第四十七話 邪教神殿跡ダンジョン(2)
「ニオさま、ご無事ですか!?」
「も、問題ない……」
すぐにアエカが駆け下りてくるも、心配をされるほどの怪我はなく、むしろ上に被さる美少女のやわらかさに救われた感じさえあった。
中身が男性だったとしても、アバターは正真正銘の女の子だから、やはりいまは美少女に違いないんだよな……。
他者で実感する認識が、同じ状態の自分自身にも突き刺さる……。
「ツキウミさんも、お怪我はありませんか?」
「ふわぁ……だいじょうぶれすぅ……。目が回りましたぁ……」
アエカはそう真剣に尋ねているものの、光源を背負って陰になった表情が言動と一致していないのは、こちら側から見ると一目瞭然だ。
それもそのはずで、美少女と美少女がもつれあって倒れ込んでいるこの状態、彼女からしてみたら心配する以上にご褒美ものだから。
乱れた服からはふとももが広くあらわとなり、さすがに俺も慣れたもので、ツキウミの下敷きとなったままできるだけスカートを整えようとする。
「あぅ、んぅぅ……。やぁ……」
うっ……!?
俺の動きに反応してか、悩ましく吐息を漏らすツキウミ。
か、彼は、本当に男なのかな……?
俺の上でもぞもぞと身じろぐ彼は尋常でなくやわらかく、自分自身の少女の姿と相まって、背徳的な意識が芽生えそうになってしまう。
早くなんとかしないと……今度こそ心の中の息子(?)が……。
そ、そういえば、この瞬間も配信されて……。
『ひょおおっ! 美少女同士の絡み、最高です!』
『やっぱニオさまのパーティを追っていて正解だろJK!』
『いきなりやってくれましたなあ! おいしすぎぃっ!』
『おそろしく速いパンチラ、オレでなきゃ見逃しちゃうね』
『ツキウミくんあれで男の子ってほんとぉっ!?』
『ニオさま以上の逸材キタコレ!』
『やだ、助かるぅ……一生推せるぅ……』
『はぁ、はぁ、てぇてぇ……』
『まだはじまったばかりでこれですか……』
『あそこにスライムを投げ込みたい』
あわわ……。なんとなく気になって配信画面を開いたところ、目に飛び込んできたのは怒涛の勢いで書き込まれるコメントの嵐だった。
なぜか、ツキウミのプライベートな事情が知られているし、美少女同士の絡みを喜ぶ変態だらけだし、ここは人の煩悩を寄せ集めた吹き溜まりか。
とにかく、まずは体勢を立て直さないと……。
「あんっ!? ニオさま、そこはやぁ……。んぅ……」
ごふぅっ!?
そうして思わず触れたツキウミの腰。
やはりやわらかく、すぐ折れてしまいそうなほどに細く、敏感な個所に触れてしまったかのような彼の艶っぽい反応に、俺は精神的に吐血した。
その目を潤ませて頬を赤らめる様に……これ以上はいけない!
いまになって気づいたけど、彼はヒワ以上にやべー奴なのでは!?
自覚のあるなしに、妙な性癖を目覚めさせられてしまうのはよくない!
「ツッ、ツツツキウミッ、とととりあえず起きて、こここんなところをモンスターに襲われでもしたら、そそそれこそ……」
「オアァアアァァァァッ!!」
「ギャーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?!!?」
言わずもがな、突然背後から聞こえてきたくぐもった低い声に視線を向けると、暗い通路の奥から肉の腐り落ちた人――“ゾンビ”が姿を現した。
ゾンビが一体、皮膚だが服だがよくわからないボロきれを身にまとい、足を引きずりながらも思った以上に俊敏な動きで距離を詰めてくる。
すぐに迎え撃ちたかったけど、ツキウミを抱いたような状態では立ち上がることもままならず、ただ身構えるしかない。
そして、あわやというところで銃声が鳴り響き、さらには体の上を勢いよく通りすぎたランスがゾンビを貫いた。
「ニオさまには触れさせません!」
「ニオ姫さま、ご無事であられますか!?」
ゾンビを倒したのはほかでもない、アエカとベルクだ。
「ぶ、無事だ……」
「階段を下りるに手間取り、助勢が遅れ申した」
「いや、助かった。ツキウミを起こしてやってくれるか」
「御意。ささ、ツキウミ殿、それがしを支えに」
「は、はいぃ……。ボク、三半規管が弱くてぇ……」
弱すぎな気がするけど、だから余計に女の子っぽいのか……?
「ニオさまは私が、腕におつかまりください」
「ありがとう……」
ベルクのうしろにはどこか消沈したイースラもいる。
「ニオさま、ごめん」
「こういうこともある。次に活かせばいい」
「ん」
なんにしても、急なハプニングをなんとか収めて体勢を立て直した。
「それにしても、ここは……」
俺とツキウミが落ちた通路は狭く、高さは二メートル程度だろうか。だから、巨漢のベルクは下りるのに手間取り、いまもかなり窮屈そうにしている。
幸い横幅はそれなりにあるものの、荒く削られた石材が積み上げられた様子は神殿内部とは異なり、階段を下りただけで異質な空間となっていた。
明かりもなく、奥から漂ってくるのはカビ臭さとすえた匂い。
臭いの正体は予想をするまでもなく、アンデットによるものだろう。
「上階とはだいぶ様子が違いますね」
「やだなぁ、この奥にはもっとゾンビがいるってことですよねぇ」
「どうなさいますか。この狭さでそれがしは十全といかず、せめて壁となるのみ。進むのであれば御身の危険となるやも、と具申いたす」
「それなのだが、この先に奴がいる確率が高いと余は判断する」
「それは、どういった……」
「とりあえず、よっと」
やりたくはなかったけど、倒れただけで完全に霧散しきらないゾンビの背に特大剣を突き刺し、光焔を放って燃やす。
すると、ゾンビの体内から苦しげに暴れまわるスライムが姿を現し、それもすぐ金色に燃え盛る光の中へと消えていった。
「ぬぅ……。こやつ、ただのゾンビではないというわけですな……」
「うむ、“骸渡りのトリストロイ”の骸渡りの結果であろう。それも、分体を生み出す能力を獲得しているとなると、最悪は人へも寄生するやもしれぬ」
そもそもが、スライムは人を苗床にするという。
やがて人を操るまでになれば、それこそ国家存亡の危機となってしまうため、だから“骸渡りのトリストロイ”は優先的に討伐しなければならないんだ。
結局は、危険を承知してでも腐臭のする方へと進むしかない。
「ベルク、不便をかけるがしばらくは我慢してもらう」
「御意!」
「奥へと進む」




