第三十一話 おじさま、交流する。(1)
≪World Reincarnation≫の正式サービスがスタートしてから、今日で早くも一週間が過ぎた。
もちろん内部時間での一週間だから、現実ではまだ二日目。
この間は、ただひたすらに町を発展させ、その合間に自分自身の熟練度稼ぎとプレイヤーとのコミュニケーションばかり。
俺にしても皆にしても、開始当初からはだいぶ緊張が抜けてきたから、道ですれ違えば挨拶を交わすくらいの交流はできている、はず。
現実への復帰はいつになるのか、いまだに進展はない……。
――ユグドウェル城塞、執務室。
「地下水道ダンジョンの攻略はどう?」
「プレイヤーの大部分は、インスタンスダンジョンでの攻略を進めていますが、まだ“骸渡りのトリストロイ”を討伐したパーティは出ていませんね」
「掲示板に、第二層の偵察に行くとか書き込みがあったけど」
「現状で挑戦できるステータスに達しているのは、実際に第二層を開放したおじさまくらいですから、五分と持たずに追い返されるかと」
「オレが開放したというか、ニオのスキルでからくも……ってところだから、現状ではオレも厳しいと思う……」
「不安ですか?」
「そりゃ、結構なトラウマが……。どのみち、パーティでの挑戦になるだろうから、近いうちに人を募らないと」
「もちろん、私はおじさまについていきます」
「助かる。プレイヤーが第一層を攻略したくらいで考えよう」
「はい。シードクリスタルの市場への供給が順当に増えているので、個々のビルドが拡張してくればじきに攻略法も確立されますね」
「それは期待したい」
アエカも相変わらず付き合ってくれるけど、彼女はどうしても現実に戻る必要があるため、長くて丸一日はログアウトしたままになる。
そんな時に代わりにいてくれるのが、≪World Reincarnation≫のサーバーを統括管理する、マザー人工知能《AI》のアイリーン。
いまのところ、彼女たちがいてくれるから国の運営に滞りはないけど、本来は人を集めてクランを組んで皆で役割を分担するものだから、俺ひとりではこなせなかったことをアエカとアイリーンが担ってくれているわけだ。
『“工学”の研究が完了しました』
時刻は朝食を食べて間もない朝の時間。ちょうど時計の短針が八時を指すとともに、研究の終了を知らせるアナウンスも流れた。
「よし、車輪が作れる!」
「工学の研究が完了したんですね。おめでとうございます」
「ありがとう。これで馬車も作れるようになるから、貿易が楽になる」
「次はどうされるのですか?」
「そうだな……」
これまでは、“学問”、“治水”、“冶金術”、“鋳造”と、町の発展を重視して進めていたから、そろそろ外敵の襲来に対する備えをはじめたい。
この地、ユグドウェルは≪冥い根の領域≫に近いため、防備を怠ればいずれ発生するモンスターの大侵攻で壊滅しかねないのだから。
「次は、“軍事教練”にしよう」
「ということは、騎士団の創設に着手するんですね」
「ああ、衛兵隊だけだといざというときに対処できないからな」
「安全保障を拡大できれば、周辺都市国家の信頼も相応に厚くなりますから、衛星都市への編入も現実のものとなります」
「そして、ゆくゆくはユグドウェル輝竜皇国の一部として、皆に安全で幸せな生活を送ってもらうことがオレの目的だ」
「ふふっ、“楽園”ですね」
「そのとおり」
守るために戦力が必要というのはやるせないけど、平和主義に傾倒するばかりで不条理に対処できなければ、失われるのは多くの民。
だから、堅牢な城塞都市を築き上げるために軍事技術が必要なんだ。
そして、人々を率いるためには俺自身も強くあらねばならず、これが俺のいまのステータス、一ヵ月半の成果だけど……。
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ニオ ニム キルルシュテン
種族:輝竜種
腕力:30 → 70(+10)
体力:15 → 30(+10)
敏捷:10 → 22(+10)
知能:25 → 51(+10)
原理:300
物理攻撃力:210 → 330
属性攻撃力:80 → 142
物理防御力:180 → 220
属性防御力:340 → 391
レリックスキル
≪生命の杯≫:レベル1 スキル:≪創世の灰≫ 光焔属性:30
思い描くことで任意の現象を創造する。
≪柔軟性向上≫:レベル3
皮膚弾力、体の柔軟性が向上する。やわらかボディ。
≪打撃耐性≫:レベル1
打撃に対する耐性を得る。
≪鑑定≫:レベル1 スキル:≪鑑定≫
レアランクまでのアイテムを鑑定することができる。
ユニークスキル
≪皇姫への敬愛≫:レベル1
スキル所持者を視認したプレイヤーに≪英雄≫効果を付与する。
英雄効果中のすべてのプレイヤーは1.1倍の攻撃力補正を得る。
スキル所持者を視認することで≪英雄≫効果の更新、再取得が可能。
≪英雄≫ 士気向上:レベル1 クリティカル率向上:レベル1
継続時間:10秒
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腕力と知能の攻撃関連数値は順当に伸びているものの、防御関連が伸び悩む輝竜種では、体力と敏捷の低さが目立ちはじめてしまっている。
それよりも、“やわらかボディ”ってなんだ。
いや、≪柔軟性向上≫は“骸渡りのトリストロイ”が落とした未鑑定シードクリスタルで、いちおうはボスドロップのはずなんだけど……。
『皮膚弾力、体の柔軟性が向上する』って、そのままの効果で体が柔らかくなったし、なんかお肌のぷにぷに感まで増したけど……違うだろう?
これではまるで、システム(アイリーン)から『女の子としての心身を磨け』とでも強いられているようで……俺は美容を追求したいわけでなく、ニオの腕力を活かした映える攻撃スキルこそが欲しいんだ……!
これがボスドロップなんて……ほんとわけがわからないよ……。
「お、おじさま……? 急に頭を抱えて、大丈夫ですか……?」
「あ、うん、大丈夫……。オレもそろそろ、いい加減に普通の攻撃スキルが欲しいから、今日はまず市場を見て回りたい」
「ウィンドウショッピングですね!」
アエカは何がそんなに嬉しいのか、ぴょこりと飛び跳ねて笑う。
ちなみに、お肌のぷにぷに感が増したせいか、彼女にはしょっちゅうもちもちされるようになったし、この一週間でモンスターに舐められた回数は、一日一回のノルマを達成して九回という新記録を樹立した……。
いや、ノルマではないけど……このままだと先行きが不安だ……。




