第50話(最終話):ステータスオール1のままだけど、まあいっか!
古代の邪神が復活し、そして呆気なく「ワンちゃん(愛玩動物)」へと完全浄化(デレ化)されたあの歴史的なお茶会から、数ヶ月の時が流れた。
現在のルクスヴェル大陸は、神話の時代から数えても過去に例を見ないほどの、完全無欠で恒久的な平和と繁栄の時代を謳歌していた。
人間族の国王、魔族の魔王、そして教会の教皇という、世界の三大権力者が揃ってシルヴィの「尊さ」の前に精神を陥落させられ、完全に悟りを開いてしまった影響は、あまりにも絶大であった。
国境という概念は事実上撤廃され、人間と魔族、エルフやドワーフ、獣人に竜人まで、あらゆる種族が手を取り合い、笑顔で交流する夢のような世界が実現した。
各国の首都のど真ん中には、マイラが全財力とオリハルコンを注ぎ込んで建造した『純金とミスリル製の超巨大シルクヴィ様像』がそびえ立ち、人々は毎朝その像に向かって「今日も一日、姫様が健やかであらせられますように」と祈りを捧げるのが日課となっている。
もはや彼女は、単なる『光の聖女』や『真祖の姫君』という枠を完全に超越していた。種族や宗教の壁を超え、全ルクスヴェル世界を統一した唯一無二の【絶対神】として、人々の心に深く、そして狂信的に刻み込まれていたのである。
しかし。
世界中から神の如く崇拝され、その一挙手一投足が世界の法律すら書き換えるほどの絶対的な権力(本人は全く自覚していない)を持ってしまった当の本人——最弱吸血姫シルヴィはといえば。
「ん〜……ぽかぽかして、すっごく気持ちいいなぁ……」
聖都アイギスの中心部、聖王迎賓館の広大で美しい庭園。
その最も日当たりの良い特等席で、マイラが季節に合わせて仕立てた『最高級シルクと妖精の羽糸で編まれた超軽量フリフリ・スプリングドレス』に身を包み、ふかふかの巨大なクッションに深く沈み込んで、相変わらず極上の日向ぼっこを満喫していた。
「きゅぅん……♪ くるるる……♪」
シルヴィの足元、陽だまりの一番暖かい場所では、かつて世界を滅ぼそうとした最凶の古代の邪神(現在は子犬とドラゴンを混ぜたようなフワフワの小動物形態)が、お腹を完全に上に向けて無防備に丸まり、幸せそうな寝息を立てている。
シルヴィがその柔らかなお腹を足の先でそっと撫でてやると、ワンちゃん(元・邪神)は夢の中でも至福を感じているのか、尻尾をパタパタと揺らした。
世界を統一した絶対神の日常は、今日も今日とて、圧倒的なまでに堕落した、最高に平和な『姫プ(姫プレイ)』の只中にあった。
「マスター! 本日の日差しは紫外線レベルが微量に上昇しております! 直ちにアオイが、マスターの玉肌を守るための完全無欠な『光の天蓋』を展開いたします!」
空中に浮かぶホログラムAIメイドのアオイが、メイド服のスカートを翻しながら、シルヴィの頭上にうっすらとした青い光のシールドを張り巡らせる。
「ちょっとポンコツAI! 機械の無機質な光で姫様を照らすなど無粋ですわ! 私の風と光の精霊たちが、姫様を世界で最も美しく見せる『木漏れ日のスポットライト』を常に演出しておりますのよ!」
エルフのエランが、杖を振り回してアオイのシールドと自らの精霊魔法の配置で激しい縄張り争いを繰り広げている。
「姫様! 本日のティータイムには、魔界の奥深くで一万年に一度しか咲かないとされる幻の茶葉『月下氷人』をご用意いたしました。温度、香り、注ぐ角度、すべてにおいて宇宙の真理を体現した最高の一杯にございます」
執事ノクティスが、一滴の無駄もない流麗な所作で、透き通るような白磁のティーカップをシルヴィの口元へと恭しく差し出す。
「わあ、すっごくいい匂い! ありがとうノクティスさん!」
