小野不由美 「青条の蘭」(「丕緒の鳥」より)
「バイト君……」
「うわっ! どうしたんですか! その顔!?」
「ゆうべ……この本読んで……うう~……」
【あらすじ】
小役人の標仲は、山毛欅林の中で、変色した一本の木を見つける。
その時から、家族を、郷里を、そして国を守るための闘いが始まった。
———これが希望だ。
全ての思いを託した唯一の箱。
必ず、届けなければ。
名もなき者達の奮闘を描く、十二国記シリーズの短編集。
「私さ、正直思ってたのよ……。久々の新刊が短編集ってどうなのよ、って。
本編があんな所で終わってんのに、何で続き書かないのよ、って。でもでも、すごい良かった!ほんとに十二国記だった!メインメンバーほぼ出てないけど、それでもこれだけの充実感!」
「わ、わかった、わかりましたから、ちょっと落ち着いて……。ティッシュどうぞ……」
「ありがと……。…ふー、…ごめんね、いきなり」
「いえ……いいですけど…。十二国、新刊あったんですね」
「そっか! バイト君も十二国記好きだよね!読んで読んでぜひ読んで! 短編とは思えない読み応えだよ」
「ぜひ読みたいですけど、前に十二国読んでから随分間が空いてるので…。世界観が思い出せるかどうか……」
「大丈夫! 多少分かんなくても十分面白いから!あ、でも「月の影 影の海」くらいはもう一度読み返すといいよ!十二国の世界のことわりを知ってた方がより楽しめる」
「……あれをもう一度か……」
「しんどいようなら、今回は下巻だけでもいいよ」
「そうですね。そうします。この話(「青条の蘭」)、どこの国の話ですか?」
「ふっふ。それは読んでのお楽しみー♪私、今回最後の方になるまで、どの国の話かわかんなかったよ。そんで、その見せ方がこの話では効果的なんだよね。
小野さんはホラー作家でもあるから、謎めいた見せ方も上手いよね……」
「かなり内容が気になってきましたね。謎解きか……」
「あっ! でも『どの国の話か』なんて探しながら読む話じゃないよっ!もう純粋に物語を楽しめばいいから。読み終わったとき、きっとあなたは山毛欅林を見たくなる……」
「…なんですかその予言」
「そうなるって! 実際私は見たい。そうだ! バイト君、『青条の蘭』読み終わったら、一緒に山毛欅林いこうよ!」
「……えっ?」