第五十九話 星宿の炉皇
パーティ“華麗☆なる”の連携は見事なものだった。
ヴァローレンは、トリストロイの攻撃をひらりひらりとかわし、ときにバックラーでいなしてモーニングスターを叩き込むという、受け流しスタイル。
そこに、メインアタッカー兼サブタンカーの銀華が戦斧による苛烈な一撃で斬り込み、味玉がアタッカー兼サポートをするという構成。
いまは俺のそばにいるけど、さらに属性攻撃スキルを使うノフィトリカが加わるから、人数は四人と少ないもののその実力は確かなものだ。
現状は“皇国大隊”も加わり、トリストロイを押さえつけている状況。
「ニオ姫さま!」
「ベルク、大事ないか? イースラは?」
ベルクも俺のもとに来るけど、視線を彼らが一度は倒れた場所に向けると、イースラはまだツキウミの治癒を受けているところだった。
「イースラ殿は意識を失っておられる。吹き飛ばされたそれがしを受け止めたがゆえ……。このような体躯を持ちながら、なんと不甲斐ない……」
「後悔はあとだ、余が無理もさせた。されど、人手が充足したいまの状況こそ、そなたが盾役としての本領を発揮する戦場。やってくれるな?」
「御意! 自らの失態は、自らの行いにおいてこそ挽回いたすもの!」
「よし。ならば、ベルクは余の盾となり、アエカは余の背を守れ。このいまだ満足に動かぬ体で、それでも渾身の一撃を練り上げてみせる。余を、トリストロイのもとにまで、何がなんでも送り届けてみせよ」
「はい。不甲斐ないというのなら私もですから、力を尽くします」
「心より承知いたす! ニオ姫さまにはもはや触手の一本も触れさせぬ!」
「皆、最後まで頼りにするぞ」
俺たちは、ベルクを先頭にトリストロイへと駆けだした。
いまだ戦闘が続くただ中へ、ニオの体は水中を歩いているかのように重いけど、回復を待っていては何があるかわからない。
それこそ、“ニトグア”が真に復活することとなれば全滅だってありうる。
プレイヤーは、この世界がゲームの体裁を保っているかぎりは復活するだろうけど、NPCたち疑似生命の犠牲を許すわけにはいかない。
大切なニオの体だって、むざむざと奴に奪わせてなるものか。
なら、歯を食いしばってでも終わらせるしかないんだ。
「“皇国大隊”とやら道を開けよ! こやつとの因縁、余が終止符を打つ!」
「おおっ、ニオ姫さまがおいでになられるぞ! 全隊、左右に展開! ニオ姫さまの道行きを、我々が自らの体を張ってでも押し通すのだ!」
「「「おおおっ! ニオ姫さまがためにっ!!」」」
モヒカン頭の号令で、“皇国大隊”は三人ずつ左右へと展開した。
「ぁ、ぁの、ニオさま……」
「ノフィトリカ、そなたまで追従することはないぞ」
アエカの様子を見てくれていたノフィトリカもついて来ている。
相変わらず声が小さく、表情は申しわけなさそうにオドオドとした様子だけど、先ほどから星唱をつぶやいていたのは気づいていた。
「ぃぇ、ぁのその、これを……≪水膜≫!」
彼女にかけられたのは、治癒と同様に重宝される属性防御スキル。
体を水色のヴェールが覆い、しぶきのエフェクトが辺りに舞う。
「助かる。そのうちお礼をさせてくれ」
「ぃぇ、そんな……が、がんばってください!」
「ああ、当然だ」
そうして皆の後押しを受け、近接交戦域まであと五メートルに迫った。
そこには当然、前線を押しとどめている“華麗☆なる”がいる。
「ヴァローレン! 銀華! 味玉!」
「あっ、ニオさま! ここは危ないですよ!」
「はっ、銀華、野暮はいけないよっ! 戦場に駆けつける乙女なぞっ、自ら花を咲かさんと強き意思をその可憐なる身に宿す者っ! ここは我らが譲ることこそが華麗なる道義っ! 疾くと道を開けようではないかっ!」
「すまぬ! そなたらの献身には必ずや報いると誓おう!」
まさにいま、右樹腕を破砕するヴァローレンと、左樹腕を叩き斬る銀華、それと物静かにふたりを支援していた味玉が、華麗に道を開けてくれた。
その先に、大量の矢が突き立ってハリネズミとなった奴がいる。
“封じられ宿られしニトグア”――。
そして、宿りの主“骸渡りのトリストロイ”――。
【くっ、くハッはっ、愛しノ者ッ。おまエから、訪れるとハ、邪魔を排除スル必要がなくナった。僥倖、僥倖、僥倖なるル、オレは最高の気分ダッ】
「ずいぶんと呂律が回るようになったな、トリストロイ……!」
【そう、オレが“トリストロイ”。おまえヲを、神々に仇なスを殺すル者】
「……!?」
【コ、殺ス、なぜ、おまマえ、愛しのおまエ、オレは、オマ愛シ、殺す、ナイ。ナゼ、なゼ、ああっ、オデの意思ガッ、昏く、冥クク、闇ラらララァアァァッ!】
「なんだ……!?」
「ニオさま、考えないで……! ニトグアが復活する前に……!」
「くっ、そういうことか! ベルク!!」
「おおっ!!」
対するは、狂乱し混乱するトリストロイ――。
まずはベルクが、接近する勢いのままにランスを突き込んだ。
ヴァローレンと銀華によって両樹腕を破壊され、いまもまた背にまで抜けたランスによって、巨漢のベルクの膂力によって体が縫いとめられる。
体のいたる所から放たれる大量の触手。
触手は弧を描き、すべてが俺を狙って殺到する。
だけど、それがどうした。
国を背負うのであれば、きさまごときが何するものぞ。
そうだ、俺は、余は――“輝竜種の姫”。
竜がごときをもって、民を、国を、星を守護せし者。
「我が怒り、星霊樹の恩寵、星命を芽吹かせる極光のすべてを込め、顕現せよ、顕現せよ、顕現せよ、世界をも斬り拓く星灰の剣!!」
『原理充填率100%、≪創世の灰≫アクティベーションレディ』
【あアアッ、あばアあアアァァアアァァァァァァァァァァッッ!?!??】
「喰らえよ!! “星宿の炉皇”!!!」
それは、俺の中のニオが発した聞き覚えのない言葉だった。
特大剣は、神魔をもたやすく斬り裂いてしまう光を放ち、形づくられたのは地下庭園を両断できるほどの光焔をまとう長大な剣。
天井を斬り裂き、大気をも斬り裂き、黄金色はすべてを光の中に飲み込み、眼前の荒れ狂う暴虐へと収束していく。
背には、いつだって寄り添ってくれるぬくもり。
何者であろうと、彼女を傷つける者は決して許さない。
この世界がなんであろうと、俺は彼女のために楽園を築く。
そうして、視界はまばゆい黄金色に塗りつぶされ――。
――シードクリスタル≪真理の冠≫ を手に入れた。