シルヴィが満面の笑顔で紅茶を一口飲むと、ノクティスは「アァァ……!!」と顔を真っ赤にして崩れ落ち、自らの執事としての存在意義が天元突破した歓喜に打ち震えた。
「姫様! 姫様の美しい金糸の御髪を、本日は私が開発した『吸血鬼の秘伝・薔薇のオイル』でさらに艶やかに梳かさせていただきますわ! ああっ、指先から伝わるこの至上の柔らかさ……! 私、もういつ死んでも後悔はありませんわ!!」
吸血鬼メイドのルルが、シルヴィの背後に陣取り、恍惚とした表情で丁寧に、かつ熱狂的にブラッシングを行っている。
「聖女様!! この迎賓館の庭園に侵入しようとした不届きな羽虫(ただの蝶々)は、このセリアが聖剣の浄化の光を以て、塵一つ残さず消し去りました!! 聖女様の視界には、美しい花々だけが映るよう、私が24時間体制でお守りいたします!!」
聖騎士セリアが、庭の入り口で聖剣を掲げ、不審者(虫)を完全排除する鉄壁の警備(過剰防衛)を敷いている。
「ヒャハハハ! 姫様! 新しい靴の履き心地はどうだい!? 歩くたびに衝撃を吸収し、さらに『歩くの楽しいルーン』を組み込んだから、いくらお散歩しても疲れない特別製だぜ!!」
ドワーフのマイラが、鼻息を荒くしてシルヴィの足元を覗き込む。
「……姫様。もしお疲れであれば、いつでも俺の背中を玉座として、いや、ベッドとしてお使いください。俺の竜鱗は、姫様の安らかな眠りを守るためにこそ存在しているのですから」
竜騎士ダリウスが、二メートル半の巨大な身体を折り曲げ、いつでもシルヴィを肩車できるよう、忠犬のように控えめな(しかし自己主張の激しい)待機姿勢をとっている。
「チッ、貴様らばかり姫様にすり寄りおって! 姫様! 私のこのモフモフの尻尾を、本日はクッションの足休めとしてお使いください! さあ! 遠慮なく踏みつけてくださいませ!!」
獣人のロアンが、巨大な狼の尻尾をちぎれんばかりに振りながら、シルヴィの足元へとスライディングで滑り込んでくる。
朝から晩まで、いや、眠っている間すらも。
世界最強の化け物たち(姫プ勢)による、常軌を逸した「甘やかし」と「過保護」のフルコース。
シルヴィが指一本動かす必要などどこにもなく、彼女が「あ」と言えば紅茶が出てき、「う」と言えば新しいドレスが用意され、「え」と言えば世界中から最高級のフルーツが献上される。
「ふふっ、みんな今日もすっごく元気だね。お茶、とっても美味しいよ」
シルヴィは、全く毒気を抜かれた、純度百パーセントの無邪気な笑顔で仲間たちを労った。
その天使のような微笑みを見るたびに、七人の従者と一人のAIメイドは、「おおおぉぉ……尊い……!」と胸を押さえて悶絶し、バタバタと芝生の上に倒れ込むという奇妙な(しかし彼らにとっては神聖な)儀式を繰り返している。
そんな、極限まで平和で堕落した時間の中。
シルヴィは、ふと、あることを思い出した。
「そういえば私、邪神さんのいたダンジョンをクリアしてから、ステータス画面を一回も見てなかったかも。あれから世界も平和になったし、色んなことがあったから……もしかして、知らない間に経験値とか入ってないかな?」
彼女の頭の中には、まだ「RPGのように、イベントをこなせば自動的にレベルが上がるかもしれない」という、淡い(そしてゲーマー的な)期待が残っていた。
実際、彼女は世界を統一するきっかけを作った張本人であり、その功績を神のシステムが評価してくれていてもおかしくはないはずだ。
「よし、ちょっとだけ見てみようっと。……『ステータス・オープン』!」
シルヴィが小さく呪文を唱えると、彼女の目の前に、いつもの半透明の青いウィンドウがフワリと浮かび上がった。
【名前】シルヴィ
【種族】夜魔の真祖
【称号】古代迷宮の制覇者・絶対神(NEW!)
