8話 生きてるお化け
※視点が変わります。
ふと気付いた時。
いつも通ってたホールにいた。
近所のぼったくり店。
他に競合する店舗がないことをいいことに王様営業を続けるくそぼった店。
じゃあ他の店いけばいいじゃん。
そんな声も聞こえるが、わざわざ暇潰しするのに電車に乗ってられるか。
必死な顔してハンドルを握るおっさん。
スーツ姿で朝からピエロと戯れるリーマン。
カップルでいちゃつきながら打ってるDQN。
まあいつもと変わらない。
変わったのは俺の方だと気付いたのはしばらく経ってからだ。
どうやら俺は死んでしまったらしい。
その辺りの記憶はあまり思い出せない。
ただ自分の名前は思い出せた。
死んでもこんなくそホールにいる時点でまぁロクなもんじゃないんだろう。
朝、オープン前。
駐輪場でボーッとしていると、くすんだ白いママチャリに乗ったオッサンが現れた。
たまに見る顔。
死んでる俺や、他の幽霊たちよりもよっぽど死んだような顔をしているおっさん。
おっさんのヒキは終わってた。
激アツ!8割越え!みたいな演出を外すなんかざら。
それでもおっさんは毎日ホールに通っては微負けを繰り返していた。
相変わらず死んだような顔をしながら。
何故か無性におっさんが気になった。
って今、目合ってなかった?
その日からおっさんを観察するようになった。
いつものように激アツを外したおっさん。それでも淡々と打ち続けるおっさんに思わず言ってしまった。
「また外してるじゃん。これ外してたら勝てないでしょ、この機種。」
「うるさいよ。」
!?
「おじさん、俺の声聞こえてんの!?」
「、、、キコエテナイヨ。」
聞こえてんじゃん!!
それから俺はおっさんに執拗に話しかけた。
実は幽霊になってから会話に餓えていたらしい。
そんな俺の気持ちなんていざ知らず、おっさんは無視を決め込みやがった。
煙草の煙を俺にかけながら、
「線香代わりで成仏してくれねぇかな。」
とか言う始末だ。
頭に来たおれは思わず言った。
「じゃあくそヒキ弱のおっさんが万枚出してみろよ!そしたら成仏でもなんでもしやる!」
「はぁ、万枚なんて都市伝説を信じてるのか。」
「いや都市伝説じゃねーし!」
「あんなもんは極一部の選ばれたヒキを持つものだけの特権だ。」
駄目だ、このおっさん。
なんでスロット打ってるんだろ。
この日からおっさんの隣が俺の指定席になった。
それからしばらく経ったある日、
おっさんといつものように雑なやり取りをしていると、ばばあの幽霊が現れた。
曰く、財布を探してくれとのこと。
口は悪いけど、人がいいおっさんは、ばばあの財布探しに付き合った。
やっとの思いで財布を見つけて、ばばあを成仏させた時、おっさんの腹の辺りがうっすらと光ったように見えた。
その日からおっさんのヒキは少しよくなった。
「……なあ。」
ふいに、おっさんが言った。
「お前、いつまでここにいるんだ。」
「……さあ。」
「成仏とか、しねえのか。」
「おじさんが万枚出したらね。」
おっさんは、少しだけ笑った。
「都市伝説だっての、そんなもん。」
レバーオン。
リールが回転する。
止める。
外れ。
「……まあいいか。」
おっさんは、変わらない顔で言う。
「どうせ、やることないしな。」
俺は、少しだけ笑った。
「……俺もだけど。」
ふと、思う。
この人は、生きてるのに。
俺らより、よっぽど——
レバーが叩かれる。
また、回る。
また、止まる。
生きてるお化けと、死んでる俺。
その境目は、思ってたより曖昧だった。




