手上げだ。


 膨大な蔵書のほとんどが読めない文字で書かれていて、暗い中をがんばって見て回ったところで、タイトルを確認しただけで意味不明だったんだ。


 古王国時代の文字……まずは翻訳をしないといけないのか……。



「お困りのようですねぇ」



 時間にするとほんの十分程度だったけど、その間もずっと背後をついて来るヒワがやはり楽しげに声をかけてきた。



「古王国時代の文字だからな……。ところで、呼び出した理由をまだ聞かされてはおらぬが、この文字が読めるなぞではあるまいな?」



 幽霊ちゃんの「あわぁ……」とかの意味がわかるみたいだし……。



「もちのろんで読めますよぉ」


「もったいぶらずに言うではないか。つまり、それが今回の商品か?」


「話が早いのは助かりますぅ。まずはこれをどうぞぉ」



 そういってヒワが渡してきたのは、束になった何枚かの紙だった。


 紙には、読める文字でタイトルらしきものが書かれていて、考えるまでもなく翻訳をされた蔵書リストで間違いない。



「よくもまあ、余がここの情報を欲しておると気づいたものだな」


「それはぁ、ツキちゃんに聞いたからなのとぉ、ニオさまにだけでなく考察班なんかもいい値で買ってくれるからですよぉ」


「なるほどな……。だが、これだけの翻訳をこなすのは並大抵の労力では済むまい。情報屋としての多くを先んじた活動は、素直に感心する」


「えへぇ、そりゃもうがんばりましたよぉ。そこに転がってるNINJAが」


「……」



 床に転がっている人はNINJAだったのか……!



「それで、いくらだ?」


「ツキちゃんと住める家をくださいっ♪」


「うっ!? ず、ずいぶんと大きく出たものだな……」



 それもためらいもなく……!



「え~、それくらいの価値はありますよねぇ? ヒワがいなかったらぁ、ここが解放されるのもず~っと先になってたかもしれないんですよぉ? キークエがかなり厄介でぇ、見つけるのもひと苦労だったんですからぁ」



 ヒワは大げさに言っているわけでなく、実際に内部時間で半月ほど張りつく必要のあるクエストが解放条件となっているらしく、それが行方不明者がーなんて噂にもなってしまっていた理由だ。


 現状だと、プレイヤーの多くは自らを鍛えることに専念しているからこそ、情報が得られるクエストやイベントを率先してこなしてくれる人材は貴重。


 だからこそ、「それくらいの価値がある」は納得をするしかない。



「とはいえ、そなたばかりを優遇はできぬ……Sサイズで構わぬか?」


「いぇいっ♪ ニオさま話がわっかるぅ~♪ ツキちゃんとふたりなら十分ですからぁ、むしろこぢんまり秘密基地めいてたほうが楽しいですよぉ♪」


「いい趣味をしておるな。あとで場所を選ぶがよい」


「やったぁ♪」



 そんなわけで、


 古王国時代の記録 を手に入れた。


 といっても、これだけの蔵書だからすべてを確認できるわけでも、現状で必要な分の翻訳が終わっているわけでもなく、まずはめぼしいものをピックアップし、欲しいものをヒワに伝えて追加で得られる算段を整えた。


 さらには、彼女の先導で考察班まで投入されるとのことで、そう遠くないうちにこの国の歴史が紐解かれる土台まで整えられたんだ。


 本当に、ヒワは何者なんだろうな……。


 とりあえずは、ピックアップした分の記録を城塞に持ち帰って……。





 ***





 ――その日の夜。ユグドウェル城塞、執務室。



『あうぅ~、あわぁ~、きゃっきゃっ』



 アエカがっ! 幽霊ちゃんをっ! 連れ帰ってきたっ!!


 どういうことだってばよ……。


 いやなんか、衛兵隊を図書館の管理に回してまで連れ出したんだ……。


 いま、アエカはソファで幽霊ちゃんを膝の上に乗せてかわいがっているけど、もちろん実体がないため体の一部が重なっている。

 そうまでして“至高の幼女”とやらがお気に召したのか、だらしなく緩んでいる表情は人前では決して見せない類のものだ。


 まさか、“お持ち帰り”を実際にやらかしてしまうとは……そのうちおまわりさんに連れていかれないことを祈る……。



「どうかしましたか? あっ、妬いているのですね!」


「断じて違う……!」


「えぇ、少しくらいはいいではないですか……」


「それよりもだ、話がある」



 最近、アエカとふたりきりになれる時間がない。


 とはいえ、幽霊ちゃんのおかげか今日は早々にログアウトしないようで、こんな機会でもないと先日の件を問いただす時間がまずないんだ。


 彼女自身も警戒をしているようで、絶妙に機会を避けられてきたけど、今回も幽霊ちゃんがいるから訊かれないとでも思ったのか、さすがに……。



「甘かったですね……。幽霊ちゃんがいればためらうかと……」



 だよな……。だからこそ、この機会は逃せない。



「聞かせてくれないか? アエカは、何を隠している?」



 俺はアエカをまっすぐに見つめ、これまでの疑問を率直に尋ねた。

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