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第32話 黒幕の正体! ですわ!

「勝者! ジェシカ・ジェルロードッ!」


 審判の女生徒が私の手を高々と上げて宣言した。


「キャーッ! ジェシカ様ーッ!」


「ジェシカ様―ッ! 素敵ーッ!」


 観客席から黄色い歓声が聞こえる。バネッサに殴られた脇腹がズキズキと痛むが。私は、手を振って歓声に応えた。


 気を失っていたバネッサが、気づいたのか上体を起こす。


「お、俺は…… 負けたのか……?」


 私は、バネッサの元に歩み寄ると手を差し伸べた。


「ナイスファイトでしたわ。バネッサ・バルバロッサ」


 バネッサは私の手を取ると、フラフラしながら立ち上がる。彼女の目は、戦いを始める前と同じ虚ろな目をしていた。


「そうか…… 俺は負けたのか。強かったぜ、あんた」


「あなたも強かったですわ。また今度、戦いましょう!」


 しかし、バネッサは顔を私から背ける。寂しそうな背中を見せた。


「悪いな…… 俺に今度は無いんだ。帰ったら、俺は始末される…… 雇い主の神聖教団にな」


 見ると向こうから2人の兵士が歩いて来ていた。バネッサが入場する時に付き添っていた兵士だ。バネッサを拘束しに来たのだろう。


「そんなことはさせませんわ!」


 バネッサを連行しに来た2人の兵士の前に、私は両手を広げて立ちふさがった。兵士たちは、眉間にしわを寄せて私を見る。


「邪魔だ! どけ! その女を連れて行く!」


「彼女を連れて行くことは許しませんわ! 彼女の身柄は、ジェルロード家で保護しますわ!」


「な、何だと!?」


 兵士たちは立ち止まって顔を見合わせる。その時だった。リング上に、生徒会長のキース・エヴィンが上がってきた。私の隣に立って言った。


「僕も協力しよう。ジェシカさん」


 生徒会長のキースは、今回のイベントのことを知らされていなかった。恐らく神聖教団とのつながりは無いだろう。信用しても良さそうだ。


 兵士たちは、狼狽うろたえながら言う。


「そ、そんな勝手は許されない! その女は、我々の奴隷なのだ!」


「バネッサは、わたくしと命がけで戦った。わたくしの友人だちですわ! 奴隷だと言うなら、その身柄を我がジェルロード家で買い取るわ! あなたたちの好きにはさせなくてよ!」


「くッ……!」


 顔を歪ませる兵士。さらに、キースが前に出て言い放つ。


「どうしてもバネッサを連れて行くというのなら、僕たちが相手になろう!」


 超イケメンのキースが睨むと、迫力があった。兵士たちは後ずさる。そして、あきらめたのか帰って行った。


 バネッサが、信じられないといった顔をして私を見る。


「いいのか……? ジェシカ・ジェルロード。俺は、あんたの命を狙ってきた刺客だ。保護すれば、あんたの家にも迷惑がかかるぞ?」


「あら? 迷惑だなんて思わないですわ。だって、友達を助けるのは当然のことでしょう?」


「……友達? 奴隷の俺がか……?」


 バネッサは、少し驚いた顔をしている。私は自信たっぷりに言った。


「当然ですわ! 奴隷だろうと何だろうと関係ない。死力を尽くして戦った。わたくしたちは立派な友達でしてよ!」


「は…… はははは。あんた、本当に変わったお嬢様だな……」


 そう言いながらもバネッサの目は涙があふれていた。私は、彼女を優しく抱きしめる。そんな私たちの姿を見て。会場からも温かい拍手が送られた。


 それから、私は生徒会長のキースに言った。


「生徒会長。バネッサをお願いしますわ。ジェルロード家で保護するまで守っていただけるかしら?」


「ああ。任せてくれ。彼女には指一本触れさせはしないよ」


 キースは、頷いて答える。バネッサをキースに任せると、私はリングを降りて控室に向かった。まずは、着替えてボロボロの体を少し休ませなくては。


 パーティーの会場を出て控室に向かう。途中、長い廊下に出た。廊下の先に、1人の女性が立っている。


 黒い綺麗な髪。きちんとした制服姿。生徒会副会長のエミリア・エミュレットだ。


「ジェシカさん。お疲れさまでした…… まさか、あのバネッサを倒すとは。本当にお見事でした。おめでとうございます!」


 エミリアは、にこやかな笑顔を見せる。私は、目を細めて言った。


「あら? 思ってもいないことを平気で言うのね。さっきの試合で、わたくしが死んだ方が、あなたにとっては都合がよかったのではなくて?」


「……ちッ! 気づいてしまいましたか……」


 エミリアの表情が、笑顔から憎悪の顔へと変わっていく。


 生徒会長のキースには知らせずに、今回の格闘技のイベントを企画したのはエミリアだ。バネッサと戦わせて、私の命を狙うよう仕向けたのも彼女しかいない。


 それに、試合の前。エミリアは、フローラのことをフローラ様と言っていた。光属性の魔力を持つフローラのことを崇拝していたのだ。そして、闇属性の魔力を持つ私の命を狙ってきた。理由は、はっきりしている。


 私は、エミリアを指さして言い放った。


「生徒会副会長エミリア・エミュレット! あなたが神聖教団の手先ね?」


 エミリアは、憎悪の表情のまま不敵な笑みを浮かべる。


「ふふッ…… ふふふふ。バレてしまったら仕方ありませんね。ジェシカ・ジェルロード。あなたには、ここで死んでもらいます」


 エミリアは、ボクシングのかまえのように拳をかまえる。そして、右足を少し浮かせて前に出した。このムエタイのようなかまえは以前にも見た事がある。


 理事長室に『宵闇よいやみのマント』を返しに行った時に、突然襲ってきた仮面の暗殺者。それと全く同じかまえだったからだ。


「そう…… あの時の仮面の暗殺者。それも、あなただったのね」


「今度は、確実に殺す! ジェシカ・ジェルロード。汚らわしい闇属性の魔力を持つ女。お前の存在を神聖教団は認めない。闇の力を持つ者は、闇にほうむる!」


 エミリアの正体は、神聖教団の暗殺者アサシンだったのだ。鋭い殺意を向けている。


 誰もいない長い廊下。今まさに第2ラウンドの幕が切って落とされようとしていた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ジェシカ様が犠牲者の仲間を憎むのではなく、責任者を狙う方法が本当に好きです。 これは正当に使用される暴力です。
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