19
明日は久しぶりにリーシャと魔法の練習をすることになっている。
思いっきり魔法が使えるように街の外に出ると聞いているので、せっせとお弁当を作っている。
「おにぎりとサンドイッチ、あとは味付けしたお肉を焼いたのと卵焼き。海苔の佃煮とポテトを和えた物と…」
メニューを決めて、芽衣はどんどん料理を作っていく。
「作りすぎたら後日食べてもいいし」
沢山作っても、どれがリーシャの口に合うかどうか分からないので、ひたすら料理をし、食べやすい量をシリコンカップに入れたりして、どんどんタッパー型保存容器に入れていく。
「ふぅ…なんとか出来た」
全ての料理を保存容器に入れ終え、一息吐く。
あとはレジャーシートを用意して、飲み物と料理と共にマジックバッグにしまう。
「これで準備万端」
そんなに遠くへ行くわけではないので、これだけあれば何とかなるだろう。
「リーシャさんも気に入ってくれるといいけど」
普段から良い物を食べているであろう貴族のリーシャの口に合うかドキドキする。
「よし。明日に備えて、今日は少し早く寝よう」
芽衣は風呂に入り、いつもより早めにベッドに潜り込んだ。
朝は簡単にインスタントスープとパンとサラダで食事をし、リーシャとの待ち合わせ場所である門付近へと移動する。
相変わらず王都へ出入りする人は多く、今も沢山の人が並んでいる。
「ここら辺で待っていれば分かるかな?」
人は多いが、リーシャは目立つのですぐ分かると思う。
そうやってリーシャが来るのを待っていると、芽衣の近くに一台の馬車が止まった。
「ん?」
もしかしてこの馬車の人も待ち合わせをしているのかもしれない。
(邪魔にならないように…)
そっと場所を変えようとしていると、突然馬車のドアが開き、中からリーシャが出てきた。
「おはようメイちゃん」
「お、おはようございます」
まさか馬車で登場するとは思わなくて、芽衣は驚いてしまう。
芽衣が驚いていることを感じたのか、リーシャは事情を説明してくれた。
「今日はソマリも一緒に行きたいって云うから、急遽馬車を用意したんだ。ささ、乗って」
「はい。お邪魔します」
知りたかったことを教えてもらい、リーシャに促されて馬車へと乗り込むと、早速ソマリに声をかけられた。
「おはようメイちゃん」
「おはようございます、ソマリさん」
「今日はリーシャがメイちゃんと外で魔法の練習をするって云うじゃない? 私もメイちゃんに会いたいから付いてきちゃった」
芽衣と会えて嬉しいらしく、ニコニコと笑っているソマリの隣にはメイドが一人座っていた。
「おはようございますメイ様」
「イルナさんもおはようございます」
屋敷でお世話になったメイドのイルナとも挨拶を交わす。
「それじゃ出発しよう」
挨拶を済ませて全員が座ったところで、リーシャが御者に声をかけると馬車がゆっくりと動き出す。
手続きをして無事門の外に出ると少しスピードが上がり、その車内でリーシャが今日の予定を話してくる。
「今日は魔物と遭遇したら、魔物相手に攻撃魔法の実践もしたいと思っているんだ」
「魔物ですか?」
街の外に行けば魔物と遭遇することもあると聞いてはいるが、実際にまだ魔物と会ったことも戦ったこともない。
魔物と遭遇した時にちゃんと戦えるのか不安になる芽衣に、リーシャは「大丈夫だよ」と声をかけてきた。
「今日行くところは弱い魔物しか居ない草原だし、何かあれば僕が倒すから」
魔法が得意なリーシャがいるのだから大丈夫。そう云い聞かせて芽衣は頷いた。
「はい。よろしくお願いします」
王都を出て馬車で20分。
街道から充分逸れた目的地の草原に着くと、イルナは早速場所を確保するため土魔法を使って地面を平にする。固めた地面の上に敷物もなしに座ると聞いたので、ソマリたちの服が汚れないためにもレジャーシートを取り出し、イルナに「良かったらこのシートを使って下さい」と声をかけた。
「これは?」
「これはレジャーシートといって、敷物として使います。このシートは汚れても水で洗ったりして繰り返し使えるんです」
「便利ですね」
「はい。けれど弱点があって…ペラペラなので、四隅に重石をしないと風で飛ばされちゃうので気をつけて下さい」
芽衣が云うとイルナは頷いた。
「分かりました。飛ばされないよう気をつけます」
真剣に頷いたイルナは、早速大きめの石を用意していた。
ソマリたちの待機スペースが出来たところで、リーシャと共に待機スペースからかなり離れた場所へ移動する。
「ここら辺でいいかな」
草しか生えていない辺りを見回してリーシャが云う。
「それじゃ今日は魔力の持続力を見るのと、攻撃魔法の練習をやってみよう」
「はい」
まずは魔力を身体に纏い、その状態を維持する。少しでも気を抜くと纏っている魔力が弱くなっていくので、維持するにはそれなりの気力が必要になる。
暫らく芽衣の様子を見ていたリーシャは頷く。
「うん。だいぶ魔力を維持することが出来るようになったね」
リーシャに褒められ、芽衣は笑う。
「それじゃそのまま攻撃魔法の練習をしよう」
「はい」
必要最低限だと思われる生活魔法は覚えたが、攻撃魔法を使う必要はなさそうなので後回しにしていた。
「今メイちゃんが使えるのは火と水だよね? じゃあ威力のある火を強化していこう」
「はい」
教えられたとおりに火をイメージして集中する。
(攻撃をするんだから、その場で相手を燃やすか、ボールみたいなのを飛ばして攻撃するか…)
ゲームで使われているような魔法をイメージし、魔力が高まったところで何もないところへ魔法を放つ。
「えいっ!」
芽衣がイメージしたのはその場にいる相手を燃やすことで、魔法を放った場所が焚き火のようにボッと燃えた。けれどその火はすぐに消えてしまう。
「初めてでこれっていうのは凄いね」
しっかりと燃えた場所も確認したリーシャは、うんうんと頷いている。
「それじゃ次はもう少し長く燃やせるようにイメージして」
「はい」
云われた通りにもう少し長く燃えるイメージをし、もう一度魔法を放つ。
先程よりほんの少し長く燃えたので、成功と云えるだろう。
「いい調子だよ。次は火力を上げて…火を大きくするイメージで」
「はい」
リーシャからどんどん次の指示が来る。時々失敗もするが、それでも短時間で魔法が成長していると思う。
「よしっ。それじゃここでお昼休憩をしよう」
一生懸命云われたことをやり続け、気付いたら昼を少し過ぎていた。
「と、その前に…ポーションを飲んでおいた方がいいね」
かなり魔法を放ったからか、身体も少し疲れているような気がする。リーシャに云われた通り、昼食の前だが魔力回復ポーションをしっかりと飲んだ。
7/19
タッパー型保存容器に変更