持久戦は好きかね?
目の前に見える全てが敵!敵!敵!敵!!
「…………」
パリッ………
だから私の目に光が灯る。
脱力しきった両腕を垂らし、こうべを垂らす。そうして、闇夜に輝く猛獣の眼光のように、周りの敵を威圧した。
誰も私達に飛び込んで来ようとしない。
………誰が先に来る?どこから先に来る?私が先に行くか?
視線が皿のように、目の前を押しつぶす。
フッ………
瞬間、気配を感じた。いや、気配?違う。ほとんど勘だ。[なにとなく]何かを感じた。空気の震えなのか、虫の知らせなのか………とにかく、何かが私の後ろで動く気がした。
ッパァン!!!
だから私は一瞬で筋肉を緊縮させ、後ろに飛びかかった!!
そして!!
パァアアン!!!
振り返りながら回された右脚が、私の目ですら捉えきれない速さで、動き出そうと硬直していた魔物の顔面を吹っ飛ばした!!
そっからは………
ダンッ!!
頭を遠くに蹴飛ばした右脚がものすごい速度で回ろうとしていたから、私は全力でその脚を地面に全速力で叩きつけた!!地面がひび割れ、両脚で地面を捉えたが為に身体中に力が巡る!!
「流れ!!!」
パンパンパンパン!!!!
堰を切ったように流れ込んで来る敵の猛追に飛び込む!!そして、ほんの少しだけ身を捻って敵の攻撃をかわし、その瞬間に敵の顎を吹き飛ばして更に集団に潜り込んで行く!!
弾け飛ぶ地面と、吹き飛ばされる肢体。稲妻が地を這っていた。
だがしかし、進めば進むほど私の周りを敵が囲み、孤立していくのは当たり前で……私が敵を蹴り上げた瞬間、後ろの敵が拳を振り下ろしてきた。
バチン!!!
だから私は雷に姿を変え、空中まで弾け飛んだ。そして背中の剣を引き抜き………
バチバチバチバチ!!!!
膨大な雷を湛え、剣が磨き上がって行く!!
消えろ!!!
バチィインンン!!!!
剣を振ると雷鳴が轟き、鞭のように雷撃が、地面に群がる敵達を焼き滅ぼした!!
いや、違う!!これで終わりじゃない!!
バシャン!!!
カミナリが放たれた地面から水が湧き上がり、敵とカミナリを巻き込みながら濁流を形成していく!!
焼き焦げた敵や、燃え上がっていた木々を飲み込み、へし折り、押しつぶし、赤や黒や茶色や肌色黄色の、混成大渦の鉄砲水となってヘカトンの元へとなだれ込んでいく!!
「グォオオオオオアアアア!!!!」
そしてそれは、雷光と蒼白の三厩となり、咆哮を上げながらヴァイスに襲いかかった!!!
ブァシャアアアンン!!!!
バチバチバチバチバチ!!!!
飛び上がった、水飛沫と呼ぶにはあまりにも壮大で高速の飛沫が周りの岩や木々をへし折り、水が空に駆け登る稲妻のように噴出した。
いや!!まだ!!まだ終わらない!!終われない!!
ガチャガチャッ
剣が双剣へと姿を変え、更に双剣が姿を変えていく!!
バチバチバチンッッ
双剣は電気を帯びた二本のレイピアへと生まれ変わり、周りに膨れ上がるような乱れを生み出していく!!
「死舞羽衣!!双乱!!」
ビュンビュンビュンビュン!!!
ゴォォオオオオオ!!!!!
双剣を振り回すと、磁気によって気流が乱れて巨大な竜巻が発生し、濁流を巻き上げ渦潮を作り上げた!!
パチパチパチ!!!!
高速で飛び回る黒々とした竜巻から大量の雷が生み出され、天へと登っていく!!
「断裂!!!」
グニンッ……パァアアンンン!!!