「あ、称号が一つ増えてる! 『絶対神』だって。なんだかすごく仰々しいなぁ……。でも、大事なのはこっちの数字だよね!」
シルヴィは、期待に胸を高鳴らせながら、ウィンドウの中央部分へと視線を移した。
【レベル】 1
【HP】 1/1
【MP】 1/1
【筋力】 1
【体力】 1
【敏捷】 1
【魔力】 1
【魅力】 測定不能(限界突破)
【カリスマ】 測定不能(限界突破)
【パッシブスキル】『真祖の威光』『絶対的庇護欲』
【獲得経験値】 0 / 10
「………………………………」
シルヴィの時間が、完全に停止した。
パチクリ、パチクリ。
赤い瞳を二度瞬かせ、もう一度、上から下まで穴が空くほど見つめ直す。
【レベル:1】。
【獲得経験値:0】。
【筋力:1】。
【魔力:1】。
「……あはははは……」
シルヴィの口から、乾いた笑いが漏れた。
見事なまでに、一ミリも、一ミクロンも、初期状態から変化していない。
世界を救い、邪神をペットにし、全種族を統一した「絶対神」のステータスは、相変わらず【スライム以下】のまま、完璧に据え置きだったのである。
「そ、そうだよね。私、自分じゃ一回も戦ってないもんね……。経験値なんて、入るわけないよね……」
シルヴィは、青いウィンドウをそっと閉じると、深いため息をついた。
このルクスヴェル世界における「魂のランダムリスポーン・システム」は、かくも厳格であり、そして残酷であった。自らの手で敵にダメージを与えない限り、どれだけ歴史的な偉業の裏側にいようとも、経験値は「0」のままなのだ。
「私、本当にこの世界に来た時から、ずーっと弱いままなんだなぁ……」
シルヴィが、少しだけしょんぼりと肩を落としていた、まさにその時。
ポヨンッ。
庭園の端の茂みから、ゼリー状の半透明な生き物が、のんきな音を立てて飛び出してきた。
【野生のスライム】である。
セリアの鉄壁の結界や、エランの精霊の監視網があったはずだが、あまりにも魔力が弱く、かつ「シルヴィに対して一切の敵意を持っていなかった(ただ散歩していただけ)」ため、運良くすべての防衛網をすり抜けて迷い込んでしまったらしい。
「あ……! スライムさんだ!」
シルヴィは、その丸っこいスライムを見て、パッと目を輝かせた。
この世界にリスポーンして一番最初に出会い、そしてロアンとエランが瞬殺しようとしたところを「可哀想だから」と助けてあげた、あの最弱モンスター。
シルヴィの脳内に、ある【野心】がメラメラと燃え上がった。
(私、ステータス画面ではレベル1のままだったけど……もしかしたら、隠しステータスみたいなのが上がってるかもしれない! あの古代遺跡で、ロボットさん(アイアンゴーレム)を一撃で倒せた『木の枝』も持ってるし!)
彼女はいまだに、アイアンゴーレムが消滅したのは「自分の木の枝の攻撃が効いたから」だと盛大に勘違いし続けていた。
シルヴィは、クッションの横に大切に置いてあった、お気に入りの【伝説の木の枝(※ただの枯れ枝)】をギュッと握りしめると、勢いよく立ち上がった。
「よーし! スライムさん、私と勝負だよ! 今の私なら、きっと戦えるはず!」
シルヴィは、ドレスの裾を少しだけ持ち上げ、スライムの目の前までトコトコと歩み寄った。
野生のスライムは、シルヴィの『真祖の威光』にあてられて「プルプルプル……」と激しく震え上がり、その場に平伏するようにひれ伏している。
「えええええいいっ!!」
シルヴィは、気合の入った(しかし全く殺気のない可愛らしい)掛け声と共に、両手で持った木の枝を、震えるスライムの頭頂部に向かって、思い切り振り下ろした。
ペシッ。
木の枝が、スライムのゼリー状の身体にヒットした。
ダメージ判定は、お馴染みの【0】。
しかし、ここで予期せぬ物理現象が発生した。
シルヴィの【筋力:1】という圧倒的な非力さによって振り下ろされた枯れ枝は、野生の【スライムの弾力(防御力:2)】に完全に負けてしまったのである。
