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広がる戦火

 ドランの異世界人が敗走したという報せが届いたユーテリア王国の王都レインフォードでは連日に渡り軍議が開かれていた。



「これでは堂々巡りだな・・・」



 アンドリューがそう愚痴るのも仕方がないだろう。現在会議は意見が真っ二つに割れている。


 1つは聖十字国とドランが争っている間に国境付近の防衛力を強化して敵に備えるべきだという意見。

 取るべき手段としては一番スタンダードと言える。戦力の配備や防衛設備の建設は敵への備えとして非常に有力である。しかし、これは敵の攻撃を待ち受けて行うため、敵は態勢を整えてから攻め入る事が出来る。奇襲などが使いづらく真正面からのぶつかり合いとなるため敵戦力がこちらより強い場合不利を覆すのが難しい。


 もう1つは押し込まれたドラン軍と向かい合う聖十字国軍を横から強襲すべきという意見。

いわば不意打ちのため戦力差があれどある程度のダメージを与えることが出来る。しかし、それをする為には聖十字国軍がいる場所まで移動しなければならない。つまりアンデッドがひしめく旧レムリア皇国領を進軍する必要がある。


 どちらもメリットとデメリットを持つ。故になかなか決まらないようだ。最もこの場にいるもの達は敵戦力の報告を聞いている。とてもでは無いが撃破など出来そうも無い敵の戦力を。そのため実際の軍議の内容は実は1つである。


 ドラン連邦国の異世界人が魔物の群れを討伐出来るかどうか、それ一点であった。


 撃破出来ると考えるものが国境付近の防衛戦力配備を(討伐される前に逃げ出してきた魔物が国内に流れ込まないようにするため)、出来ないと考えるものが進軍を(ユーテリア軍とで挟撃し敵を殲滅するため)主張しているのであった。






~その1か月後~


 ミルトアの街に一人の使者が先触れとしてやって来た。



「・・・報告は以上でございます!」



「ご苦労。それではこちらも急ぎ準備にかかるとしよう。」



 帰っていく先触れを窓越しに見ながらエリスが夫バダックに話しかける。



「どうしたのですか貴方?またいつものようにリリー殿下が遊びに来られるのかと思っていましたが・・・?」



 煌びやかな盾と星が描かれた紋章エンブレムを肩に付けた騎士が屋敷を出て行く。見慣れた光景であるはずが今回はどうやらいつもと違うようだ。


 その紋章を付けるのは王族を守護する役に付く騎士、親衛隊である。しかしリリーは自分で登用しないため親衛隊は全てが国王から斡旋された者達ばかり、人数も他の兄弟達と比べると圧倒的に少ない。

 全員の顔を見知っているエリスは今来ていた騎士に見覚えが無かった。つまり向かっているのはリリーでは無いということである。



「ふぅ、またまた厄介なことになったな・・・。来ているのはリリー殿下の他にヘンリー殿下とソフィア殿下だ。」



「まぁ!一体どうして?」



 バダックの言葉にエリスも驚いた。王位継承権第2位のヘンリーが来るなど聞いてもいない。一体どんな問題が起こったのかと心配しているようだ。



「やれやれ・・・。来る前に連絡くらいして欲しいものだがな。いきなりではどうなるか分かったものでは無い。・・・」



 そう愚痴るバダックは先触れより要件を聞いていた。それは・・・



「思っていた以上に聖十字国との戦況は拙いようだ。一旦王太子である殿下たちを王都から非難させる算段らしい。」



 聖十字国の聖魔兵の軍勢はドラン連邦国の異世界人相手に優勢に戦いを進めた。いくらでも補充される魔物相手に前線での各個撃破を止めた異世界人達は戦力を結集させ首都サン・ミゲルを背後に陣を敷いた。


 いくら強力な聖魔兵でもひと固まりに集まった異世界人達との戦闘は容易では無かった。上位の魔物でさえ強力な魔法の前では距離を詰めることが出来ない中、そろそろ敵の切り札が動き出すことを予測した彼らは先手を取って動き出す。隠密スキルの高い者達を集めて秘密裡に動き出した別動隊が背後から敵陣営を攻撃。可能な限り強力な魔法を集中砲火で叩き込んだ結果、ついに聖魔兵最強の一角レッドドラゴンの討伐に成功したのである。


 この快挙にお祭り騒ぎとなり士気がうなぎ上りとなるドラン軍に対し慌てふためいたのが聖十字軍であった。何せ様子見を兼ねて出陣していたとはいえ、いざとなれば出撃を許可されていた切り札中の切り札レッドドラゴンが討伐されたのだ。残りの戦力でレッドドラゴンを討伐する敵と戦って勝てる筈が無い。


 その結果、一旦軍を引いた聖十字国軍。しかし、元々は牽制と意趣返しの意味を込めての進軍である。敵の戦力を首都まで引かせたことで戦果としては十分であった。


 一度引いた軍勢が態勢を立て直し出撃するのは簡単では無い。つまり今からしばらくは後顧の憂い無くユーテリアに攻め入ることが出来るということである。


 小国のドラン連邦国よりもユーテリア王国に攻め入った方が良いのは明らか。勝った時の戦果は段違いなのである。蓄えられた豊富な公庫、数えることさえ大変な数の貴族達が溜めた蓄財、さらには王族には近隣に轟くほどの美貌を持つソフィアやオリヴィアといった王太子の他、第一王妃のマールディア、第二王妃のイザベル、第三王妃アイーダも絶世の美女として知れ渡っているのだ。



 現在は聖魔兵が方向転換し旧レムリア皇国の領土を横断しユーテリアの東部に向けて進軍している状態であり、攻め込むにしても一度聖十字国に戻ってからと予想していた王都貴族達はその対応に追われていた。



「つまり王都すら危険と考えて逃げてこられたのですか?」



「そう言ってしまえば身も蓋も無いがな。最もエドワード殿下だけは残ったようだな。流石に王太子全員が逃げ出しては士気に関わる。」



「しかしそれならなぜこの領土に・・・、と、なるほどそれで先程の愚痴なのですね?」



 先ほど「いきなり来てはどうなるか分からない」と愚痴ったバダック。それが意味するのは勿論クラウドとの兼ね合いである。王都がミルトアに王族を送ったのはまず間違いなくくだんの魔術師が領地内にいることを考えてであろう。


 リリーだけならば何の問題も無い。何せ普段から遊びに来ては世話になっているのだから。しかし他の王太子達はそうでは無い。クラウドの機嫌を損なえばその庇護下に入るのは難しいだろう。


 最もそれは国王も既知のこと。クラウドが駄目でも既に王国一の腕前になったバダックが守りについてくれればこれ程心強いことな無いという考えあってのことであるが。




 様々な者達の想いが交差するなか、ヘンリー達王太子がミルトアの街へ到着するのであった。




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