すごい人がいる
「〇〇さんは、体力あるから助かってるわ」
仕事終わりに私が店長から言われた言葉。
日曜日の夜、社長・店長・私の三人で店を回したが、大変だった。ベテランの二人がいての大変である。基本的に三人の時は、準備を怠るとしんどくなる。四人なら問題なくても、三人になれば負担が大きくなるのだ。
社長も店長も店が回るよう、抜かりなく準備を整えていた。余裕がなくならないよう、料理の準備は多めに、明日以降の料理の仕込みも早めにやっていた。
だが・・・蓋を開けてみると、それでも忙しかったのだ。社長が先揚げしていた唐揚げが、最終的にすべてなくなった。
単品や定食に使うおかずもかなり出た。
お冷も先回りで用意していたつもりだが、各テーブルやカウンター席で水がなくなることもあり、料理の提供、バッシング、お冷の補充、お茶などの補充、と店内を駆け回ることになった。
飲食店あるあるだが、小さなお子様がいる家族連れの場合は、テーブルに案内することが多い。さらに、お客様の希望でカウンターではなく、テーブルを待つお客様もいる。
店内自体はすべてが把握できる規模ではあるものの、ホールが私一人なため、優先順位をつけながら動かないと流れが滞る。
一番大事なのは焦らないこと、あとお客様に対してきちんと誠実に言葉掛けをすること、だ。
お客様は、来店されたばかりで店内の様子を知らない。
こちらの都合も、もちろん知らない。どれだけ料理を出さなくてはならなくて、どれだけテーブルが空いていて、自分たちは席に座れるのか、ということをまるで知らない状態だ。
その状態で、ホール係が声も掛けずにいると、「どうしよう」とお客様側としてはなる。
そのため、来店された時にお客様への声がけを徹底するのだ。
私が働いてる店は食券制となっている。基本は食券を買われたお客様から、席にご案内する。
ただ、これにも例外はある。先に来られたけれど、小さなお子様連れや足が悪そうな方がおられ、食券を買うのに時間がかかりそうな場合は、先にお客様をテーブルに案内することもある。
もしくは、テーブルが満席で、カウンター席が空いてる場合。テーブル希望のお客様の順を抜いて、次のお客様をカウンター席に案内する、など。
経験値もあるが、店内の状況を把握していないとどこの席にお客様を案内すれば良いのか、伝えられない。そうすると、お客様のクレームに繋がるのだ。
他にも小さなことは起きる。
例えばテーブルに備え付けのティッシュがなくなるとか、お子様用の食器が欲しいとか、ご飯は少なめでお願いしますとか、食券を間違えて買ってしまいました、とか。
飲食店あるあるである。
お客様に待ってもらう場合は、予約表に名前を書いてもらい、順番に席にご案内する。
一見、簡単そうに思えても、料理を運んで、運び終えた後にすぐさまそちらに飛んでいき、必要事項を伝えなければ、順番がぐちゃぐちゃになってしまったりもする。
意外と頭と身体を使う仕事なのだ。
経験していけば、何をすべきかの判断を下す時間が短くなる。さらに、料理を運びながらでも周囲の状況に目を配り、テーブルのお冷が少なくなっていないか、お客様で混み合っていて、通路を通るのに危険がないか、あるいは通り道にある食器を下げて洗い場に持っていけないか、などなど。
一動作の中で考えること、把握すること、気をつけることが、実は山のようにあるのだ。
テーブルに目をやるのは、お客様が出ていかれそうな雰囲気を一早く察知するためでもある。
混み合っている場合、次のお客様がテーブル希望か、カウンター希望かで、片付ける順番も異なる。
・・・言葉にしていて気づいた。
なるほど、ホール係というものは、経験と知識と臨機応変な対応力を求められるものだったのか、と。
そこまでの実力を身につけるのには、やはり時間がかかる。ピーク時をさばける人材となると・・・単発バイトの洗い場やホール求人がなくならない理由がよくわかった。料理を提供してもらうだけでも、ありがたいわけだ。
求人を出す側もちゃんと動ける人が来てくれるかは運次第なところがあるので、リスクもあるだろうが。
私は、最近の単発バイトはタイミーで入れることが多い。京都は飲食店が多いし、飲食店の求人も多い。意外と飲食店で早出だった人が、本職を終えて、そのままタイミーでバイトといったこともあるそうだ。
一期一会ではあるものの、タイミーでバイトに入った際に、同じくタイミーで入った、飲食ベテランの経験者と出会うこともある。
心構えからくる立ち居振る舞いが、初心者と全然違うのだ。初めて入った、あるいは数回しか入っていない職場であるにも関わらず、落ち着き方が尋常ではない。
何があっても対応できる、その自信に裏付けされた実力があるからこその、落ち着きである。
何も知らないお客様からすれば、この人は絶対にこの店の店員だ!と、思われていそうだ。
あれには苦笑してしまった。
長年、飲食に携わってきたからこそ、どこに何が置いてあるのかを自分の目で確認したり、その店で働いている店員に聞いて、物の位置を把握しておく。
仕事自体も、店によってやって欲しい業務が違うため、必要な知識も手に入れておく。
その、仕事のコツや勘所みたいなものを一時間にも満たない時間でプロは把握している。
改めて、すごい人がいる世界なんだなぁと思ったりもする。
飲食店で働いていると、確実に口癖になる言葉がある。
「いらっしゃいませ」と「ありがとうございました」だ。
おかげさまで、たった一人の友達と食事に行くと、店員さんに対しての「ありがとうございます」がすらすらと口から出てくる。
買い物時も同様だ。声が通るので、よく顔を覚えられる。
確かに、私は社会性は上手く身についていないかもしれないし、コミュニケーション能力にも難があるのかもしれない。だが、恵まれていると思える。感謝ができる。
それはきっと、今までの私の生き方の中で培われてきたものだ。
私の人生の目的は「おもしろ楽しく幸せに、気楽気楽に生きる」。
店長の労いの言葉に喜べる自分でありたいと思った一日だった。