ポキッ。
「……えっ?」
乾いた音と共に。
シルヴィが絶対の自信を持っていた「伝説の木の枝」は、スライムのプニプニボディに弾き返され、あっけなく真っ二つに折れてしまった。
「あ……ああぁぁぁぁ……!?」
シルヴィは、折れて短くなった木の枝の残骸と、全くの無傷で「プルンッ」と元気に弾力を取り戻したスライムを交互に見比べた。
そして、自分が【スライムにすら物理的に力負けした(枝を折られた)】という、絶対的な事実を、ついに受け入れることとなった。
「私……やっぱり、スライムさんより弱いままだったんだ……!! うわあああぁぁぁん!!」
シルヴィは、折れた木の枝を握りしめたまま、その場にペタンと座り込んで、ポロポロと泣き出してしまった。
世界を統一した絶対神の、あまりにも情けなく、そして可愛らしい敗北の瞬間であった。
————しかし。
この、シルヴィの「スライムに負けて泣く」という事態が、庭園でくつろいでいた七人の化け物たちにとって、どれほどの【宇宙崩壊クラスの緊急事態】であったか。
「「「「「「「ひ、姫様ァァァァァァァァァァァァッッ!!!!????」」」」」」」
庭園に、耳をつんざくような七人の絶叫が轟いた。
「な、なんという事だ!! どこから入り込んだ下等生物め!! 姫様の御手を煩わせ、あまつさえ姫様の愛用の武器(木の枝)をへし折って悲しませるとは!! 貴様、宇宙の果てまで塵にしてやるゥゥゥゥッ!!」
ロアンが、白目を剥いて完全に狂乱状態となり、大剣『滅山』を抜いてスライムに飛びかかろうとする。
「お待ちくださいロアン!! あのスライムが弾けた粘液が、姫様の美しいドレスに一滴でも跳ねたらどう責任をとるおつもり!? 私が! 私が精霊の真空刃で、あのスライムを細胞レベルで乾燥させて消滅させますわ!!」
エランが杖を振り回し、暴風を巻き起こす。
「聖女様の御前を汚す邪悪なるプルプルめ!! 神罰を受けよォォォッ!!」
セリアが聖剣の浄化の光を限界まで高める。
「アタシがオリハルコンのハンマーで、あのゼリーを原子の海まで叩き潰してやるぜェェッ!!」
「俺のブレスで、水分という水分を完全に蒸発させてくれる!!」
「……暗殺者の名にかけて、あのスライムの一族郎党、生態系ごと消し去ってやろう」
「姫様の涙を一粒でも流させた罪、そのゼリーの身体をすべて私の血の刃で切り刻みますわ!!」
七人の狂信者たちは、たった一匹の野生のスライム(全く悪気はない)に対して、世界を滅ぼすレベルの極大奥義を一斉に解放しようと、完全に理性を吹き飛ばしていた。
「あわわわっ! ダメ、ダメだよみんな!!」
シルヴィは、慌てて涙を拭うと、折れた木の枝を放り投げ、震えるスライムの前に両手を広げて立ち塞がった。
「スライムさんは悪くないの! 私が勝手に木の枝で叩いただけなんだから! いじめちゃダメ!!」
必死にスライムを庇うシルヴィの姿。
第1話の森での出会いと全く同じ、一切成長していない、根っからの善人としての【絶対的庇護欲】の発露であった。
「ひ、姫様……!!」
七人の化け物たちは、そのシルヴィの慈悲深き姿(と、涙目の上目遣い)をモロに食らい、ピタリと動きを停止させた。
「ああっ……! 自らの武器を折られ、プライドを傷つけられたというのに! それでもなお、あのような下等生物の命すらも慈しみ、守ろうとされるとは……!!」
ロアンが大剣を取り落とし、両膝をついて号泣し始める。
「なんという……なんという海よりも深い愛!! 姫様の前では、私たちの暴力など、ただの野蛮な破壊衝動に過ぎないと思い知らされますわ!!」
エランが杖を捨て、その場に平伏して歓喜の涙を流す。
「聖女様!! 貴女様こそ、すべての生命を愛する真の女神!! 私は己の愚かさを恥じます!!」
「ヒャハハハ! 姫様の優しさは、オリハルコンよりも硬くて絶対だな!!」
