第162話 内緒の話
何か僕にお願いしたい事があるらしい侯爵様というのはこの町を領都にしているミルバス様というかなり年配のリント王国でも名の通った有力貴族の方であり、
『大貴族からのお願いって…』
と、どんな無理難題を言われるか分からない為にこちらは僕の同席者としてベルと視察団のリーダーであるソルドナット伯爵様に来てもらっている。
僕以外の二人は獣人族の血が入っているために魔力量こそ無いが身体能力だけ見ればリント王国の一般的なヒト族より強いし、魔力量が多くて長生きだがひ弱なエルフ族の血が入っているリント王国の方々ならなおのことその差は大きくなり、騎士団を小隊まるごと引き連れているような安心感である。
『もしも乱闘になっても室内で大魔法を放つはずも無いだろうし、こちらには地竜の骨を使い属性攻撃耐性のある魔合金装甲の最新型ゴーレムだってあるので、コックピットに引きこもれば…いや、マジックバッグの中身を室内では出せないか!?』
などと一人でドキドキしていたのであるが、結局のところ心配しているような事は何一つ起こらず、予期していないお願いをされたのであった。
まぁ、簡単にはいうと、
『若いころに内緒で外で作った子供の子供…つまり孫がゴーレムマスターのギフト持ちなのだそうで、その子をニルバ王国のゴーレム作りの現場で修行をさせて欲しい』
という、孫大好きなカサール伯爵様と何処か通じるお悩み相談であるが、豪快な孫好き爺ちゃんであるカサール伯爵様と違うのはリント王国の有力貴族な為にエルフ族の血が濃いのか、まぁ、気が散るほどハンサムで若々しいオジ様が、
「何もしてやれなかった孫の一人で…」
と、さぞモテ続けてきたであろう甘いマスクでタメ息をついているのである。
『よく分からないが、ミルバス侯爵様とやらの下半身だけは少子高齢化で悩むエルフ族の血を引き継がなかった事だけはわかった…』
という、なんとも羨ま失礼な感想を持つハンサムなお爺さんの浮気相手の子供の子供の夢の為に僕に力を貸して欲しいのだという、
「いや、ミルバス侯爵様はリント王国の大貴族様なんだから御自分で何とか出来るでしょうに…」
と思わず言ってしまった僕にハンサムなミルバス侯爵様は小声にて、
「実は、我輩はその…婿養子なのだ…」
と囁いた後に、
「妻に内緒で動かせる金など無いゆえこうやって頭を下げるぐらいしか…」
と向かい合ったソファーの向こう側で二つ折れになるぐらいペコリと頭を下げるのであった。
とりあえず、ミルバス侯爵様の孫に対しての誠意と女性に対しての精力が十分に伝わったので、
『なんとかしてあげたい気持ちはあるけど…』
とは思うが、しかし、確かに僕はカサールの町にて好き放題に新型ゴーレムを作っており、技術を教えるぐらい訳は無いのだが、問題は他国の人間にもパイロット候補として建設用ゴーレムなどは使い方を教えるのはニルバ王国として許可を出しているが、製造については一応国家機密扱いな為にニルバ王国に許可を取らないと、
「はい、わかりました」
とは言ってあげられないのである。
それにそのお孫さんとやらが、
『ニルバ王国の技術を使いリント王国のゴーレムを強化して次こそはリント王国に勝利を!』
などという戦争過激派な思想の方でない保証は無いので、僕は、
「お孫さんの夢がどんなものかわかりませんが、新型ゴーレムなどの技術はニルバ王国の許可がないと…」
と伝え、同席してくれているソルドナット伯爵様に、
「ねぇ!?」
と同意を求めると、ソルドナット伯爵様も、
「そうですね…本国に問い合わせるべきですぐにはお返事できません…リント王国の王都にはニルバ王国から派遣された念話師がおりますので、旅に同行しているリント王国側の念話師に連絡を頼めば今日中にでもお返事が出来ますが、その場合ミルバス侯爵様の内緒のお孫様の件が王都の方々にも…」
と、伝言ゲームの途中で秘密が漏れる恐れがある事を伝えると、ミルバス侯爵様は真っ青な顔で、
