第169話 追放されましたが幸せです
帰還を労うパーティーの翌日の昼にようやく一旦我が家へ帰れる事になったのだが、どうやらベルが僕のお嫁さんになりたいと思っていた事を僕以外の我が家のメンバーや関係者達は知っていたらしく、我が家では現在ベルを囲んで、
「あのお坊ちゃまによくぞ…」
とか、
「旦那様にプロポーズしてもらえたのね!」
などとメリーさんを筆頭に女性陣が盛り上がっており、テイカーさんが僕に、
「旦那様、ご婚約おめでとうございます」
などと喜んでくれて、ダグさんなんかは、
「夕食は御馳走を用意しますね」
などと張り切っているのである。
『知らなかったのは僕だけか…いや、思い返せばベルはずっと僕に「お嫁さんになりたい」と直接言っていたし、あれを将来の夢ではなくて僕へのお願いと考えれば…色々と思い当たることが…』
などと思いつつ、プロポーズのつもりがなくポロッと言った一言がプロポーズとして機能したなどとは言えない雰囲気に、
『よし、この秘密は墓場まで持って行くし、ベルにはいずれちゃんとプロポーズし直す事に…』
などと心に決めたのであった。
さて、カサールまで帰ってこれ今後の予定も決めないといけないのであるが、正直な話、
『ちょっと色々起こりすぎて一旦整理したい…』
という事で、明日までお休みとして軽く我が家の子供達や皆さんにリント王国で購入したお土産などを渡した後に、
「すみませんが今日は部屋でのんびりしますね」
と宣言して自室のベッドで横になり、ぼんやりと天井を眺めながら深いタメ息をついたのであった。
それもその筈で、午前中にカサール伯爵様のお屋敷にて新しくリント王国から派遣された男性の念話師さんとニルバ王国の通信魔道具網にて、ニルバ王国とリント王国による今回の視察が失敗に終わった件の大反省会をリモートにて行った際に、僕が、
「あの…僕も何かしらの罪に…」
と勇気を振り絞って聞いたところ、全員から、
「なんで?」
と総ツッコミにあい、ビックリしながら僕が、
「えっ、ほら…リント王国の貴族は連座制があるし…認めたくはないけどアグノーティス伯爵の妻になっていた母とは血の繋がりが…」
と言うと、念話師の男性が、
「リント王国より、ジョン殿の母上は数年前に長年ペア子爵家から離れていた事を理由に離婚が認められ、ジョン殿との親子関係を破棄した事を正式な書面にて宣言して連座を逃れた為に国としてはジョン殿の母上ではなく【ジョン殿の顔見知りの伯爵夫人】であるそうです…」
などと言い出し、驚きながらも僕が慌てて、
「えっ、だってソルドナット伯爵様も通信魔道具での報告で、僕をどうにかしないと…とか仰って!」
と聞くとソルドナット伯爵様は呆れながら、
「そりゃ、ジョン殿を何とかしてニルバ王国に繋ぎ止めないと…リント王国もジョン殿を欲しがってるから…」
と言っており、どうやら僕一人で盛大に勘違いして一人で不安になり、ベルに泣きついた結果プロポーズした判定となったようで、
『駄目だ…頭が痛くなってきた…』
と、その後の会議も上の空であったのだ。
ある意味小さい歯車が微妙に噛み合わなかった為に、僕の人生のメイン歯車がグルグルと回りだしたらしく、久しぶりのいつもの天井を眺めながら、
『貴族の息子として生まれ、悪事を働いた親父のせいで追放されて一文無しに…ついでにその時に知らないうちに母親にも正式な書面にて捨てられてなんてな…』
とまぁ、母親については捨てられた事のショックはなく、
『そこまでして生きたかったし、僕を助けたりしたく無かったんだな…』
と情けない気分が勝り、どちらにせよ可哀想過ぎる自分の幼少期を思いだし、
『でも、口減らしで奴隷商人に売られたという我が家の子供達に比べたら自由だった分まだまだマシな方なのかな…』
などと、人生について考えてみたりもした。
『覚えていないだけかも知れないが、逢った記憶もない神様が、わざわざ前世の記憶を残しておいてくれたのは何かしらの意図があったとしたら…』
と、そもそも僕がこの世界に生まれた事についても本気で考えてみたが、
「よく分かんないや…」
と、【魔王を倒せ!】とも【人を導け!】とも言われてないし、大それた力も特に無く、この世界の為に何かを成し遂げるなんていう使命感もない人間に何かを期待しているのなら、
『前世の記憶と一緒にやるべき事を伝えた記憶を残さなかった神様が悪い!』
という結論に至り、
「まぁ、追放された事で手に入れた自由に酷い目に合わされもしたが、自由に生きれるからこそ出来る事があるからな…」
とポツリと独り言を呟き…そして、
「ヨシ、決めた!」
と自分に言い聞かせるように、
【最高に自由に生きる!】
という目標を立てたのであった。
最高に自由に生きる為に、好き放題出来る権力とお金が必要でありその為には多少不自由に感じても貴族という肩書きが必要になる…まぁ、今回の件でニルバとリントの両国から、
「名前だけの爵位でも良いから…」
と言われてしまっているので、この際腹をくくってお貴族様となり、