「……姫様がそう仰るなら、このノクティス、ただちに剣を収めましょう。あのスライムは、姫様の慈悲によって生かされた、世界で最も幸運なゼリーです」
「姫様のそのお姿……尊すぎて、私の心臓が止まりそうですわ!!」
「……姫様の御心に従う。それが、俺の竜としての唯一の誇りだ」
七人の従者たちは、次々と武器を収め、シルヴィの底なしの優しさに打たれ、庭園の芝生の上で一斉に「おおおぉぉ……尊い……!」と悶絶し始めた。
シルヴィの足元にいたスライムは、命拾いしたことを悟り、「プルプルッ!」とシルヴィに感謝のお辞儀(?)をすると、急いで茂みの奥へと逃げていった。
「ふう……。よかった、スライムさん無事で」
シルヴィはホッと息を吐き、足元でスヤスヤと眠り続けている邪神の頭を、そっと撫でた。
そして、庭園で自分を崇め、涙を流し、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる七人の仲間たちと、空中で心配そうに様子を見守っているアオイの姿を、ゆっくりと見回した。
ステータス画面を開けば、レベルは1のまま。
筋力も、体力も、魔力も、全部スライム以下。
伝説の木の枝だと思っていたものは、ただの枯れ枝で、スライムの弾力にあっさりと負けて折れてしまった。
私は、この異世界にやってきてから、結局、自分の力では敵を一匹も倒せなかった。
自分に魔法をかけることもできないし、重い剣を振るうこともできない。
一人で森を歩けば転んで怪我をするし、ダンジョンの罠も一つとして自力で解くことはできなかった。
「私、結局なにも自力でできないままだけど……」
シルヴィは、少しだけ照れくさそうに、しかし、心の底からの幸福に満ちた、太陽のように明るく澄み切った笑顔を浮かべた。
「みんながこんなに優しいし、私のことを大切にしてくれるから……まあ、いっか!」
その、一切の虚勢もない、ありのままの自分を受け入れ、そして仲間たちへの絶対的な信頼と愛情に満ちた、宇宙で最も無邪気な笑顔。
『————ッッッ!!!!!!!』
その瞬間。
ロアン、エラン、セリア、ダリウス、マイラ、ノクティス、ルル、そしてアオイ。
彼らの心臓は、限界を突破した『尊さ』の直撃を受け、完全に天へと昇っていった。
「姫様ァァァァァァッ!! 万歳!! 万歳ィィィィィッ!! 私の命、魂、すべては姫様のものにございますゥゥゥゥッ!!」
「ああっ!! 姫様の笑顔! 姫様の笑顔が眩しすぎて、私の精霊たちが浄化されて消滅しそうですわ!! 尊い!! 尊すぎますわ!!」
「聖女様!! 光あれ!! この世界に永遠の光あれェェェッ!!」
庭園のあちこちで、ルクスヴェル大陸の頂点に立つ化け物たちが、シルヴィの笑顔一つでバタバタと倒れ伏し、感涙の海に溺れていく。
足元では邪神が目を覚まし、「きゅぅん!」と元気よく鳴いてシルヴィの頬をペロペロと舐めた。
「あははっ! みんな、大げさなんだから! さあ、お茶の続きにしよっか! アオイちゃん、ケーキのおかわりお願い!」
『ハッ!! マスターの御心のままに!! 世界で最も甘く、最もマスターを笑顔にするケーキを、直ちに構築いたします!!』
どこまでも高く、青く澄み渡るルクスヴェル大陸の空。
争いも、憎しみも、すべてが過去のものとなった、優しく平和な世界。
初期ステータスオール1、戦う力など何一つ持たない、ただのお人好しな最弱の吸血姫。
しかし彼女は、その『圧倒的な可愛さと尊さ』という唯一無二の武器だけで、神も悪魔も、最強の猛者たちもすべてを惹きつけ、世界を完全無血で征服してしまったのである。
彼女の、最強の仲間たちに囲まれた、最高に堕落して、最高に愛されて、そして最高に平和な『姫プ(姫プレイ)ライフ』は。
これからも、この優しき世界で、永遠に、楽しく、騒がしく続いていくのであった。




