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仕入れをするのに丸々1日を使うわけではない。
そのため時間があれば魔法のイメージを膨らまし、魔法の練習に疲れればソマリとお茶をしたり、この王都内にどんな店があるのか、どんな人たちが集まっているのかをリサーチするため歩き回る。
そして散策中に獣人たちと出会った。
獣人たちは街中で普通に暮らしているという。
異世界なのでもしかしたら…と思っていたが、獣人の他にエルフやドワーフもいると教えてもらった。
「いつか会ってみたいな」
そんなことを思いながら、食材を求めて大通りにある門付近の広場へ向かう。そこには露店がずらりと並んでいて、大勢の買い物客で賑わっていた。
「うわ~相変わらず凄い」
ここの露店では近隣から行商に来た人たちや、職人たちが作った物を販売している店などがあるので、同じ物が毎日手に入るとは限らない。そういった楽しみも露店が賑わう理由だと聞いた。
今回は食材を買うのが目的だが、時間があるのでその他の露店をじっくりと見て回る。布生地店、糸や針などの手芸用品、工芸品、冒険に特化した物を扱っている店、調理器具の店、食材を売っている店やパンや串焼きなどの飲食店などが並んでいる。
ちゃんと区画整理をしているようで、飲食スペースは端の方で纏まっている。もし布製品と串焼きが隣同士だったとして、せっせと肉を焼く度に布製品に芳ばしい匂いが移ってしまうのを防ぐためだという。それと飲食した手で他の商品をベタベタ触られるのも嫌なため、毎日商業ギルド主催で区画整理をしていると聞いた。
ちなみにその中に宝石や洋服、武器防具といった店はない。ここは誰もが気軽に、買いやすい値段で売られているため、値段の高い物は売られていない。
今日は市場調査のために冒険に特化した物を扱っている店を覗いてみる。
最初に覗いた店はズラッと小瓶が並んでいた。
「これは回復ポーションで、こっちは毒消しポーション」
店員が丁寧に説明してくれた。やはり異世界なことだけあって、ポーションがあるということを知った。
次に覗いた店は干し肉や干した果物などが売られていた。どうやら冒険者たちにとっての携帯食を扱っている店のようだ。そこに缶詰のような物が売られていたので、店員に聞いてみた。
「これは?」
「これは携帯食料の野菜のオイル漬けと肉のオイル漬けの缶詰だよ」
「へぇ~」
何十年か前にやってきた日本人が試行錯誤の末に缶詰を作ったらしい。中身は少しでも長く保存が出来るように…とオイルに漬けた物を入れているが、保存を目的にしているので予想以上に油っこい、と教えてもらった。
それなのに冒険者たちが買っていくのは、いつ何が起こるか分からないから。遭難した時やダンジョンに潜る時などに役立つそうだ。
(インスタントスープが早くに売れたけど、こういう携帯食みたいなのも売れるのかも)
簡単で食べやすければ冒険者だけではなく、仕事で忙しい人たちにも売れるだろう。
実際の味を確認するために、干し肉と干し果物、肉のオイル漬けをそれぞれ1つずつ買った。
他の店を覗いてみたが、どの店もポーションや携帯食、採取用のナイフや皮袋などを売っており、特に目新しい物はなかったので、パンや串焼きなどを売っている飲食スペースへと移動する。
匂いにつられるようにして歩いていくと、飲食スペース付近は更に活気付いている。
「いらっしゃい、出来立てのナンはどうだい?」
「フルーツの氷漬けがオススメだよ」
「人気の串焼きを食べないと損だよ」
あちこちの店から呼び込みの声が聞こえる。
(ナンがあるんだ。フルーツの氷漬けは名前の通り、凍らせたやつかな?)
