黒瀬大樹 side2
昼過ぎになり、なぜか石田は再びやってきた。
今度は1人ではなく、小柄な女子を連れている。
見たことない子なので、女バレではなく石田の友達だろう。
その子は看板を見るなり
「えみりん?モグラ叩きって書いてあるけど?手相占いじゃなかったの?」
と検討はずれなことを言っているので、おそらく石田に騙されてきたんだろう。
「友花、モグラ叩きしている手の手相を見てくれるんだよ。でも100回は叩かないと見られない。」
「いや、絶対嘘。なんでモグラ叩きさせたいの?私絶対無理だよ?」
「できる。友花ならできる。才能がある。今から私が友花をモグラ叩き界の新星にする。」
「え?私は別になりたくないよ?」
「なれ!そしてポテチを獲れ!」
どうやら石田は自分がやっても景品をもらえないことが分かったら、今度は代理を連れてきたようだ。
俺は段ボールの穴から生贄の女子生徒を見るが、小柄な身体に、撫で肩に小さい手足、攻撃力は低そうだ。
おっとりした感じのタレ目に、肩までの髪がところどころ外に跳ねてて、動きがキョドキョドしていて、時折ビクッとしている。
(なんか、可愛いな…。)
俺はつい見惚れている自分にハッとする。
女バレにはいないタイプだし、同じ学年なんだろうけど今まで知らなかった子だ。
別に一般的に特別可愛いとか美人とかじゃないんだろうけど、パーツというパーツが自分の好きな感じというか、もっと近くで確かめたくなる。
石田にあんな友達がいるとは。
そんなに気が強くはなさそうだけど、しっかり石田に意見は言えているところも応援したくなる。
「たぶん無理だからね?!」
彼女の1回目は努力賞だった。
正直普通にやったら努力賞は無理だったろうけど、俺はつい彼女の打ちやすそうなところに出してやってしまった。
勝負事はフェアにやりたいタイプの自分としてはポリシーに反することをしたけれど
「う、うそ、努力賞?」
と目を見開いて、笑いそうになる口元を恥ずかしそうにむにゅっと引き締める彼女の表情を見たら、むしろこれが正しい行いだったとか調子の良い気持ちになった。
「ダメだ!友花!それじゃポテチは獲れない!こっちにこい!」
そこから石田による猛特訓が始まる、
謎の素振り訓練から、反射神経訓練という名重ね手叩き、フットワーク。
それが終わると再びチャレンジ。
金賞に届かなければ再びトレーニング。
はじめは受付の1年女子もケラケラ笑って見ていたが、次第に飽きたのかスマホを弄って受付もせずにやらせていた。
彼女、こと"友花"も、もう石田を放ってやめてしまえばいいのに。
俺は俺で、何とか彼女が打ちやすい位置にだしてやってるけど、さすがに疲れてきた。
「中の人、すみません!もう一回お願いします!本当にすみません!」
段ボール越しに、彼女が俺に話しかけてきてめちゃくちゃびっくりした。
「全然いいですよ!あの、頑張れ!」
俺が思わず声援を送ると、びっくりした顔をしたあと、段ボール越しに俺を見て「ありがとうございます」と、タレ目をさらに緩ませてへにゃっとした顔で笑った。
(や、やばい。ほんとに可愛いかも。)
結局、なんというか、彼女が諦めなかったことと、俺が彼女のハンマーに当てに行く技術が飛躍的に向上し、何とか100回を達成した。
「よくやった、友花。もうモグラ叩きに関してお前に教えることはない!」
「師匠!」
石田は途中から飽きて、近くのチョコバナナの屋台に行ってたくせに、帰ってきて口の周りにチョコスプレーを付けつつ、彼女に偉そうに師匠ヅラして、片手には当然のように高級ポテチ詰め合わせ抱えている。
俺はというと、段ボールから出て汗だくなのも構わず、隅に座ってそのやり取りを眺めていた。
ふにゃあと表情を緩めて、泣き笑いみたいな顔をして石田相手に手を繋いでぴょんぴょん跳ねて喜ぶ"友花"に釘付けだった。
彼女は去り際に石田に手を振ったあと、俺にも「中の人もありがとうー!」と手を振った。
俺はすぐ石田に彼女のクラスと苗字を聞いたら、奴は
「あれーなんだか、焼きそばが食べたいなぁ」
と言いやがったので、俺はモグラ叩きをほっぽり出して焼きそば屋の屋台にダッシュしたのだった。
それから部活のたびに、あらゆる菓子を用意して、女バレと練習がかぶるたびに石田を尋問して"友花"の情報を集めた。
別にクラスを聞いた時点で、俺が鹿野さんに会いに行ってもよかったのだが。
男子の間での鹿野さんの評判は、柔らかい雰囲気と親しみやすい可愛さで、密かに人気があるのに、案外仲良くなろうとしても取り付く島がないとのことだった。
何より常に石田がそばに居て、距離を詰めづらいと。
何の接点も無い男子の俺が突然会いに行って警戒されたくなかったし、なんなら猛烈に一目惚れした俺は絶対に彼女になって欲しかったので、一つもしくじりたくなかった。
まぁ結果としては大いにしくじったようなもんだけど。
意味わからんけど、
彼氏になるつもりが"弟"になったし。
まぁ結局内心は全く"弟"で終わるつもりのない俺の弟を利用した作戦によって、彼氏の座も何とか得ることができたのだけど。
しかし晴れて付き合えてからも、近くで見るとさらに可愛く見えるし、話してみればおかしいところだらけで面白いし、
女子と過ごすのが得意じゃなかったのを忘れるくらい、ずっと一緒に居たくなった。
友花はあまり気にしていないようだけど、彼女はなぜか俺と付き合い出してから、さらに男子の中で人気が増している。
黒瀬がいけたなら、俺もワンチャンとかいうアホが湧いてるのだ。
いや、なんなら女子もか?
スーパーのチャラ弟も絶対またくる気がする。
俺はまだ自分が「彼氏」か「擬似弟」という立場しかとれないことを歯痒く思う。
(自分でも馬鹿みたいだけど、「夫」になりてえ)
でも、彼女が柔らかい目元をさらに緩ませて、俺に笑いかけると、まぁ大丈夫かな?と謎に安心感を得る。
俺を弟にもしたい彼女だけど、俺は彼女を姉のように思ったことは全くない。
けれど、なんかその笑顔は1番最強なんだよなぁと
思わず笑い返してしまうんだ。
お読みいただきありがとうございます。
場合によっては追加エピソード書く予定です。




