03
「メイちゃん、君はこの世界とは違う、異世界から来たんだろう?」
「!」
何て答えたらいいのか分からず、固まってしまう。
「実はこの世界には時々異世界人が迷いこんでくるんだよ。それで皆メイちゃんみたいに見たことのない綺麗な服や持ち物を所持していて…。だからメイちゃんもそうなのかな?って思ったんだけど」
なんとこの世界には芽衣のように突然異世界に来てしまった人たちがいるらしい。そのことをリーシャが知っているということは、少なくとも状況・事情を知っていると思い、芽衣は覚悟を決めてリーシャに話す。
「はい。私はこの世界とは違う世界から来たようです。気付いたらあの森にいたんです」
「やっぱり…」
「あの…向こうに帰れるんですか?」
気になっていることを訊いてみると、リーシャは残念そうに首を横に振った。
「今のところ、誰も帰ることが出来てないみたいだ」
「そんな…」
物語だと条件をクリアすれば戻れるとか、召喚魔法を使って戻れるとかあったのに…それらは所詮物語の中だけのことなんだな、と思った。
(これからどうすれば…)
戻れる見込みもないので、これからこの世界でどうやって生きて行けばいいのか…。
困っている芽衣を見て、リーシャは優しく話しかける。
「実はこの王都にも異世界人が三人住んでいるんだよ」
「え?」
「確か…冒険者ギルドの職員と料理人見習い、あと配達員かな」
すぐ近くに芽衣と同じ状況でやって来た人たちがいるらしい。色々と話を聞いてみたい!そう思っていると、それがリーシャにも伝わったようで「明日会わせてあげるよ」と云ってくれた。
「暫らくはこの家で暮らすといい。部屋もいっぱいあるし、知りたいことは僕や執事たちに聞いてもいいし」
「えっ…でも迷惑なんじゃ…」
逆の立場で、もし日本にリーシャがやって来た場合、自分だったら知り合って間もない異世界人を泊めることに抵抗してしまうだろう。
「でも宿に泊まるにしてもお金が必要だよ」
(そうだ。身分証もお金も持ってないじゃん)
「…お言葉に甘えてお世話になります」
この世界のお金を持っていない芽衣は、素直にリーシャの申し出を受け入れた。芽衣が受け入れると、リーシャはコホンと咳をすると、目を輝かせて身を乗り出してきた。
「それで、君の世界のことを教えて欲しいんだけど」
「えっと…」
「魔法はないんでしょ? どうやって生活してるの? 庶民の生活は? 移動手段は?」
「えっと…」
矢継ぎ早に質問され、芽衣は戸惑う。
「魔法はないです。生活は主に電気を使う機会が多く、電気が止まると不便になります」
ゆっくりとだが芽衣は説明していく。芽衣の説明にリーシャは頷いたり、更に質問したりしてきた。
ある程度説明を終えると、満足したらしいリーシャは芽衣を部屋へと案内してくれる。
「この部屋を使って」
案内された部屋はとても広く、芽衣は驚いてしまう。するとリーシャは笑みを浮かべながら云った。
「屋敷が広くて部屋も余ってるんだ。夕飯の時に呼びに来るけど、それまでゆっくりしてていいよ」
「色々ありがとうございます」
「あっ、それと他の人が云ってたけど、カバンとか持ち物を確認しておくように」
「?」
持ち物が無くなっていたりするのかな?と思いつつも、芽衣は頷いた。
リーシャが部屋を去った後、芽衣は早速持ち物の確認をする。
「えっと買った物は全部袋に入ってるし、バッグは斜めがけのだから今もかけてる」
ビニール袋の中を確認し、次はバッグを確認しようと中に手を入れると、いつもより深い気がする。
「ん?」
大きなバッグではないので、すぐに財布やスマホが手に当たるはずなのに、今は何の感触もない。
「え?」
思わずバッグをひっくり返してみるが、中身は出てこない。
「なんで? 落とした記憶もないし」
バッグの中に手を突っ込んで探し続ける。もしかして異世界に来た時に無くなってしまったのでは?と思っていたその時、何か硬い物が指先に触れた。
「ん?」
引き上げてみると、手にはスマホが握られていた。
「ひっくり返した時に出てこなかったのになんで? それにスマホしかないの?」
とりあえずスマホだけでも見つかったのは良かった。必要最低限の物しか入れていないバッグは小さいはずなのに、何故バッグの中がこんなに深いのだろう?と不思議に思っていると、目の前にステータスという画面が出てきた。
「わっ!」
突然現れた画面に驚くと、そこには芽衣のステータスが記載されていた。
小日向芽衣
異世界人
年齢:19歳
職業:商人
レベル:1
魔力:600
スキル:異世界商品取寄せ、鑑定
持ち物:マジックバッグ、スマホ、異世界商品
と書かれていた。
「職業が商人? 異世界商品?」
何故商人なんだろう?と思う。日本では小遣いを得るためにアルバイトをしていた。それが関係しているのだろうか?
「鑑定っていうと、物の詳細とかが分かるやつだよね」
試しに自分のバッグを鑑定してみる。
マジックバッグ
所有者:メイ・コヒナタ専用。容量無制限のバッグ。思い浮かべた品を取り出せる。生きている人・動物は入れられない。時間停止機能あり。
「これってとても便利なやつだよね」
こんな小さなバッグが容量無制限で時間停止機能もついてるとか。いわゆるチートというやつですか、と芽衣は思う。
「異世界商品っていうのは、多分100円ショップで買った物のことだよね。あとはスマホは…」
電源を入れてホーム画面にしてみる。するとホーム画面に設定していた、通話やSNS、ゲームのアイコンは消えている。詳細を確認してみても、今まであったアプリはほぼ消えていて、数個のアイコンしか残っていない。
「やっぱり電話もメールもダメか」
いきなり異世界になんか来てしまったので、親や友人たちにせめて無事であることを連絡したかったが、それも出来ない。思わず溜め息を吐いてしまうと、改めて残っているアイコンを見直した。そこには見たことのない物が一つあった。