表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
何もしてないのに、幽霊だけ勝手に成仏していくおじさん ~スロプーおじさんは除霊なんてしたくない~  作者: Samail
1章 おじさんと日常

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/118

9話 目押しお化け

ピローン。


「あ、やらかした。」


目押しミス。

まあ俺のビタ押し精度なんて、七割くらいなもんだからしょうがない。


呆れながらユウトがいう。


「おじさん、目押しあんまり上手くないよね。」


「うるさいよ。」



隣から知らない声。


「今の、余裕で取れたよ。」


「余裕じゃないよ。」


リールを見たまま返す。

もう一回、レバーを叩く。


「でもさ。」


まだいる。


「さっきから、全部ちょっとズレてる。」


「ほっとけ。」


止める。

ギリで入る。


「……ほら。」


「たまたまだろ。」


「違うよ。」


少しだけ間。


「ズレてる人の止め方。」


「なんだそれ。」


ようやく横を見る。


若い女。

座ってる。

普通に。

でも、なんとなく分かる。


「……また出たよ。」


「なにが。」


「用事だろ。」


「……。」


少しだけ黙る。


「目押し、教えてあげようか。」


「いらない。」


即答。


「なんで?」


「困ってない。」


「困ってるじゃん。」


「困ってない。」


レバーオン。


「その押し方だと、ずっとズレるよ。」


「いいよ別に。」


止める。 外れ。


「……ほら。」


「うるさいな。」


煙草を取り出す。


「ここ禁煙だよ。」


「知ってる。」


火はつけない。

素面で相手できるかよ。


「……。」


少しだけ間。


「ねえ。」


「なんだよ。」


「なんでちゃんとやらないの?」


「ちゃんとってなんだよ。」


「ちゃんと目押し。」


「してるつもりなんだけど。」


「してない。」


「してるって。」


「してない。」


めんどくさい。


「……で。」


話を戻す。


「なんの用だよ。」


彼女は少しだけ目を伏せる。


「……ちゃんと出来るようになりたかった。」


「そうか。」


「ちゃんと目押し出来る人が、好きだったから。」


「そうかよ。」


レバーを叩く。


「でも、出来なかった。」


「……。」


「何回やってもズレて。」


「そうか。」


止める。 今度は外す。


「……ほら。」


「うるさいよ。」


「で、言われた。」


少しだけ間。


「“無理なら打つな”って。」


「……。」


「“迷惑だから”って。」


「……そうか。」


もう一回、回す。


「だからさ。」


彼女が言う。


「ちゃんと出来る人が打った方がいいよ。」


「嫌だよ。」


「なんで?」


「ミスっても自分でやるのが楽しいんだろ。」


「非効率だよ。」


「そうだな。」


「損してるよ。」


「そうだな。」


止める。

ギリで入る。


「……ほら。」


「たまたまだろ。」


「違う。」


少しだけ、笑う気配。


「さっきよりマシ。」


「気のせいだ。」


「そうかな。」


「そうだよ。」


レバーオン。


「……ねえ。」


「なんだよ。」


「なんでやめないの?」


「やめる理由がない。」


「あるよ。」


「ない。」


「損してる。」


「してるな。」


「じゃあ——」


「でもさ。」


遮る。


「別にいいだろ。」


「……。」


リールが回る。


「ズレても。」


止める。

外れ。


「取れなくても。」


もう一回。

レバーオン。


「損してるのは俺だ。」


止める。

今度は入る。


「……。」


彼女は黙る。


「……私。」


小さく言う。


「迷惑だったのかな。」


「さあな。」


「ちゃんと出来ない人って。」


「知らないよ。」


「……。」


少しだけ間。


「でもさ。」


煙草を指で回す。


「別に。」


リールを見たまま言う。


「誰の台でもないだろ。」


「……。」


「打ちたい奴が打てばいい。」


止める。

外れ。


「下手でも。」


もう一回。


「ズレても。」


止める。

ギリで入る。


「まあいいだろ。」


「……。」


店内の音が、少しだけ遠くなる。


「……それ。」


彼女が言う。


「怒られるよ。」


「誰にだよ。」


「上手い人に。」


「怒らせとけ、そんなやつ。」


「……。」


少しだけ、笑う。


「ひどいね。」


「そうか?」


「うん。」


レバーオン。


「……でも。」


少しだけ間。


「ちょっとだけ、楽。」


「そうか。」


「うん。」


止める。

外れ。


「……やっぱりズレる。」


「そうだな。」


「でも。」


彼女の声が、少しだけ軽い。


「さっきよりは、嫌じゃない。」


「そうかよ。」


「うん。」


少しだけ沈黙。


「……ねえ。」


「なんだよ。」


「もうちょっとだけ見てていい?」


「……好きにしろ。」


「ありがと。」


レバーオン。

止める。

外れ。


「……やっぱ下手だね。」


「うるさいよ。」


少し笑う。


その気配が、少しだけ薄くなる。


「……あ。」


「なんだよ。」


「なんか、分かった気がする。」


「何が。」


「ズレてもいいってやつ。」


「そうか。」


「うん。」


少しだけ間。


「……じゃあ。」


「おう。」


「もういいや。」


「そうか。」


その輪郭が、ゆっくりと薄れる。


「ありがと。」


「なにもしてないけどな。」


「……次は。」


少しだけ笑う。


「ちゃんと止めるから。」


「おう。」


「うん。」


ふっと、消えた。


「……行ったか。」


「行ったね。」


ユウトが言う。


「今回、だいぶ雑だったね。」


「そうか?」


「うん。なんかよくわかんなかったし。」


「そうかもな。」


レバーオン。

止める。

外れ。


「……ズレてる。」


「うるさいよ。」


もう一回、叩く。


「まあでも。」


リールが回る。


「目押しはできる方がいいよな。」


止める。

今度は、ちゃんと揃った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