第三十七話 ダメでした。
「して、いかにする?」
「それがしは、この場に集いし勇士たちの実力を存じ上げぬ。おそらくは猶予もなく、連携確認すらできぬ現状、ならば“包囲戦術”を提案いたす!」
「なるほどな……」
仰々しく言っているけど、オンラインゲームにおいてモンスターを取り囲んで相手するというのは、普通だ。
大抵の場合は盾役が相手の正面に陣取り、攻撃役は巻き添えにならない側面や背後に回り込んで攻撃するから、基本が“包囲戦術”。
だからと何も考えていないのかといえばそうではなく、この場に集っただけのはじめてのメンバーで、まだ動きを把握していない初見のモンスターを相手するには、これしかないという理由がある。
周辺は林が点在するだけの平野だから、活用できそうな地形もない。
「皆の者、これより冥獣を討伐するがための情報共有を行う。協力を惜しまない者たちよ、余のもとに集ってもらえるか?」
あとはベルクにぶん投げるため、少し控えめに言っておく。
周囲に視線を送ると、茂みに潜んでいるプレイヤーたちはそのほとんどが頷いているから、ネームド討伐の協力関係を築けそうだ。
「よし、パーティリーダーはここへ。指揮を任せたベルクから説明をする」
「ニオ姫さま、質問をよろしいでありますか!」
「申せ」
「現在、自分はパーティを離れて単独行動の身でありますが、情報共有に参加は可能でありますか!」
あります口調で軍装スタイルの彼、なんかよく見かける気が……?
「構わない。この場で即席のパーティを組むもよし、訳あって単独行動であるのなら、遊撃手として柔軟な立ち回りを心得よ」
「はっ! 理解したであります!」
彼は、ビシッとした軍隊式の敬礼が様になっているので、たぶんミリタリー系が好きなプレイヤーだと思う。
いまのニオは軍服を羽織っているから、上官として申し分なさそう。
「ベルク、余を旗印として構わない、あとを頼んだぞ」
「はっ、御心のままに。しからば、この不肖ベルクが、これより“冥獣ニェニェヤクトリェ”討伐がための作戦会議を取りまとめる! 各パーティのリーダー、ソロの者も、ニオ姫さまのもとへと集われよ!」
そうして、四、五十人はいるだろうプレイヤーの中から、十数名の者がベルクのもとに……というか、なぜか俺を円陣で取り囲んで集まった。
仕方なくその中央で立ち上がり、特大剣を右手で背に保持したまま左手は腰に当て、仁王立ちの体勢を取る。
だけど、ほぼすべてのプレイヤーが俺を見ている……。これだけの人数の視線に晒され、緊張からじっとりと変な汗までかきはじめていて、作戦会議が終わるまではこんな羞恥に耐え続けないといけない……。
まさかの、舐められるのを避けようとした結果が視姦プレイの罠……。
アエカなんて、俺の内心を察してか皆の中で息を荒げているし……。
くっ、いますぐにここから逃げ出したい……。
もういっそのこと、誰でもいいから連れ去ってくれないかな……。
「ぬぅっ!?」
その時だった、周囲の木々が小刻みに揺れはじめたのは。
「なんだこの振動!?」
「地面の下から!? 地震とは違う!?」
「ま、まさか、奴が動き出したのでありますか!?」
「きゃああっ! なんなのこれぇっ!」
すぐに立ち上がる者、その場に伏せる者、プレイヤーたちは各々異なった行動で反応し、それに伴い地面の振動も徐々に大きくなっていく。
「い、いかん! 全員散開!!」
「ん、んん……?」
これって、俺がまたしてもいらないフラグを立てたせい……?
「ニオさまっ!!」
「ニオ姫さま、そこから!!」
「えっ?」
アエカとベルクがこちらへ手を伸ばしたのと同時に、足元の地面が大きく盛り上がり、バランスを失った俺の体はうしろへと倒れてしまう。
「きゃんっ」
そのかわいらしい悲鳴は誰が上げたものか。
いや、出どころは尻もちをついた自分なんだろうけど、そんなことを思う間にもお尻の下に空いた穴へと、地面という支えを失った俺は落下する。
「ぬわーーーーーーーーーーーーっ!?」
「ニオさまーーーーーーーーっ!!」
「ニオ姫さまーーーーーーーーっ!!」
……。
…………。
………………。
“ねっちょり”かな……いや、“ぐっちょり”……?
とにかく、“ねちょーん”として“ぐちょーん”とした謎の肉感に支えられたから、どこかに叩きつけられることはなかったけど、これはまずいな……?
俺はすぐに状況を把握しようと視線を巡らすも、遥か上方に白む明かりが見えるだけで、さらに奥深くへと沈み込んでしまっているようだ。
「う、ううぅ……。動けな……気持ち悪い……し……」
これは、考えるまでもなく……冥獣に飲み込まれた……!?
周囲はねちょねちょした粘液が滴る肉壁に覆われ、隙間なく俺を押しつぶそうとしてくるから、自力で這い上がれるほどに大きくは動けない。
「うぐっ、しかも臭いっ! うぶっ、ぺっぺっ、げほっ!」
内部のあまりの臭さに早々に鼻呼吸を諦めるも、口で呼吸をしようにも顔は粘液に覆われ、口腔に入り込むそばから吐き出す羽目になってしまう。
体は動かせず、呼吸もままならず、このままではすぐに……。
だけど俺は気づいた、背側だけは肉感でない硬い感触があることを。
「こいつ、レリックまで一緒に飲み込んだな……」
なら、“冥獣ニェニェヤクトリェ”の体内だろうと反撃の余地はある。
レリックが体に触れてさえいれば、原理の充填は可能だから。
「オレを飲み込んだことを後悔させてやる……。うぶっ、ぺっぺっぺっ!」
こうしている間にも、体はずるずるとより奥へと飲み込まれ、唯一の上方の光も見えなくなり、同時に視界も完全な暗闇に閉ざされた。
残された感覚は、肌に触れる肉壁と濡らす粘液が気持ち悪いばかり。
そんな中でレリックに力を込めると、この場には相応しくない黄金色の高貴な光が、すぐに赤くてらてらと濡れる肉壁を照らしだす。
一見すると霜降り肉に見えなくもないけど、そんないいものではない。
「さあ、反撃開始だ……! うぇっ、ぺっぺっぺっぺっ!」




