師への道程
程遠志らを討ち取った翌日、俺達は鄒靖から呼び出された。
「やあ劉備殿、先日のご活躍、見事でしたぞ。」
よく言う。張飛らの働きがなければ、あのまま見捨てていたろうに。
戦況を見極め、応変の戦略を取れたあたり能力はあるのだろうが、俺はどうも、この男を好きになれない。
「お褒めの言葉、恐悦至極に存じます。」
劉備は怒りを胸に秘めたまま、にこやかに応対している。
ちなみに張飛は今にも鄒靖に食らいつきそうな勢いなので、俺と長生で抑えている。お前が飛び掛ったら洒落にならん。
「早速で恐縮なのだが、青州で黄巾族に当たっている盧植殿から救援要請が来ている。すぐに救援を送りたいところだが、こちらには余裕が無い。そこで・・・」
「私達が、ということですね。」
黄巾族、というのは太平道の信徒達の事だ。仲間の印に黄色い頭巾を巻き、略奪行為を働いたので誰ともなく、自然とそう呼ばれるようになった。
にしても、青州か。やけに急な話だな。
「そうだ。できるかぎり早く、頼めるな?」
「わかりました。」
鄒靖は微笑んだ。
「ありがたい。聞けば劉備殿は盧植殿の門下生だと言うし、色々とやりやすかろう。」
「重ね重ねのご配慮、ありがとうございます。では、早速任地に向かわせていただきます。」
「道中の兵糧はこちらで用意しよう。頼むぞ。」
俺達は天幕を去り、仲間たちに指示をして、その日のうちに出立した。
義勇軍が出立するだけだと言うのに、鄒靖軍の兵士たちは俺達を喝采と共に送った。
やけに急な話だと思ったが、理由はこれか。昨日の俺達の戦いぶりを見た兵士たちは、劉備に心を寄せ始めていたのだ。
俺の知る歴史でも、劉備は行く先々で重用され、警戒もされていた。それには、劉備の恐ろしい迄の人徳が大きく関わっているのかもしれない、と感じた。
青州に向かう途中、俺達は黄巾族に襲われている村を通りかかった。
即座に全員で助けに向かったが、ほぼ手遅れだった。
生き残りを探している時、子供のすすり泣きが聞こえた。
「父ちゃん、母ちゃん・・・」
声の聞こえる方に行くと、恐らく父と母だろう、何かを庇うように倒れている二人に、その子供はすがりついていた。
「・・・少年」
俺が声をかけると、少年は身構えた。
「・・・僕を殺しにきたの?」
既に事切れた両親を庇うように、少年は小さな手を両親の背に当ててこちらを睨んできた。
「違う。助けに来た・・・間に合わなくて、すまない。」
「そう・・・」
少年は、下を向いてうなだれた。突然の出来事を、受け止めきれていないように見えた。
俺は、何故かこの少年に放っておけない何かを感じた。
「少年、名前は?」
「田豫。字はまだない。」
「そうか、田豫。俺たちと一緒に来ないか?」
「あなたは?」
「俺は簡雍、字は憲和だ。劉備、ってやつの下で、苦しんでる人々を救うために戦っている。」
「僕は、難しいことはわからない。けど、僕みたいな人を、もう出さないようにしてくれるってこと?」
突然、後ろから声が聞こえた。
「そうだ。俺も、こんな光景はもう見たくねえ。」
声の主は劉備であった。
「少年、そこに倒れているのはご両親か?」
「そうです。僕をかばって、あいつらから助けてくれました。」
「そうか・・・良いご両親を持ったな。」
「はい。」
田豫はそう言うと、再び涙を流した。
「お前の両親に代わって、俺が面倒見てやる。ついてこれるか?」
田豫は、一瞬考えた後、強い意志を秘めた目をこちらに向けた。
「行きます。僕にも救える人がいるなら、なんでもやります!」
「わかった!今からご両親も含め、村の人々を弔う。お前も来てくれ。」
俺達は、その後一日かけて村の人々の埋葬と弔問を済ませ、青州への道を急いだ。
青州に着き、盧植先生の出迎えを受けた。
「玄徳、皆、久しぶりじゃな」
「お久しぶりです、先生。お変わりないようで。」
「玄徳、人は常に成長するものだ。ワシも、以前のワシとは比べ物にならんほど成長したわい。」
「これは失礼しました。では、大いに相変られましたようで何よりです。」
「うむ、よろしい。」
久しぶりの師弟のやりとりである。故郷に帰って来たような安心感の元で、俺達は再び軍議に向かった。
盧植先生の作戦は見事なもので、俺達は前回のような苦戦はせずに青州の黄巾族を撃退することに成功した。
「うむ、やはり優秀な弟子がおると楽じゃの」
「先生のお力に比べれば、私など・・・」
1ヶ月ほど盧植先生の元には滞在したが、今度は漢王朝の将軍・朱儁殿の救援に向かうこととなった。
聞けば朱儁軍は、張角の弟である張宝と当たっているとのこと。
ついに来たか!張角の弟達を倒し、張角を討ち取る。南華老仙に託された密命に挑む時がやってきた。
俺達は早々に支度を整え、朱儁将軍の元に向かうのであった。




