12
やっと開店です。
「開店初日だけど、お客さんは来てくれるかな? それに品物を買ってくれるかどうか…」
宣伝らしい物は全くしていないので、客が来るのか不安になる。商品を見てくれるだけでもここに店があると認知して貰えるのでありがたいが、実際に購入してくれる客はいるのかどうか…。
「ダメなら宣伝して、商品が売れなければルスタさんや美月さんに聞いて改善していけばいいし…とりあえず記念すべき初日、オープン!」
ドアに向かって『OPEN』と念じると、ドアにかかっていた鍵がガチャッと音を立てて解除される。これも生活魔法の一つで、身の安全を守るものとしてリーシャに教わった。
ドアが解除されると、それを確認するかのようにドアがノックされた。
「はい。どうぞ」
ドアに向かって芽衣が答えると、ドアのベルが鳴り、ゆっくりと開いて最初の客が入ってきた。
「いらっしゃいませ」
最初にやって来たのは鎧を纏った少年だった。
「あの…リーシャ様に紹介してもらって、ここにある汗を拭く布がオススメだと聞いたのだが…」
「はい、タオルですね」
恐る恐る入ってきた鎧少年は、物珍しい品が並んだ店内を見回していた。どうやらリーシャが宣伝してくれたようで、「仲間たちも後から来ると思います」と告げてきた。
(リーシャさん、本当にありがとうございます!)
心の中でお礼を云いつつ、芽衣は鎧少年をタオルが置いてある場所へ案内した。
「こちらがタオルになります」
「な、なんと! こんなに種類が…」
色とりどりのタオルを目にした鎧少年は種類の多さに驚く。
「性能はどれも同じです。好きな色を選んで下さいね」
「そ、そうなんですか」
鎧少年は真剣な眼差しでタオルを選び始めた。一人でじっくり選びたいだろと思い、芽衣はそっとその場を離れた。
するとまたベルが鳴り、ドアが開いた。
「よぉ嬢ちゃん」
「ルスタさん! いらっしゃい」
次にやって来たのは商業ギルドのルスタだった。
「視察も兼ねてな」
バチンッとウィンクされた。率直におっさんのウィンクはあまり可愛くないと思った。
「どうぞ見て行って下さい」
思わず苦笑していると、既にルスタは商品チェックをするために店内を歩き回っていた。
ルスタには事前に報告していたが、今芽衣の店で売り出しているのは、
タオル
石鹸
石鹸ケース
造花
花瓶
インスタントスープ
海苔の佃煮
である。
インスタントスープなどの食品を取り扱うか悩んだが、湯を入れてかき混ぜるだけで美味しい物が手軽に作れるのは楽でいい、というルスタの声を聞いて取り扱いを決めた。今のところコーンとオニオンの2種類を置いているが、いずれ種類を増やす予定だ。
海苔の佃煮に関しては、物珍しいということで置いてみた。ジャムとどちらにするか悩んだ末海苔を選んだ。いずれジャムやマヨネーズなどの調味料も置く予定である。
石鹸はウォッシュクリーンの魔法があるので置く必要がないと思っていたが、レベルの関係で魔法をあまり使いたくない人や綺麗好きな人は普通に石鹸を使っているという。そして美月から日本で売っている物は匂いが良いので絶対に女性に売れると助言をもらったので置いてみた。
そういった声を元に、種類は少ないが販売する商品を決めていった。
鎧少年とルスタがじっくりと商品を見ている間に次々と客が入ってくる。宣伝していないのに何故沢山の人が?と思ったが、話を聞くとリーシャや美月たちの紹介で来た人、近くを通りかかって覗きに来た人が殆どだった。
急に忙しくなったこともあり、対応に追われながらも最初なので商品の説明はきちんとした。
「このスープはお湯を入れてかき混ぜるだけで飲めます」
「これは石鹸を置くケースです。こうして石鹸を置くと、水が下の容器に溜まって…」
「この花は作り物なので、こうして飾るだけで部屋が華やかになります」
