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12話 帰れないお化け

曇り。

アスファルトは少し濡れていて、踏むたびに音がする。


「……。」


ホールに向かう。

理由はない。

いつも通りだ。

自動ドアが開く。

いつもの匂いと音。


「……来たね。」


「おう。」


いつもの台に座る。

サンドに千円札を入れる。

レバーオン。

リールが回転する。

止める。

外れ。


「……。」


もう一回。

レバーオン。

リールが回転する。

止める。

外れ。


「……ねえ。」


「なんだよ。」


「今日さ。」


「なんだよ。」


「なんか静かじゃない?」


「いつもこんなもんだろ。」


辺りを見回す。

別段変わりはない。


「そうかな。」


「そうだよ。」


レバーオン。

リールが回転する。


ふと、視線がずれる。

島の端。

さっきまで 誰も座っていないはずの台に、人影。


「またかよ。」


「……いるね。」


「残念ながらね。」


男だ。

年齢はよく分からない。

特徴もない。

どこにでもいそうな顔。


そいつは、椅子に浅く座っている。

レバーには触れない。

ボタンにも触れない。

ただ、前を見ている。


「……打たないな。」


「打たないね。」


「なんで来てんだ。」


「さあ。」


しばらく見ている。

やっぱり何もしない。


「……ああいうの、たまにいるよな。」


「いるね。」


「打たずにずっと座ってるやつ。」


「いるいる。」


「何がしたいんだろうな。」


「考えてんじゃない?」


「何をだよ。」


「いろいろ。」


「いろいろ、ね。」


レバーオン。

リールが回転する。

止める。

外れ。

もう一度、見る。

変わらない。


「……。」


「……ねえ。」


「なんだよ。」


「ああいうのさ。」


「ああ。」


「嫌い?」


「どうでもいいな。」


「そっか。」


「お前は。」


「……わかんない。」


「なんだそれ。」


「なんかさ。」


ユウトが少しだけ言葉を探す。


「……帰らない理由、あるのかなって。」


「……。」


「帰ればいいのにね。」


「……そうだな。」


「でも帰らないんだよ。」


「……そうだな。」


少しだけ間が空く。

レバーオン。

リールが回転する。

止める。

当たり。


「お。」


「お。」


「ハモんな。」


「そっちがだろ。」


ボーナス中。

もう一度、そっちを見る。


——いない。


「……。」


「消えたね。」


「だな。」


「帰ったのかな。」


「さあな。」


「……帰れたなら、いいけど。」


「……。」


ボーナスが終わる。

少しだけ回して、席を立つ。


「あれ、もうやめるの。」


「なんかいいや。」


「さっき当たったのに。」


「そうだな。」


「もったいない。」


「勝ち逃げは基本だろ。」


「……そっか。」


喫煙所。

珍しく少し混んでいる。

壁にもたれて、煙草に火をつける。

一口吸う。


「……。」


煙を吐く。


「……ねえ。」


「なんだよ。」


「あんたさ。」


「なんだよ。」


「ずっとここにいるの?」


「……。」


少しだけ間。


「……さあな。」


「ふーん。」


「なんだよ。」


「別に。」


「なんか言えよ。」


「言ったら変わる?」


「さあな。」


「じゃあいいや。」


「なんだそれ。」


「なんでもない。」


煙がゆっくり上にのぼる。


「……。」


「……でもさ。」


「なんだよ。」


「いなくなるのは、なんかいやだ。」


「……。」


「あんたが。」


「……。」


「なんとなく。」


周りの喧騒が、やけにうるさく感じた。

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