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何もしてないのに、幽霊だけ勝手に成仏していくおじさん ~スロプーおじさんは除霊なんてしたくない~  作者: Samail
1章 おじさんと日常

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13話 お気に入りの場所のお化け

ホールを出る。

外はもう暗い。


愛車はパンク中。

歩いて帰るしかない。


「……。」


ポケットに手を突っ込む。

100円ライターを指で弾く。


いつも通りだ。


……いや。


いつもより少しだけ、静かだ。


足音だけがやけに響く。

さっきまでの喧騒が、嘘みたいで。


交差点を一つ曲がる。

そのとき。

視界の端に、何かが動いた。


「……。」


犬だ。

小型犬。

茶色い毛並み。

首輪は……見えない。


「……お前も、か。」


足を止める。

犬は、こっちを見ている。

じっと。


「……。」


少しだけ首を傾げる。

犬も、同じように首を傾げた。


「……なんだよ。」


犬は、ゆっくりと歩き出す。

二、三歩進んで、止まる。

振り返る。


「……。」


もう一度、歩く。

また止まる。


「……なんなんだよ。」


犬は何も言わない。

ただ、じっとこっちを見る。


「……。」


少しだけ間。


「……ついてこいってか。」


ため息を一つ。


「……はあ。」


仕方なく、後を追う。


住宅街を抜ける。

細い路地を曲がる。

街灯がまばらで、少し暗い。


「……こんなとこ、通ったことないな。」


犬は迷いなく進む。

ときどき振り返って、ちゃんといるか確かめる。


「いるぞ。全く。」


やがて、小さな公園に出た。

ブランコと、ベンチが一つ。

誰もいない。

犬は、そのベンチの前で止まる。


「……。」


何もない。

人もいない。

物もない。


「……ここか。」


犬はベンチの前に座る。

こっちを見る。

ただ、それだけだ。


「……。」


しゃがんで目線を合わせる。

犬は動かない。

ただ、そこにいる。


「……これでいいのか。」


答えはない。

でも——

さっきまでの落ち着かなさは、もうない。


「……。」


ベンチに腰を下ろす。

冷たい。

隣に、何かいる気がした。


「……。」


何もいない。

手を伸ばすこともしない。

ただ、座る。


「……何もないのにな。」


小さくつぶやく。


「……。」


少しだけ間。


「……ここ、好きだったのか。」


風が少しだけ吹く。

返事はない。


「……そうかよ。」


空を見上げる。

雲がゆっくり流れている。


「……。」


視線を戻す。


——いない。

さっきまでいたはずの犬は、もうどこにもいない。


「……。」


静かだ。

さっきまでと同じなのに、少し違う。


「……帰れたのかよ?」


小さくつぶやく。

答えるやつはいない。

煙草を取り出して火をつける。

大丈夫、携帯灰皿ならある。


誰もいないベンチ。


「……。」


「……必死すぎだろ。」


少しだけ笑う。


「……。」


煙を吐き出す。


「……。」


少しだけ間。


「……ああいうの。」


ぽつりと漏れる。


「……他にもいたな。」


煙は無秩序に広がって、広がって。

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