興味を持った芽衣は、ゆっくりと歩いて覗いていく。今日は肉を焼いている店が多い。
素材を味わうためなのか、他の調味料が高いからか、塩味の店が多い。その中でもハーブを使った店を見つけ、思わず買ってみる。
「串焼き2つ下さい」
「あいよ」
焼きたての串焼きを2つ貰う。ラスターニャでは食品に包み紙やトレイなど持ち運び出来るような物がなく、全て直での受け渡しになる。パンや野菜などは持参したカゴに入れればいいが、こういった食べ歩きの物を家まで持ち帰るのは難しい。
受け取った1本はこの場で食べるのでそのままでもいいが、もう1本は夕食用に買ったので直接マジックバッグに入れるか悩んだ末、バッグからタッパー型保存容器を取り出してそこに入れる。
このマジックバッグは優秀で、汚れた物や濡れた物を入れても他に収納している物が被害に合うことがない。けれど脂があるので、念のため保存容器に入れることにした。
購入した串焼きをパクッと食べてみる。ハーブとほんのりの塩が合わさり、爽やかで食べやすくなっている。
「とても美味しいです」
芽衣が感想を告げると、店員は「ありがとうよ」と微笑んでいた。
次にナンを売っているという店に行くと、店員は大きな壷からナンを取り出していた。
「ナンを2つ下さい」
「はいどうぞ」
受け取ったナンは熱々だったが、良く見てみると日本と大きさが違い、こちらのはロールパンと同じぐらいのサイズだった。
早速ちぎって食べてみるととても美味しかった。このまま食べてもいいし、周りで売られている肉や野菜を乗せてたべてもいいし、カレーなどをつけてもいいし…と様々な食べ方を思い浮かべた。
追加でナンを3つ頼み、マジックバッグからフリーザーバッグを取り出し、そこに入れた。
先程の串焼きといい、どうも加工した食品を入れ物にいれないと落ち着かない。
飲食スペースを一通り見終わった後、今度は食材の区画へと移動する。
ここでは野菜や果物、塩・胡椒などの香辛料、肉などが売られていた。
いちおう塩以外の調味料はあるが、他国からの輸送費がかかってしまうため、どれもいい値段になってしまうという。それを露店では量り売りし、ちょっと頑張れば買えるという設定にしてあるそうだ。といっても少量でも結構いい値段をしているので、本当に買う人がいるのか気になる。
野菜や果物は周辺の農村から売りに来ていて、色々な物が売られていた。こっそり鑑定してみると、並んでいる物はじゃがいもやオレンジなどと説明された。
肉は主に魔物の肉を販売しており、ここでは王都周辺に現れる魔物の肉が売られている。比較的安く手に入って栄養もあるので、魔物の肉は庶民の味方らしい。
変わった物だとパスタが売られていた。これもラスターニャに来た日本人が試行錯誤の末完成させた物らしい。店員が云うにはうどんもあるが、生憎今日は持ってきていないとのこと。どうやらパスタとうどんを作った人は同一人物のようだ。
今日は安売りしていたじゃがいもと玉ねぎと人参、パスタと小麦粉、豚肉と鑑定されたグリーンオークの肉を買って帰った。
家に着くと早速冒険者たちの携帯食である干し肉と干し果物、缶詰を出す。
「まずは味見をしてみよう」
最初に手にしたのは干し肉。手で千切ろうとするが、硬くて千切れない。思い切って干し肉の端を口に入れてみるが、やはり硬くて食べれない。
「こんな硬い干し肉を冒険者の人たちはどうやって食べてるんだろう…」
今度冒険者と会うことが出来たら、携帯食について聞いてみようと思った。
干し肉があまりにも硬かったので、干し果物も同じような物では?と不安になりながら手で割ろうとする。こちらも硬く、手で割ることが出来ない。
「日持ちするように作られてるんだろうけど…硬すぎる」
干し果物は諦めて、次に缶詰を開けてみる。
「うわっ…凄い油の量」
開けた途端、とにかく油の量が多くてビックリした。その中に一口サイズの肉が3つ程入っていた。
芽衣は肉を1つ取り出し、少し油を切ってから口に入れた。
肉を噛んでみるが、味がしない。どうやら下味がついていないらしく、ただ焼いた肉を油で保存しているようだ。
「美味しくないし、お肉が少なすぎる」
せめて下味がついていれば、少しは食べやすくなるのでは?と思った。
「お店が落ち着いたら缶詰とかの携帯食を売り出してもいいかもしれない」
今度ルスタに相談してみようと思った。
残った干し肉と缶詰はあのままでは食べられないので、再利用させてもらった。鍋で玉ねぎや人参を炒め、そこに水を入れて沸騰させ、コンソメと干し肉を入れて煮込む。最後に塩コショウで味を調え、スープの出来上がり。
缶詰の方は、パスタを茹でている間に肉を細かくし、ハーブソルトを加えて軽く炒める。パスタが茹で上がったら肉と缶詰の油を少し絡めて、パスタの出来上がり。
パスタもスープも携帯食の残りを入れた物とは思えない程美味しく出来ていた。
「工夫すれば食べやすくなるね」
もしかしたら携帯食はこうして調理に使うのでは?と思った。
「美月さんに聞いたら教えてくれそうだけど、ここは実際に冒険している人たちに話を聞いた方が良いかも」
次の営業日に冒険者が何人か訪れるだろう。その時に少し聞いてみようと思った。
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タッパー型保存容器に変更




