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第六十三話 おじさまの苦手なもの。

 この日も、最近ではすっかりお馴染みになったイースラとムーシカと一緒の昼食を終え、皆で揃って町へとやって来た。



「わうぅ、ニオさまと一緒がいいのだぁ……」


「懐いてくれるのは嬉しく思うが、ムーシカはギルドの職務があるのだろう? 退勤後にまた会えるのだから、そう寂しそうな顔をするでない」


「わうぅぅ……。我慢して行ってくるのだぁ……」


「うむ。イースラも外へ出るときは気をつけるのだぞ」


「ん、今日は衛兵隊と護衛任務」



 ムーシカは探索者ギルドへ、イースラとも別行動になるのでここで別れる。


 それはそうと、数日前から北の山岳地帯に山賊が出没するようになったとのことで、すでに商人の馬車が襲われる被害まで出てしまっていた。


 近隣の街道は衛兵隊に哨戒させ、探索者ギルドからも討伐依頼が出て、それなりのプレイヤーが山岳に踏み入っているけど、モンスターを相手にするのとはわけが違うため、まだ事態解決にはいたっていない。


 イースラが言っている、“護衛任務”とはこの件に関連してのことだろう。



「さてと、あまり気乗りはしないけど、いずれは行くつもりだったからな……」


「古王国時代の記録となると、あの場所くらいしかありませんから」


「勘がいいというか、鼻が利くというか、先回りされている(・・・・・・・・)のは度し難い」


「ふふっ。それだけ優秀ということでもありますね」


「そうかなあ……。そうかもしれないけど……」



 俺とアエカは、探索者ギルドへと通いなれた道から西へと逸れ、少し森の中に踏み入ったとある建物(・・・・・)を目指している。


 連なる石畳はコツコツと靴音を奏で、頭上にまで迫り出している枝葉からは緩やかに辺りを照らす木漏れ日が、相変わらずのどかな環境ではあるけど、プレイヤーが増えた分はやはり人通りも多かった。



「ニオさまとアエカさまだ。こんにちわ~」

「おふたり揃ってお出かけですか~?」

「あぁんっ、アエカさま今日もきれいすぎる~」

「コケェッ、先日のスク水姿は最高ですた」


「こ、こんにちは……」


「こっちって、ご用はあそこ(・・・)ですよね~?」

「え、あそこ(・・・)って、行方不明者も出てるって噂の?」

「やだ~。ニオさま、気をつけてください~」

「コケッ、行くならせめてスク水に着替えたほうがいいですぉ」



 早速、通りすがりのパーティに声をかけられるも、なんか約一名、頭部がニワトリのきぐるみ?で体がガチムチのやべー奴が混じっています……。


 妙なアドバイスは、ニオのスク水姿を見たいだけだろ……!



「も、問題ない。余のスキルは不死特攻なのでな……」


「あ、そうですね。ニオさまはお強いから~」

「そうそう、イベントの時もかっこよかったよね~」

「ね~。あれでますます惚れ直しちゃった」

「コケェッ、ドジっ子とイケロリの二面性が魅力ですな」



 “イケロリ”とか言うな……! そんなに小さくない……!


 と、とりあえず、このキャピキャピした面子に、なぜか紛れ込んでいるやべーニワトリ?の謎は気にしないでおいて……。


 そうなんだ、俺の気が乗らない理由は、向かう先のいわく(・・・)にある。



「では、我らは行く。そなたらも楽しんでな」


「はい、いってらっしゃい~」

「おふたりとも、お気をつけて~」

「次の生配信にも期待してますね~」

「コケェッ、全裸待機」


「……」



 配信は……やりたくないよ……?


 そんなこんなで、軽い挨拶から割とがっつりした会話まで、何かと声をかけられる人通りを抜け、俺たちは目的の場所へと向かっている。


 なんで気が乗らない場所にわざわざ出向くのか、それは先ほどのアエカの発言のとおり、古王国時代の記録が保管されていることのほかに、そのうち行こうとは思っていた場所に呼び出されたから。


 誰にって……ヒワに……。


 彼女からは何か直接の被害を受けたわけではないけど、どうも腰が引けてしまうというかなんというか、とにかく警戒をしてしまうんだ。


 場所が場所なだけに、今回は本当に行きたくない会いたくない。



「あ、見えてきましたよ。あれがそうです」



 石畳が途切れ、それでも城壁の内にある森の中にその場所はあった。



「こ、ここが“幽霊屋敷”かあ……」



 “幽霊屋敷”という名前はプレイヤーたちがそう呼んでいるだけで、実際には名もなき“森の中の廃墟”にすぎないのがこの場所。


 “ユグドウェル城塞”と同じ時代に建てられたとみられる、石造りの古い建造物で、廃墟同然でありながらそれでも管理をされていたことから、いまでも古王国時代の記録が残されているという貴重な遺構なんだ。


 いわく(・・・)というのは、その管理をしている存在というのが、幽霊(・・)だから。



「うっ、ぐっ、ぐぅっ……」


「ニオさま、私だけで行ってきましょうか?」


「い、いや、オレが行かないと、あとが怖い……。ヒワ的な意味で……」


「私の袖を掴んだままなのはあえていいとしますが、一人称には気をつけてくださいね。“オレ”になっていますよ」


「あ、わわ、よ、余ぉ、余は余ぉ……」


「本当に、おじ、ニオさまは怖がりなんですから」


「し、仕方ないだろ! こればかりは生理的に受けつけない!」


「私としては、あまりのかわいさに押し倒したいくらいなんですが……ヒワさんは本当に気の抜けない相手なので、ここでは自重します」


「そ、そうしてくれると助かる……」


「それにしてもニオさまは、モンスターの“ゴースト”は平気なのに、なぜ“幽霊”となるとダメなんでしょうね?」


「オレ……よ、余にもわからぬ。怖いものは怖いんだ」



 大の男が恥ずかしいとは思うけど、何を隠そう俺は幽霊が怖い嫌い。


 ゴーストは平気。ゴーストはモンスター、幽霊は幽霊だから。


 差がわからないって? 海外製ホラーと和製ホラーの差といえばわかるだろうか。最初こそ、作りものの世界だと思えばなんてことはなかったけど、こう身近に迫ってしまえば怖いものはどうしたところで怖いんだ。


 ここでなら、ゾンビが平気でゴーストがダメなツキウミの気持ちがわかる。


 それにしても、そんな場所にまるで見透かしたかのように呼び出すなんて……あの娘は読心術でも使えるのではないだろうか……。


 ヒワの奴……前々からいったい何を目的としているのか……。

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