「それだけは困る…この件は一部の部下しか知らぬ上、これ以上外に子供が居る事を妻が知れば…」
と怯えている為に、
『これ以上って…これ以外でも他所で子孫を繁栄してたのかよ…』
と呆れてしまうが、孫の為に危険を承知で必死になっているミルバス侯爵様を見て協力したい気持ちもある僕は、既にバトルの気配もなく同席してはみたが、
『出番は無いな…』
と判断したらしく、出されたお茶菓子をモシャついているベルに、
「ベルは侯爵様のお孫さんの件はどう思う?」
と聞いてみると、彼女は口のお菓子をお茶でコクリと流し込んだ後に、
「そんなの、ゴーレムの技術を習いたい本人がどんな夢を持ってるか聞いてあげないと、ニルバの王様を納得させる事も出来ないんじゃないかな…」
と呆れたように語り、続けて僕に、
「リント王国に無料で教えてあげたくないのならニルバ王国が得する条件をだせば良いだけでしょ」
と言って再びお菓子を頬張るのであった。
『なんだろう…こういうときのベルの意見はど真ん中をズドンと射貫くような説得力があるな…』
などと感心しているのは僕だけではなかった様子で、ミルバス侯爵様が秘密を共有しているらしい配下の方に、
「お主に預けておる、アレを持ってきてくれ」
と頼むと、暫くしてその配下の方は幾つかの手紙を持ってきて僕たちの前のテーブルに手紙を並べると、ミルバス侯爵様は、
「我輩の娘からの手紙だ…」
と、どうやら他所で作った内緒の子供は娘さんだったらしく、そこから僕たちは、
『何を聞かされてるんだ?』
と思ってしまう、婿養子のミルバス侯爵様とお屋敷の出入り商人の娘とのロマンスを聞かされ、ミルバス侯爵様の語る物語はその娘の生んだ可愛い女の子が成長して嫁いだ先で生まれた孫の登場までにかなりの時間を要したのであった。
この浮気の証拠となる娘さんからの手紙の束には息子の夢について書かれている物もあり、
「孫は国の東に位置する辺境伯殿の領都にある商会の長男として国からのゴーレムマスター師団への誘いも断り商会長を継ぐべく頑張っているらしいのだが、娘としては孫の【ゴーレムの平和利用】という夢を叶えてやりたいそうで、我輩に手紙を…」
と言ったミルバス侯爵様のセリフに、
「辺境伯領の商人の息子でゴーレムマスターギフト持ち…」
と呟く僕の頭には、学生の時にゴーレムマスターというこの国では戦闘系ギフトに分類されても良いギフトにもかかわらず、イケイケ貴族達に背を向けて、【ゴーレムの平和利用】という夢を持ち生産系ギフトの持ちの集まりに入っていた同級生の顔が浮かび、
「あの…ミルバス侯爵様…そのお孫さんってニルバ王国との貿易をメインにしていたリーネル商会の息子さんでは?」
と、数少ない学生時代の友達と呼べる少年の実家である商会の名前を出してみると、ミルバス侯爵様は驚きながらも、
「孫と同年代とは知っておったが、まさか追放賢者殿も孫を知っておったとは…」
と喜んでいたが、すぐに暗い表情になり、
「戦争中は娘の嫁いだ商会がニルバ王国との国交が止まり商売にならずに十年近く苦労したらしくてなぁ…我輩も戦争を早く終わらせるべく方々に手を尽くしたのだが…」
と言いだしたのであるが、ミルバス侯爵様は再び頭を深々と下げ、
「ジョン殿のお父上の背後に黒幕が居るとも気が付かずに戦争の落とし処としてペア子爵殿の悪事として陛下に進言した一人である…申し訳ない…許してくれとは言わぬが、我輩と孫は別であって…」
と必死に孫の為に頭を下げ続けるミルバス侯爵様に僕は、
「止めて下さい…悪い奴らの下っ端としてあのクソ親父は領主の仕事もやらずに確り悪事をしていたらしいので、罰せられて当然ですし…それに友達の夢を手伝うのにお爺様からのお願いなど不要なので、この件は僕に任せてくれますか?」
とミルバス侯爵様に頭を上げていただいたのであった。
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