そして私が双剣を振り下ろすと磁界が真っ二つに裂け、竜巻が弾け飛んだ。
吹き飛ばされて周辺物を破壊したり、それに突き刺さったりする身体の一部達。微かに残っていた液体は高速で物を貫いていた。
シュゥゥウウウウ…………
空気が焼き切れたような、そんな煙が辺りを包んでいる。
「…………あれをかわすか。」
あれほど高速で、広範囲に及んだ攻撃だというのに、しかし、ヘカトンはなんなくそれをかわしていた。………いや、かわしてなどいないのか。
「やはり良い魔力だ。最高の使い心地だぞ。」
どうやら、ヘカトンの魔力は[相手の位置を置き換える]というものらしい。
私達が放った攻撃の全てを、奴は移動させた。………それだけなら良いんだけれど、私達が移動に気づかなかったったことは、[風景ごと移動した]ということになる。………つまり、[私達が狙った位置の物をそっくりそのまま別の場所に移動させた]ということで………一度に動かせるものに対して上限がほぼないわけさ。うん、やばい。
「………どうやって倒すのよあれ。無理じゃない?」
私はカイに走り寄りながら大きな声をだした。
「近寄れないんじゃどうしようも………」
ッパァアン!!!
しかし、そんなの御構い無しだ!!会話の途中で急激に方向転換をしてヘカトンに斬りかかる!!
ブン!!!
しかし、スカッ!!私はヘカトンからだいぶ離れた場所に移され、思いっきり剣を空ぶった!
やっぱこうなるか!……でもっ!
「行くよあんたら!!」
ッパァアン!!!
私は再度ヘカトンに突撃する!!しかしまた空ぶる!!でもまた突撃する!!でもやっぱり空ぶる!!でもっ、だからどうした!!何回も何回も攻撃して隙をつくだけだよ!!
ザパァアンン!!!ピュンピュンピュン!!!
私に続いてカイも、水で作った無数の弾丸を飛ばしながらヘカトンに斬りかかる!!
バチャンバチャァン!!!
でもやっぱり、弾丸すらも全てが移動させられ、関係ない瓦礫を吹っ飛ばしてしまう!
「はっはっはっ。そこらの間抜けならともかく、私のような冷徹な男にそれは効かんよ。疲れるだけだぞ。」
うっせ!!この馬鹿正直な特攻だって無駄じゃないんだから!!例えばその魔力じゃ[自分を動かせない]ってことが分かったんだから!!他には……うーん、ない!!
パンパンパン!!!
ジグザグに移動して敵の意識を撹乱して………
ブン!!!
私とカイが同時に剣を振り下ろ
ピッ!!!!
そうとした瞬間、王様がヘカトンの背後で剣を振り下ろした!風を断ち切り音を置き去りにした高速の剣!!
私達三人がほぼ同時に剣を振り下ろした!!
ブォン!!!!
「………これもか!!!」
でも、私達はまた空ぶった!!私すら存在を忘れていた王様の不意打ちにすらあの男は合わせてきた!!流石は間違えない男と言うべきか、とっさの状況判断能力と状況把握能力が化け物じみている!
ザッザッザッ………
ピチャ……ピチャ………
そして、ヘカトンの周りで粉々の肉片になっていたはずの魔物達が、いつのまにか復活していたようだ。ヘカトンの前に、その滾るような血を滴らせながら、立ちはだかる。
しかも………ああくそ、そうか。なんか戦い易いと思ったら、さっきの攻撃をヘカトンが予測していたのだろう。ヘカトンの能力で避難していた子供達すらも、魔物の後方で待機している。
「ふっふっふっ……はっはっはっ!死なない身体と、攻撃を簡単にかわせる遠距離部隊!しかも無限に時間稼ぎができる私の頭脳と魔力!たとえ君達だろうと負ける気がせんわ!」
魔物と子供達の背後で笑うヘカトン。でも馬鹿笑いではない、ただの挑発だろう。その瞳の底では冷え切った思考が配列されて私達を具に観察しているに違いない。
「……さて、こんなことを聞くのは非常に悪いんだが…………」
私とカイと王様と、他の拘束部隊が一箇所に固まる。
「持久戦は好きかね?」
魔物達が一斉に走りだし、それを追い越すように大規模魔法が私達に向かって飛んできた。
やる気を上げるために難しい言葉を羅列しました。………面白くないですよね。完璧に見栄です。すみません。
バカなことやったってわかってる、でも後悔はしてない。