『ゴーレム機関車でリント王国からニルバ王国とコーチャー王国までの線路を引ける土地をむしり取り、鉄道王として金を稼ぐ!』
という短期目標で、長期目標としては、
『自由に生きれない奴隷の廃止』
であるが、それはあくまでも理想であり、現実的には、
『餓えない為の農業改革』
と、
『貧困を失くす為の事業』
で、仕事は勿論、冒険者として生きて行く為の低価格で良い装備品の提供、それと、
『安全に暮らす為の事業』
として、新型ゴーレムでの大型魔物対策や、建設ゴーレムでの大型工事により、口減らしなんかしなくても子供が育てられ、子供を残して亡くなる冒険者を減らし、残された冒険者家族に生きていけるだけの仕事を用意するという事を国全体でやる必要がある。
『満足するまでには気が遠くなりそうな程頑張らないと駄目だけど…頑張ったら何とかなりそうだな…』
と、前世の記憶という神様がくれたご褒美により自分の目標へと繋がる道がはっきり見える事に感謝した僕であった。
…それから数年…
僕…いや、私はニルバ王国とリント王国の両国から鉄道伯爵なる新しい爵位を賜っている。
扱いは辺境伯と同じであり、リント王国とニルバ王国…ニルバ王国に関してはコーチャーまでにある小国も最近ニルバ王国の傘下となった為にニルバ帝国と言っても良いのだろうが、ニルバ王が、
「いや、リント王国より国土がまだ小さいから…」
と、頑なにニルバ王国を名乗っているだけであるが、その両国の辺境伯的な私の領地は線路が敷かれた部分と駅のみである。
なので、今はペアの町からカサールを通りカルセルまでの区間で、領地の範囲的にはかなり広いが、線路の幅しかなくて作物は育たず、住人も居ないという名前だけの爵位なのだ。
しかし、線路の幅しかないとはいえ領主として領の外から来た客が払う鉄道運賃だけでなく、一応領地となる線路に旅人が入る為に関所を通る計算となり通行税も追加で手に入る。
運賃は鉄道運営に全てまわるが、通行税は我が家の資金となり、今後線路の幅の領地を分けてもらったり、新しく駅を作ってくれたりと、我が家とズブズブになってくれた領主様の領地の土地を少し購入し、その土地の貧しい方々を雇える産業を我が商会の若手達に任せる計画で、テイカーさんがバリバリと新人を育てている。
それと、ミルバス侯爵様の秘密のお孫さんは、ゴーレム機関車を見事に完成させた功績によりリント王国から男爵を賜り私の鉄道伯爵家の派閥としてペアの町に作ったゴーレム機関車工場にてゴーレム機関車の整備や点検を行てくれている為に、内緒にしていた事も忘れたミルバス侯爵様が、
「ゴーレム機関車を作ったのは孫で~す!」
と発表し、奥様には大層呆れられたが、リント王国側の鉄道づくりにも力を貸して下さり、リント王国側の私の領地が勝手に増えそうな感じで助かっている。
あとは将来的にコーチャー王国に婿に行かれたロイド君…いや、今はロイド王様の所まで線路を引いたら私の一応の目標は達成となるがまだまだ先の話である。
まぁ、かなり距離のあるリント王国の王都は仕方ないが、ニルバ王からの、
「カルセルまで来てるのなら…王都まであと半分程だろうに…」
と事あるごとに急かされているのが悩みの種である。
建設ゴーレムの発展で線路の建設スピードは最初より大幅に短縮されているが、鉄を買うのにも、工事をするのにもコストがかかるので、国王陛下の一声で各地の領主様が土地を用意してくれてはいるがホイホイと作れる物でもないのだ。
あと、ちなみにではあるがニルバ王は将来的に私の義理のパパとなる…それは何故かと言うと、ベルが王家の養女となり私の元に嫁ぐ事により、ニルバ王国とズブズブな関係になるからである。
これにはリント王が、
「ズルいぞ、ニルバ王家贔屓だ!」
と、少し拗ねたのだが、ベルがケモ耳少女である為にエルフ族寄りなリント王国では色々とベルが言われてしまいそうであり、
「ゴーレム機関車はリント王国の発明だから…ねっ…」
と、いう事で落ち着いたのであるが、ニルバ王から、
「鉄道伯爵なのに余の娘を娶るのに王都まで鉄道を敷けないのは格好がつかないから…」
と、ベルとの結婚をお預けされている状態である。
なので、王都で花嫁修業をしている19歳となったベルからも通信魔道具にて最近凄く圧をかけられている為に必死に領地という名前の線路工事続けているのであるが、
「あと、一年…いや頑張っても半年は掛かるかな…」
と自らも愛機であるゴーレムを操り線路工事の邪魔となる魔物や木々を凪払いっているのであった。
『これが子爵家の息子に生まれ、追放された後にやっと楽しいだけではないが、自由に生きれる様になった私のこれまでの人生の物語である。
吟遊詩人や芝居小屋にて好き放題に脚色されて広まらない事を祈り、ここに真実を書き記しておく事にする。』
最後までお付き合いきただき誠にありがとうございました。
ジョン君の物語はここまでではあります。
読んで頂いた皆様に感謝を…




