第33話 ハッピーエンド! ですわ!
狭く長い廊下。エミリアが殺気を放ちながらジリジリと距離を詰めてくる。
先ほどのバネッサとの戦いで、まだ脇腹がズキズキと痛んでいた。もはや、まともに戦う体力も残されていない。
「死ねッ! シュッ!」
エミリアは右足でハイキックを繰り出してくる。閃光のような速さだ。私は、かろうじて腕でガードした。重い衝撃が腕に響く。
「甘いッ! シュッ!」
「ぐはッ!! ……ですわ!」
間髪入れずに、左のミドルキックが飛んでくる。痛めた脇腹に突き刺さり、思わず声が漏れた。
しかし、何とかこれに耐えて私は前進する。そして、エミリアの腰に手を回した。
「ハァハァ! 捕まえましてよ!」
「馬鹿か? これでも喰らえッ!」
エミリアが私の頭めがけて肘打ちを放った。頭部に強い衝撃を受けて、脳が揺れる。
だが、プロレスラーという人種は、攻撃が来ると分かっていれば。どんな攻撃にも耐えられるのだ。
私は強く意識を保ち、最後の力を振り絞った。
「行きますわよッ! フロントスープレックスですわ!」
正面からエミリアを抱きかかえたまま、後ろへとのけ反る。エミリアの体は、綺麗な放物線を描いて地面に叩きつけられた。
「ぐはぁッ!?」
背中から硬い床に叩きつけられて、さすがのエミリアも声を上げた。
「このままスリーパーホールドですわ!」
いわゆる裸絞と呼ばれる技だ。エミリアの首に腕を回し、そして絞めつけた。
「ぐほぉッ! ぐぐぐぐ……!」
エミリアは、ジタバタと手足を動かし抵抗しようとするが。やがて、動かなくなり意識を失った。
「ハァハァ…… わたくしの勝ちでしてよ」
私は、よろよろと立ち上がる。勝負は、あっけないものだった。
エミリアの蹴りと肘打ちは鋭い刃物のような威力であったが。被弾覚悟で特攻すれば、捕まえることは容易かった。
しかし、バネッサとの戦いで既に相当なダメージを受けた私にとって、今回のダメージは致命的なものだった。
ひどく頭痛と目眩がする。先ほど肘打ちを受けた部分が燃えるように熱い。
「くッ…… ですわ!」
私は、片膝をつくと地面に倒れた。ひどい眠気が襲ってくる。そして、眠るように意識を失ったのだった。
☆ ☆ ☆
「はッ!?」
目覚めると白い天井だった。慌てて上体を起こすと、頭がズキッと痛む。脇腹も痛い。
「やっと目覚めたかい? 僕のお姫様。いや、ジェシカ・ジェルロード」
声のする方を見ると、生徒会長のキース・エヴィンが座っていた。私の体はベッドに寝かされていたようだ。
「ここは……? どこですの?」
「保健室だよ。君とエミリアが廊下で倒れているのを見つけてね。君は、ここに運ばれてきたって訳さ」
エミリアを倒した後、そのまま意識を失ってしまったようだ。
私は、キースに尋ねた。
「あの女…… エミリアは、どうなりましたの?」
「エミリアは今、拘束されているよ。まさか、彼女が神聖教団からの刺客だったとはね…… 僕もまったく気がつかなったよ」
「そうですの……」
とりあえず、一件落着だ。私は、ホッと安堵した。キースは話を続ける。
「今回の件で、エミリアは学園を追放されるだろう。生徒会副会長としては優秀だったからね。僕としては残念だけど、仕方ない…… ところで、僕は新たに生徒会副会長の適任者を探さなければならない」
「そう。大変ですわね」
私が他人事のように言うと。キースは、私の手を握って真剣な目つきで言った。
「それで…… 次の生徒会副会長には君がなって欲しい! ジェシカ君!」
「へッ!? わたくしが? 冗談でしょう?」
「僕は真剣だよ! 君こそ学園の生徒会副会長に相応しい!」
私は、キースの手をふりほどいた。
「嫌ですわ! わたくしは、こう見えて忙しいのですわ!(トレーニングで) 生徒会副会長なんて、まっぴらごめんですわ!」
「いいのかい? 僕には借りがあるはずだよ。女拳奴のバネッサ。彼女を保護した時のね」
「うッ…… ですわ!」
言われてみれば、そんなことがあった。
私は、しばらく黙って考えていたが、やがて口を開いた。
「まあ、いいですわ。生徒会副会長になってあげますわ。その代わり、ひとつ条件がありましてよ!」
キースは、それを聞いて首を傾げる。
「何だい? 条件っていうのは?」
「それは……」
☆ ☆ ☆
「ジェシカお姉さま! 看板ができましたわ!」
キャシーとロッテが嬉しそうに走り寄ってくる。手には大きな長い木の板を持っていた。
私は、その板に書かれた文字を見て頷く。
「うむ…… ですわ!」
その木の板には『女子プロレス部』と大きな文字で書かれていた。
「ついに、ジェシカプロレスの旗揚げですわ! 生徒会公認でしてよ!」
そう、私は生徒会副会長になる条件に、プロレス部の設立を生徒会長に認めさせたのだ。
「ジェシカさん! 私、頑張ります!」
部員には、キャシーとロッテ。それとフローラもいた。そして、この人も……
「俺は、この学園の生徒じゃねえんだけどなあ…… まあ、お嬢が言うならつき合うぜ!」
女拳奴のバネッサも特別に入部させた。今は、奴隷からも解放してある。ジェルロード家の使用人という身分だ。
「さあ、皆さま! この世界にプロレスを広めるために! 邁進いたしますわよッ! まずは、トレーニングですわ! スクワット千回いきますわよーッ!」
私が大きな声で言うと、キャシーとロッテは「ええーッ!? 無茶ですわ!」と声を上げるのだった。
~Fin~
応援ありがとうございました。
途中でエタりそうになりましたが、皆さまの応援のおかげで最後まで書く事ができました。
ありがとうございます!




