第154話 驚きの事実
今までなんとなく見ないフリをしていた自分の身長が低い件について改めて現実を思い知らされた僕は、
『これが飲まずにやってられるか!』
という事でお城の食堂にて出だされる夕食の時に、
「お飲み物は?」
と聞かれたので、僕は、
「妹にはジュースを…そして私はワインをいただけますか」
などと、大人ぶって注文してみたのであった。
まぁ、この食堂のアルコールの選択肢がエールかワインの二択であり
『常温のビールみたいな物なんて…』
という前世はキンキンに冷えたビール派だった僕のこだわりから前世でもあまり飲まなかったワインを内心ドキドキしながら頼んでみたのだが、テーブルの向かい側のベルが、
「お兄ちゃん、ワイン飲めるの?」
などと驚いているのを、
『馬鹿を言っちゃいけない…こっちとら人生2周目の二十歳だぜ…』
といった雰囲気の余裕の笑みで、
「まぁね…」
とだけ伝えたのであるが、わかっていたとはいえ、僕が低身長な事を『これでもか!』と解らせて来たベルと向かい合わせで食事を取るには僕の心の傷口がまだヒリヒリと痛み、
『悪いな…ベル…今日だけは飲まないと眠れないんだ…お酒に逃げるお兄ちゃんでゴメン』
と心の中で謝りつつ、ベルと静かにテーブルで食事が来るのを待っている。
この食堂を利用するのは城に招待された客人のみであり、僕たちは平民なのに貴族の方々の使う個室へと案内された為に、ベルと向かい合わせのこの時間が少しだけ気まずいのだが、彼女はどうやら人生で初めてのお城に興奮しているようで、
「お兄ちゃん、お風呂も広かったし、お布団も…」
などと有難い事にいっぱい話しかけてくれているので何とか間が持っている。
そして、正直なところ美味しいが我が家の料理の方が僕のお口に合うニルバ王国の貴族料理が運ばれてきたテーブルにてベルと二人で、
「乾杯」
などと、グラスを掲げるだけの貴族っぽい乾杯で食事を始めたいのであるが食堂の担当のメイドさんが運んできたのは真鍮のコップに入ったジュースと真鍮のジョッキに入ったワインであった。
『いや、僕もコップ…というかもっと少量のワイングラスとか…』
と思わず言いそうになるが、よく考えると酒場などでは全員ジョッキサイズの酒を飲んでいた事を思いだし、
『そうか…こちらは酒はこのサイズで飲むのが一般的なのか…』
と理解した僕は、
『まぁ、これだけ有れば十分酔えるだろう…』
と諦めてジョッキワインにてベルと乾杯を交わして夕食を開始したのであった。
そして結果からいうと、どうやら今回の僕の体はお酒に弱い…というか前世もさほど強くは無かったが更に弱くなっているっぽい…しかも味覚も変わっているらしく、
『兎に角ワインが渋酸っぱくて飲めた物では無い!』
と、不味くて飲めた物ではない液体と体が判断したモノを
『ジュースより高いだろうし…作ってくれた葡萄農家さんにも悪いから…』
と理性で無理して飲んだ事により、眠るというより、客間のトイレを一室占領し朝まで便器とチークダンスをした状態で気を失っていたらしく目覚めた瞬間に、
「ん…んっ…どこだ…」
と知らない天井どころか、知らない便座をあまり見ない角度から見つめつつ記憶を辿ろうとすると、
「もしかして中に居られるのはジョン様ですか?」
と女性の声がするのだが、その声が僕の脳ミソに突き刺さるようにガンガン聞こえて、思わず胃の奥からキラキラと昨夜の夕食の思い出達が込み上げてきてしまう。
『はい、見事な二日酔いで迎える朝の地獄絵図ですね…』
と自分が理解した時には僕の背後にあるトイレの扉が外から解錠されたらしく、そこには担当メイドのリリーさんが、
「ジョン様…お部屋に居ないので探しましたよ…」
と呆れた顔で立っており、僕は、
「すびまぜん…」
とだけ謝罪を伝えてから二日酔いの目眩で軽く白目を剥いて倒れたのであった。
とりあえず今回の事で身に染みて解ったのは、
【身長だけでなく、どうやら肝臓も小さい】
