表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
48/48

第十三章

 〇西川の秘密のダイアリー



 私は、現在、五十八歳。あと少しで還暦を迎えます。


 私が、長らくお仕えしてきた乙姫様は、明日、実業家のレオナルド様とシチリアで挙式されます。私も式に出席して欲しいと頼まれたのですが、仕事が忙しいのでお断りしたのです。


 後日、日本で行なわれる豪勢な披露宴には出席するつもりです。


 乙姫様が大学を卒業した後、私は、百合様の芸能事務所の社長に就任しました。百合様は、イタリ料理のアレストランの経営に夢中です。


 百合様という人は感情が豊かで軽やかな方です。興味の潮流は、だいたい十年周期で変わります。


 そのうち、レストランにも飽きる日が来るかもしれません。しかし、それでいいのです。いつも好きなことに挑戦する。それが百合様の美の秘訣なんだもの。


 思えば、色々なことがありました。


 今、思い返すのも痛ましいけれど、由布子様の可愛いジュリちゃんは火事で焼け死んでしまいました。放火犯の工藤を秘密裏に殺してやろうかと想ったけれど、さすがに想像するだけで留めておきました。


 その代わり、無職となった工藤に私は新しい職を斡旋すると言って、独裁政権の某国へと連れ出しました。工藤は、そこでスパイ罪として捕まり、終身刑となりました。ざまーみろです。


 あいつは、永遠に帰国する事はないでしょう。


 由布子様は大学を卒業すると同時に夏目朱里様の妻となっています。そして、あの頃のように、夏目家の別館で新婚生活を始められたのです。


 名もなき庶民との結婚に対して親が反対すると皆は想ったようですが、結婚式の日、すでに、由布子様は身篭っておられました。


 いわゆる『でき婚』というやつですね。


 朱里様の父上の千里様の大プッシュもあり、由布子様は正妻として迎えられています。

 ちなみに、由布子様の兄上は本社でバリバリと働いておられます。傍からは、妹の七光りと陰口を叩かれているようですが、元ヤンのお兄様は、まったくを気にすることなく我が道を進んでいます。


 由布子様と同じように逞しくて何よりでございます。


 三井さんは、由布子様が朱里様と結婚する半年前に引退しました。今は、息子さんと二人で山間部のポツンと一軒家で穏やかに暮らしておられます。


 八十を過ぎてからは少し耳が遠くなったようですが、時々、ビデオ通話で朱里様達とお喋りしているようです。


 トランスジェンダーのエリカ様は理系女子として大学に在籍しながら研究に勤しんでおられます。


 エリカ様の弟はフードトラックでタコスを売り歩く仕事に邁進されています。


 夏目家の執事だった坂元は、由布子様の猫が死んだ事件の翌年に執事を辞めています。正妻の息子、つまり、坂元の腹違いの兄が亡くなったのです。


 坂元の腹違いの兄は無能でしたので方子様の御実家の伏見フーズは倒産寸前でした。結果的に企業を背負うに相応しいのは、高学歴で社会人として経験地の高い坂元だと、方子様の父上が判断されたのです。


 方子様の母上が亡くなった事も後押しとなったのかもしれません。長い歳月を経て、ようやく方子様の父上が坂元を正式に息子と認めたのでございます。


 伏見フーズの全権を任された坂元の奮闘もあり、会社は持ち直しています。


 夏目家の執事の空きが出来てしまったけれど、そこは私が穴埋めしておきました。


 うちの芸能事務所で長い間、経理をしてくれていた女性を紹介したのです。その女性は四十路で独身です。気の毒な事に義足を嵌めています。


 身体的なハンデなど微塵も見せることなく、いつも、前向きな女性です。有能な彼女ならば、夏目家の管理を任せられると太鼓判を押して送り出しています。


 それにしても、百合様が趣味で立ち上げた芸能事務所が、こんなにも大きくなるとは……。


 グローバルボーイズグループの坊や達のゴットマザーとして、今日も、私は、張り切って采配をふるっております。


 惨めなお局だった私が、イケメン達から頼りにされるようになるなんて……。人生とは面白いものですね。


 こないだ、久しぶりにコミケに顔を出したのですが、その時、中川勝彦様によく似たコスプレーヤーを見かけました。勝彦様は、小学生の頃、私が推していた方でございます。


 少しウェーブのかかった髪。二十歳前後の細身の青年に目を奪われました。ノスタルジックな胸の痛みを覚えた私は、手を伸ばしそうになりました。


『あなた、芸能界に興味はない?』


 思わず、スカウトしそうになったけれど、やめておきました。だって、似ているからといって、身代わりにはならないんだもの。


 けれど、由布子様はジュリちゃんにそっくりなトラ猫を見つけて手元に置いています。


 ジュリちゃんの孫にあたる猫だから容姿が似ているのは、そう不思議ではないのかもしれませんね。ちなみに、由布子様は子育てと仕事を両立させておられます。


 学生時代に保母さんの資格をとるほど子供好きな方子さんだからこそ、安心して任せられるのでしょう。


 長女の愛里ちゃんと長男の桃里君も、すくすくと成長しているようで何よりです。


 由布子様は、今日もSNSにジュリアーノちゃんの可愛い写真をアップされています。


『うちのジュリアーノは金玉が大きいです。どうやら、遺伝のようです☆』


 なんと、立派なタマでしょうか。


 何やら神々しい輝きを感じます。


 私は、すかさず、いいね! を押したのでした。



          おわり







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