第三十二話 おじさま、交流する。(2)
「ニオさまだ。おはようございます」
「今日もかわいいですね」
「わあ、本物はちっちゃーい」
「あ、ああ、おはよ……」
「私たち、これからはじめてのダンジョンなんです!」
「ぅ、うん……。気をつけて……」
「いってきまーす!」
【悲報】俺、キャラを演じないとコミュ障かも。
町に入ったところで、女性三人組のプレイヤーに挨拶をされた。
目が合っただけで、まさか声をかけられるとは思っていなかったので、咄嗟の返答がボソボソとした小さな声になってしまったんだ。
引きこもってイラストばかりを描いていて、他人と話す機会なんて身内くらいだったから、自分で思うほど会話が得意ではないのかもしれない。
ニオを演じたほうが、むしろ円滑にコミュニケーションできるとは……。
「ニオさま……」
「ご、ごめん、咄嗟だとどうしても……。まだ慣れない……」
「私も過保護でした。以前はもっと……」
「以前?」
「いえ、こちらの話です」
「うん?」
そうして不器用な愛想を振りまきながら、俺たちは目的地に向かう。
町の噴水広場から大通りを南下したエリアが、“市場”。
といっても、現在はまだ空き店舗が多く、NPCが営業する小規模な商店がまばらに立ち並んでいるだけ。
空き店舗は、プレイヤーが使用するために用意したものだから、賃料や購入するためのお金が溜まってから店を開いてくれるだろう。
いちおう、商人プレイヤーの幾人かはすでに路上販売をはじめていて、もちろん彼らには領内での営業許可証を発行している。
「んー、お目当てのものはないなあ……」
「やはり、攻撃スキル類は優先して自分たちで使いますからね。パーティ内でよほど重複しない限りは、なかなか出回らないようです」
ここまでの路上販売店は欠かさずに見て回っているけど、比較的ドロップしやすい≪鑑定≫などが売られているだけ。
アエカの言うとおり、攻撃スキル、防御スキルはまずパーティ内で使用するだろうから、店主に訊いたところで首を左右に振るばかりだった。
シードクリスタル――プレイヤーの間で“種石”と呼ばれているスキル石は、まだまだ潤沢に販売できるほど行きわたってはいないようだ。
「はじまってまだ一週間だし、仕方ないか……」
「おう、姫さま、何かご入用かい?」
若干諦めかけていると、露天商のひとりが声をかけてきた。
灰褐色の髪と髭を長く伸ばし、背の低いずんぐりとした体形の“鉱人種”
名前は“ワギュー”、皆からは“和牛さん”と呼ばれている職人プレイヤーだ。
彼はよく市場で見かけるし、営業許可証を発行する時もナイフの研磨をしてもらったので、いちおうの知り合いということになる。
「ワギュー、今日は早いのだな。入用といえば、探し物がな……」
「攻略組の連中が、今日こそは地下水道ボスを討伐すると息巻いてるんでな、補助武器の調整を頼まれたってわけだ」
「へえ、今回こそは期待できるか?」
「そいつは連中次第だろうが、そろそろ来るはずなんでアドバイスをしてやってもらえないか? 姫さまは討伐したと聞き及んでるが」
相変わらず無遠慮な物言いだけど、これでも最初は敬語だった。
彼なりのロールプレイらしく、わざわざ許可を求められたのが数日前。
「いちおうな。それくらいなら構わない」
「ありがたい。代わりといっちゃなんだが、探し物の相談に乗らせてくれ」
「それは助かる。探しているのは攻撃系のシードクリスタルだが……」
「ああ、なるほど。うちでも買い取りはまだ一件……」
「一件あったのか!? それを見せ……」
「待て待て、そう詰め寄るな! 三日前でもうない!」
「くっ、ひと足遅かったか……」
「ひと足もふた足も遅かったが……」
まあ、在庫があったとしても、必ずしも特大剣で使えるスキルとも限らないので、こればかりはドロップと同じく時の運が関わってくる。
ニオのステータスだとやはり攻撃スキルを積んでこそだから、自分で拾う物が防御系だけというのは、システムにまで虐められているのだろうか。
まさかのニオ虐……被害に遭うのは俺……。
「ふむ……。ここまで希少となると、自ら掘ったほうが早いか……」
「役に立てなくてすまんが、売りがあったら一報を入れよう」
「よいのか?」
「ワシら職人の儲けは国の動向にも影響する。いまから、その国のトップに恩を売っておくのもらしいだろ?」
「正直だな……。無理強いはしないが、期待はさせてもらう」
「任せてもらおう」
どのみち時間が解決する問題ではあるけど、こういうのはいかにもなロールプレイらしくて、彼とはそれなりに話しやすかった。
掘り……要するに、お目当てのドロップがあるまで狩りをし続けることで、地下水道では結局≪打撃耐性≫しか手に入れられなかったんだ。
初心者用ダンジョンだから仕方ないとはいえ、ボスを周回できるほどに安全マージンを確保できなかったから、このざまということになる。
「もっとも期待ができるとすれば、狩場を第二層に移すことか……。」
「そうですね。イースラさんを誘ったところで三人なので、あとふたりはパーティメンバーが欲しいですが……」
アエカも同意をしてくれるけど、根本的な懸念はある。
「ああ、特に盾役と回復役が必要だ……」
「それもすぐにというわけにはいきませんね……」
そう、“盾役”は心当たりがあるけど、問題は“回復役”。
シードクリスタルが十分に確保できていない現状とも関わり、もっともドロップしにくいという“回復スキル”を使えるプレイヤーがまずいない。
いたとしても引く手あまたで、ソロのヒーラーはまず見つからない。
ついでに製薬環境も整っていないから、運よく調薬スキルを得られたプレイヤーがポーションを出品したとしても、当然早い者勝ちとなる。
正式リリースで人は増えたけど、需要に供給が追いついていないんだ。
「ぐぬぬ……。長い目で見ていくしかないか……」
「それでも運よくということもあるので、できるだけ多くの機会に自ら飛び込んでいくことが、今後の行動方針でしょうか」
「それは、たしかにそうだ」
俺はアエカと顔を合わせてうんうんと頷く。
“縁”もまた同様に、それなら細くとも結ばれた縁を頼らない手はない。
俺たちはとりあえずこの場で待ちながら、人混みに彼の姿を探した。