という事実と、
【デフォルトでジョッキなんかで提供される酒はもう飲まない方向で今回の人生は生きていく】
という教訓と、
「毒消しポーションって二日酔いにも効くんだ…」
という豆知識だけであった。
そして、ついでに担当メイドのリリーさんから若干冷ややかな視線をいただくというオマケ付きで、僕のお酒解禁式とお酒卒業式が一晩のうちに終了し、リリーさん経由で報告が上がったらしく現在…
「本当に、そなたは話題に事欠かないなぁ~…」
と、今回は謁見の間ではなく小さな個室で開かれているお茶会に呼ばれた先で国王陛下に笑われていたのであった。
今回のリント王国への訪問に向けての打ち合わせなどそっちのけで、お茶会の席に同席していたボトム公爵様からは、
「酔いつぶれる程に飲むなんて…カサールでのパーティーでも旅の道中でも一滴も飲んで居なかったのに…」
と心配されてしまい、正直に
「僕より小さかったベルが知らない間に成長していて家族として嬉しいやら…悲しいやらで…」
と複雑な心境を口に出すと、国王陛下は先ほどより楽しげに、
「なんと、ジョン殿ともあろう者が背の低さを気にしてやけ酒をか!?」
などと笑っている。
しかし、僕が怒るでもなく静かに座っているのを見た国王陛下は、
『あっ、これはいじったらダメなやつかな?』
とでも気がついたのか、
「うむ…」
と咳払いでもするように唸った後に、
「コーチャーの姫との恋を歌われる噂の勇者殿がなぁ…身長なんて気にせずとも言い寄る女性も多かろう…まぁ、人間色々と悩みはあるだろうから…」
と笑いすぎた事をなんとか巻き返そうとして、更に僕の地雷の周辺で1人マイムマイムを始めている。
僕が心の中だけで、
『チビだし、モテてないし、イボイノシシ顔のレディーには何故か告白する予定さえないのにフラれましたよ…』
と、イライラしていたつもりであるが、人生2周目で目の前のオッサン達より合計したら年上だろうが、不快なことは不快であり、それ程出来た人間でも無い僕はどうやら素直に顔に出てしまっていたらしく、計らずも息子が話題の姫と婚約した件を蒸し返されたボトム公爵様が、
「陛下…その話題は…」
と注意をしてくれたのである。
しかし、この事が決定打となり僕は部屋の隅で控えている騎士団の方々が軽くピリッとする程度に怒りを爆発させながら、
「言い忘れてましたけど、ルベールさんからロイド君経由で姫に話が漏れないように黙ってもらってましたが、そもそもあの姫様の事は…」
と洗いざらいコーチャー王国騎士団長であるモリブの野郎が婚約破棄の話を薄める為に流させたデマだという事を伝えて、
「だからモテてないのは知ってますし、チビなのも…あぁ、この際人間的にも小さい所を見せて帰っちゃいましょうか?」
と盛大に拗ねてやったのである。
しかし、姫の件は公爵様も陛下も初耳だったらしく、驚くボトム公爵様に国王陛下が、
「これ、お主がジョン殿が憧れの姫を息子に取られて傷心しているから、このままリント王国へ旅立たせてあちらの国の令嬢とでも婚約したら…などと言ったから…」
と言って、ボトム公爵様も、
「いや、部下の報告では…」
などと、口論をはじめ出してしまったのである。
二人は親戚筋であり同級生でもあるそうで、まるで子供のように罪をなすりつけあっているが、二人の会話の中で、
「だからお見合い相手を…」
とか、
「彼女の両親からも…」
などというフレーズが飛び出すこととなり、どうやら僕にニルバ王国の貴族家の令嬢と婚約させてリント王国側に引き抜かれない様に対策しようとしていた事に気がついた僕が、
「あの、お見合いとかしませんよ!」
ときっぱり断ったのであるが、国王陛下から、
「あぁ、それならば案ずるな相手方から今朝方に正式に断りが入ったゆえ…」
と恥ずかしくて悲しい報告を受けたのであった。
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