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疎開

「しかし困ったな・・・。」



「本当に申し訳ないわ・・・」



 ミルトアの街のバダックの屋敷で国王アンドリューの次男ヘンリー、長女ソフィア、三女リリーの3人とバダックが集まっている。


 そんな中俯いたまま顔を上げずに落ち込んでいるのはソフィアであった。



 ミルトアの街に着いた3人はトント村のクラウドへ使者を走らせた。自分達がミルトアに着いたことを知らせるためと護衛をして欲しい旨を伝えるためである。しかし、それを知らせに行ったソフィアの親衛隊長ベルンベルドがやらかしたのである。


 トント村へ着くやいきなりクラウドを呼び出した挙句、護衛として指名されたことを喜ぶようにと居丈高に言い放った。「乗り気がしない」と断ったクラウドであったが、彼はクラウドの後を追いかけては準備をしろと繰り返した。そして極めつけはルークの修行を見ていたクラウドへ「さっさと準備をしろと言っただろう、そんな貧相なガキとじゃれている時間など無いぞ」と言ってのけたのである。


 ベルンベルドはその直後背後から「この凡夫、首をじ切りましょうか?」という言葉を聞いた途端意識を失っている(クラウドがそこまでしなくていいと言ったため一命を取り止めている)。その後ミルトアのバダックの屋敷に片足を引きずられながら戻って来たが未だに意識が戻っていない。

 事の成り行きをベルンベルドを連れてきた吸血鬼のオウルから聞いた全員は流石に拙いと頭を抱えていた。



「流石に首を千切られはせずに済んだようだが・・・」



 半分冗談のように笑うヘンリーであったがそれを聞いているソフィアには冗談には聞こえない。



「(本当にやってくれても良かったのに・・・)」



 少なくとも出発前に自身の主から最大限の敬意を払えと言われておきながらしでかした失態はとても不注意で済ませられるものでは無い。自分の命令を守らなかった部下へのいら立ちと決して敵対したく無い相手からの報復を考えて心がすさんでいるようだ。



「う~ん・・・、もうっ!」



 とんだとばっちりで足止めをくらったリリーがもどかし気に声を漏らしていた時であった。部屋にコンコンとノックの音が響いた。



「どうした?」



 ヘンリーの言葉に答えたのはヘンリーの親衛隊を務める騎士の一人。



「はっ!ベルンベルド殿の意識が戻られたのですが・・・」



 困ったように口調が尻すぼみになっていく。ヘンリーに先を促された騎士の説明によるとどうやら無礼を働いたクラウドを粛正に行くと言い出したようだ。彼からしてみれば自分への無礼はいてはソフィアへの無礼となるのだ。許せないと息巻くのも仕方が無いと言える。



「全くもうっ!」



 強い口調で席を立ったソフィアがそのまま部屋から出て行った。おそらくは、いやまず間違いなく考え違いをしている部下を怒鳴りつけに行ったのであろう。


 その後バダックの屋敷でのひと騒動を終えた一行はリリーの発案により、リリーとエリスが直接トント村に向かう事になった。

 知人であるリリー達から交渉してもらえるならとヘンリー達も納得したのである。

 

 そして・・・




「なんだぁ今度はリリーちゃんとエリスさんかい?」



「ん、やっほー。」



「お久しぶりですクラウド様。無沙汰を致しておりますわ。」



「ははは、な~に気にすることも無いさ。子供の世話から離れられないんだろう?話しならバダックさんから聞いているよ。」



 ちょくちょくと顔を見せに来るリリーやバダックと違い、ここ最近エリスがトント村に来ることは無くなった。ひとえに愛する息子の側から離れないためであった。通常貴族の子育ては教育係に大部分を任せるものであるが、商人の家系であるエリスは現在教育係のドミニクと2人掛かりで育児に当たっている。


 最も現在では自他共に認める親馬鹿のバダックとエリスを超える程の溺愛振りを見せているのがドミニクであった。アレックスがお昼寝している時でさえ子供用ベッドの傍らに立ち続け、僅かでも泣こうものなら即座に抱き上げ背をさする様は母親エリスをして「敵わないかも」と言わせる程であるのは余談である。


 おそらくは夫の子供自慢を散々聞かされたであろう友人の苦笑いを見てついつい自分も苦笑いを浮かべる。



「ん、クラウド、マーサさんのことごめん・・・ね・・・。先にお墓行ってくるから。」



 葬儀に出れなかったことをリリーが詫びる。マーサの死後リリーが村を訪れるのはこれで3回目である。にも関わらず、リリーはやって来る度にこのセリフを言うのであった。リリーにとってもマーサ婆さんはトント村へ来る度に遊んでくれた相手である。自分を王族として扱わず一人の子供として可愛がってくれた老婆をリリーもまた慕っていたのだ。



「ああ、じゃあ一緒に行こうか。俺も顔を出すよ。」



 そしてエリスも一緒になって村の共同墓地にあるマーサの墓を参った後、家へとやって来た。



「で、この前の阿呆のことかい?」



 自分の大事な弟分のルークを貧相なガキと吐き捨てた騎士の事を思い出しクラウドの顔が不愉快そうに歪む。



「まぁそうなんですけどね・・・」



 歯切れが悪いエリスもまたルークへの暴言を聞いて機嫌が悪いようだ。その騎士の自業自得だというのがエリスの正直な考えである。



「ん、あんな奴ほっとけば良い!」



 リリーに至ってはもっと酷かった。




 そしてここに来て一つの問題が浮上する。話しが長引くのを嫌い先に来たかったリリー。リリーに誘われてついて来ただけのエリス。そうこの場には先のベルンベルドの失態について交渉するという本題をこなせる者が居ないのであった。



「ん、じゃあクラウドの家行こう。」



 そう言って慣れた様子でてくてく歩くリリーとついて行くエリス。それを見ながらクラウドが溜息をつくのであった。



「・・・俺が言うのもなんだけど、苦労してそうだなバダックさん。」



 頭に気の置けない友人を浮かべながらもやはり優先するのはマーサさんの墓参りであるクラウド。礼儀も知らない部下を持ち(最もこれはソフィアであるが)、交渉に来れる相手も居ない。バダックの惨状を思い浮かべながら同情を禁じ得ないクラウドであった。




 その後、事情を聞いたルークとタニアから「バダックさんにはとてもお世話になっているから」との説得を受けたクラウドが一つの条件を出した。飲まざるを得ないその条件は「護衛の同行禁止」であった。親衛隊にとって王族の護衛こそが存在意義にも関わらず出された条件は殊更に酷い。

 クレームが吹き荒れる中、ならば身の回りの世話をする者が必要であるというこじつけで各1名の騎士が同行を許された。


 かくしてトント村にはまたしても王族が来村することとなったのであった。




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