2話 財布なくしたお化け
煙草に火をつける。
今日も人は少ない。
平日だし、こんなもんかと思う。
「今日こそ万枚ね。」
後ろから声がした。
「うるさいよ。」
「だって出してくれないと、俺たぶんずっとこうなんだけど。」
「知らないよ。」
振り返るまでもない。
どうせ、あいつだ。
やれやれと思いもう1本と思ったが、やめた。
一日一箱。
そう決めているから。
守れたためしは、あまりないけど。
「なあ、今日はいける気がする。」
「お前の“いける”は信用ならない。」
「いやマジで。朝からツイてる感じする。」
「あー憑いてるね、まじで。」
前のサラリーマンが、ちらっとこっちを見た。
そりゃそうだ。一人で喋ってるように見えるだろう。
まあ、いいか。
――開店。
人の流れに乗って店内に入る。
BGMは聞いたことのあるようなないような。
お気に入りの台に座る。
コイツの良いところは派手に負けないところだ。
その代わり派手に勝つこともまあ、難しいけど。
「またそれ座ってるの?」
ユウトは定位置の上。
「派手に負けないからな。」
「夢ないねぇ。」
「うるさいよ。」
千円札をサンドに入れて、レバーを叩く。
リールが回転する。
「なあ、俺さ。」
ユウトが、少しだけ真面目な声を出した。
「万枚出したかったんだよね。」
「またそれか。」
「いや、マジで。死ぬ前にさ、一回でいいから見てみたくて。」
「だからなんで俺なんだよ。」
「俺のこと見えてんじゃん!」
「……。」
レバーオン。
今度は揃った。
リプレイが。
「今日あのばーさん来てるね。」
ユウトが、入口の方を顎でしゃくった。
「誰だよ。」
「あのばーさん。たまに話しかけてくるんだよ。」
視線を向ける。
いた。
見覚えのある婆さんが、ゆっくりと店内を歩いている。
他の客には見えていない。
ぶつかりそうになっても、誰も気づかない。
「……帰れよ。」
「無理だって。」
「お前も、あいつも。」
「いや、俺はいいじゃん。もう慣れてるだろ?」
「そういう問題じゃないんだよ。」
そんなやりとりをしていると、
婆さんは、まっすぐこっちに向かってきていた。
何でこっち来るかな。
「おじさん。」
ユウトが、楽しそうに笑う。
「今日、当たり日かもなー。」
「まだ当たってねぇんだけど?」
「幽霊の当たり日だっていってんの。」
「誰得のイベントなん、それ。」
婆さんが、隣に立った。
顔を上げる。
目が合った。
「あんた。」
しわがれた声だった。
「見えてるね?」
「ミエテナイヨ。」
「嘘だね。」
即バレるの、やめてほしい。
「お願いがあるんだよ。」
「嫌だ。」
「聞くだけでも。」
「嫌だ。」
「そういうこと言わないでさ。」
婆さんは、勝手に話し始めた。
こういう連中は、だいたいそうだ。
こっちの都合なんて関係ない。
「財布をね、落としちまってね。」
「警察行け。」
「行ったよ。でも見つからない。」
「知らん。」
「困ってるんだよ」
ため息が出る。
横でユウトが、にやにやしている。
「ほら、来たじゃん。」
「お前呼んだろ?」
「違うって。俺は関係ない。」
「あるだろ。」
「ないない。」
レバーを叩く。
回る。外れる。
何も変わらない。
……変わらないはずなのに。
「ねえ、お願いだよ。」
婆さんが、じっとこっちを見ている。
その目は、やけに必死だった。
知らない。
関わりたくない。
でも――
「……どこで落とした。」
口が勝手に動いた。
ユウトが、ぱっと顔を明るくする。
「お、やるじゃん。」
「うるさいよ。」
婆さんは、ほっとしたように笑った。
「駅前のスーパーでね」
「面倒くさいな……。」
椅子にもたれかかって、天井を見る。
まだ当たってねぇんだけどなぁ。
……本当に、面倒くさい。
どうせ今日も、やることはない。
はずだったんだけどなぁ。




