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第六十一話 原因は余ぉっ!?

 ――ユグドウェル城塞、執務室。



『いや~、そういうわけだから、ちゃんと伝えたよ?』


「ご迷惑をおかけして、本当にすみません!」



 イベントから一週間が経過し、運営内でもいろいろと進展があったようで、俺がこの世界に来てからはじめて現実との通話を交わしていた。


 チャットウィンドウ越しに話をしているのは、寿崎さん。


 無理をさせたことの謝罪から、事態の裏で何が起きてニトグアが復活しかけたのかの説明もされ、ここでようやく自分のやらかしたことを自覚する。


 まさか、ぶっぱなしたサテライトレーザーのせいだったとは……。



『まあただ、上はニオに目立ってほしいみたいだから、もっとやれ! って感じなんだけどね。伝えはしたけど、好きにやっていいってさ』


「オレとしては、目立つのはいやなんですが……」


『ニオの中の人な時点で諦めるしかないよ。まだ現実で目覚める目途も立ってないわけだし、もうちょいそのままがんばって』


「はあ、できる限りは演じます……」


『うんうん、僕も実際に見て驚いたけど、当初予定されてたよりもらしくていいんじゃないかと思うよ。やっぱかわいくないとね、合格!』


「うぐっ!?」


『あの勇波が、いまはそんなかわいい姿で過ごしてるとか、想像しただけでもおかしいんだけどさ。いやいや似合ってるよ?』


「ぐ、むぐぐ……」



 くっ、もういっそ殺せ……!


 女騎士ではないけど、そうも言いたくなる……。



『おっとっとっ、もう時間だね。まだあまり長い同期はできなくてさ、今回はテストも兼ねてたから、この辺で失礼するよ』


「は、はい、オレの現実の体をよろしくお願いします」


『それは三条が管理してるけど、まあ悪いようにはしないから安心して』


「助かります」


『え、あと五秒? いや、いまてっちゃんがさ……』



 寿崎さんとの通話は、彼が言いきらないうちに切れてしまった。


 というのも、現実との通話は一時的に内部プレイヤーの時間を同期しないといけないため、さまざまな制限が設けられているせいだ。


 これまでは相互通信サービス自体がロックされていて、先日のイベントは現実時間と同期させていたとのことだけど、平時のリアルタイム配信なんかは観る側もVRデバイスに接続する必要があった。


 内部では現実の四倍速で時間が流れるわけだから、そのままでは相互通信が不可能というのはわかる。


 それがようやく解禁となったのがいまさっき。


 そうして、一時的な同期空間からもとのゲーム内に戻ると、ソファに座る俺のふとももを枕代わりにしたムーシカが真っ先に目に入った。



「ふにゅ、わうぅ……? ニオさま、戻ったのだぁ……?」



 俺の動く気配を感じてか、ふにゅふにゅしたムーシカも動きだす。


 時計を見ると、ほんの数分程度しか通話をしていなかったにもかかわらず、こちらの世界では三十分が経過していたので、眠くなったムーシカがちょうどうとうとしていた頃合いだったんだろう。



「ただいま。眠いのならそのまま寝てもよいぞ」


「わうぅ……。そうするの……だぁ……」



 ムーシカはそのまま横を向き、俺の下腹部に鼻をこすりつけてすぐに寝息を立てはじめてしまった。

 さすがに服越しで吐息は感じられないものの、下腹部をやさしく刺激されているせいか、妙な気恥ずかしさを感じる。


 男の姿だったらまずい状態だから、いまばかりは少女の姿でよかった。


 でも、犬的な本能なのかなんなのか、そんな所でスンスンと鼻を鳴らしているのは本当にいけません……。寝ているよな……?



「それにしても、“混沌の尖兵”か……」



 聞いた話によると、そいつらはいまもこの星の結界の外で≪星霊樹の世界(アルス・パウリナ)≫に侵入を試みているという、混沌の序列最下位のモンスター。


 俺が破壊した結界の亀裂から入り込んだ一部は、幸いにもアイリーンの監視網に発見されてほぼすべてが処理されたとのことだから、ニトグアが復活しかけたくらいでそれ以上の被害は出さなかった。


 いや、“くらい”ではないな……結構な一大事だ……。


 クリエイションスキル≪創世の灰≫――想像を形にする以上は万能だけど、イメージが強すぎると今回のような事態を引き起こしてしまうため、もっと繊細な使い方を考えて、またやらかさないように気をつけよう……。



「ただいま戻りました」


「ただいま」


「お帰り」



 寿崎さんとの話の内容を反芻(はんすう)していると、執務室から姿を消していたアエカとイースラがふたり揃って戻ってきた。



「ふたりが行動を共にするのは珍しいな。何か用があったのか?」



 アエカはすぐ俺のそばに控え、イースラは慣れ親しんだ我が家のように、対面のソファに座ってすでにお菓子を食べはじめている。



「それについてなのですが……。ニオさまのパーティは、現状で遠隔物理攻撃役が私とイースラさんのふたり存在します」


「バランスとしては悪くないと思うが、何か問題でも……?」


「はい。先日のイベントで思い知ったのですが、ニオさまをお守りするにこの構成では不足があるのではないかと……」


「それは……」



 ふたりとも悪くない立ち回りだったとは思うけど、たしかに、最初こそサポートに徹しようとしただろうアエカは、実際の行動を見ていると俺を守るために近接交戦域まで飛び込んでくる。


 結果として、盾でも持っていなければ防ぎきれない、トリストロイの攻撃を正面から受け止めて吹き飛ばされたわけだけど……。


 そもそもの役割が違うのだから、責任を感じる必要はないんだ。



「それで、イースラさんと相談をして、私が中衛へと転向することにしました」


「えっ、でも……いや、個人のスタイルにあれやこれやを言うつもりはないが……うん、アエカが決めたのなら余は後押しをするだけだな」


「ありがとうございます! 誠心誠意、ニオさまに尽くしますね!」


「イースラも転向するのか?」


「ううん。あたしは、アエカの持つ“じゅう(・・・)”ってやつに得物を変える」


「え、小銃(ライフル)に……?」



 たしかに、イースラのスキル構成は≪徹甲貫徹(アーマーピアシング)≫も含めて銃向きだ。



「ん。だからニオさま、早く研究を進めて?」


「わ、わかった……。次は“機械工学”を進めよう……」



 どのみち、派生先の“軍事工学”も研究をするつもりだったし、“皇国大隊”の連中にも「銃まだー?(意訳)」と言われていたので、異存はない。


 なんにしても、しばらくは国の発展に力を入れて進めよう。

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