同じような説明を何度も繰り返し、それらは物珍しいこともあって次々と売れていった。その結果夕方前には売り切れになり、店内外に残っている客にまた仕入れ後販売すると伝えた。
買えなかった客はがっかりしていたが、珍しい商品が短時間で売り切れたことに誰もが納得したようだった。
芽衣は客のいなくなった店内を簡単に掃除し、魔法でドアを施錠する。
「それにしても全部売れるとは…」
改めて空になった棚を見て、またコツコツと商品を用意しなくてはと思った。幸い今日1日で沢山の硬貨が手に入ったので、硬貨で支払っても手元には充分残る。
「100円で仕入れて、一番安く設定している石鹸ケースが銅貨5枚。銅貨1枚で100円って計算だから、安い商品でも400円の利益はある…ってことだもんね」
もう少し販売金額を安くしてもいいと思うのだが、基本的にラスターニャは物価が高いらしい。それでもユイオンでは比較的安めの価格で商品が売られているらしいが、他国では品物によってはユイオンと比べて倍近い価格で売られているところもあるという。
「金額のことはルスタさんにも注意されてるから、こればっかりは仕方ないのかな」
かなりの利益を得ることに罪悪感はあるが、今はリーシャに多額の借金(最初に借りたお金プラスこの店舗兼住宅の家賃とリフォーム代)がある身なので、それを全て精算してから何か還元出来ることを考えてみるのもいいな、と思った。
戸締りを終え二階の住居へと移動し、早めの夕食を摂る。開店初日は慣れないことに疲れてしまうかもしれないと思い、昨日のうちにおにぎりを何個か作り置きしておいた。そこにインスタントの味噌汁を用意し、ゆっくりと食べ始めた。
「ふぅ…落ち着く」
味噌汁を飲んで一息吐く。落ち着いた頃にインスタントスープがあんなに売れるので、もしかしたら味噌汁も売れるかもしれないと思った。
食事を終えると、早速次の営業日用の仕入れをすることにした。
異世界商店を起動すると、ウサギと共にいつもの文字が表示される。
「えっと、今日早めに売り切れたのはスープだったよね」
手軽に美味しい物が作れるという説明であっという間に売れた。
「次はスープを少し多めにしようかな」
インスタントスープを優先的に買おうと、カートに4コ入れる。残りは石鹸、石鹸ケース、タオル、海苔の佃煮、造花、花瓶を1コずつカートに入れ、硬貨で精算する。
するといつもならウサギが『ご注文ありがとうございました』とお辞儀をするのだが、今日はニコニコ笑顔だった。
『いつもご利用ありがとうございます。あなたのレベルが上がったので、全商品1日30コまで購入出来るようになりました。おめでとうございます』
画面ではウサギが拍手をし、お祝いというように花びらが舞っていた。
「え?」
ウサギに云われて慌ててステータスを確認する。
小日向芽衣:
異世界人
年齢:19歳
職業:商人
レベル:2
魔力:800
魔法:火、水、生活魔法
スキル:異世界商品取寄せ、鑑定
持ち物:マジックバッグ、スマホ
となっていた。
「本当にレベルが上がってる!」
いつの間にかレベルが上がっていることに芽衣は驚いた。
「ってことは…」
もしかしたら今から追加注文出来るかもしれないと思い、インスタントスープを1コだけカートに入れて支払い画面へ進むと、無事追加で購入することが出来た。
芽衣は更に追加で商品を購入した。
「レベルが上がって1日30コ買えるようになったのは嬉しいけど、100円商品しか買えないのは変わらないか…」
項目もまだ100円ショップしか光っていない。
「でも1日に買える数が増えて良かった」
これなら次の営業日までに相当な数を仕入れることが出来る。折角来店してくれたのに、売り切れで買えなかった人たちに申し訳なかったが、これなら次はもう少し長く営業出来るだろう。
「次の営業日まで頑張って仕入れよう」
芽衣は次の営業日に向けてコツコツ仕入れをすることにした。