第153話 そんな気分
魔力供給装置によるマジックアイテムの修復には成功したのだが、魔力量がまだ足りないのか、それともギフトの熟練度なのか…結局のところ禁忌の剣の修復は出来ずに、代わりに壊れ方が比較的軽い他のミスリル製のマジックアイテムを幾つか修復してから、
『これでギフトの熟練度が上がらないかな?』
などと甘い期待を持ちながら、もう一回だけ禁忌の剣の修復にチャレンジしたのであるが、そんな簡単な話では無いらしく、
「レベル上げとかが必要かな…」
と自分なりに納得する頃には、魔石の残り量と、王都への出発までのタイムリミットの関係から、
『残念だがここまでか…』
と、今回は諦めるしかない状況を悟り、大人しくクリスト様とゼルエルガさんの結婚披露宴に参加する為にカサールまで来ていたボトム公爵様の馬車の列の後ろを追いかける形で王都の学校に編入するララちゃんとターニャちゃんの二人と、その引っ越しを手伝う名目でついてきた我が家の男子冒険者チームであるアル君達が、
「王都ってはじめて行くよ…」
などとワクワクしながら話しているのを眺めながら我が家の幌馬車に揺らる事になったのである。
勿論その輪の中には、ベルも含まれており、さながら修学旅行の引率の先生にでもなった気分であった。
今回は学校に通うララちゃんとターニャちゃん、それとリント王国行きの旅に出る僕とベルの2チームを王都で下ろした我が家の馬車は、昔のようにリーグさんを相談役にしたアル君とバート君とデニス君の三人の遠征専用となる。
ニルバ王国騎士団に守られる予定の僕たちは勿論、王都では一旦ボトム公爵家あずかりとなるララちゃん達も全く心配しなくて良いのであるが、
「ダンジョンに潜ろう!」
などと話している三人の男子冒険者の事だけが気がかりで、僕はリーグさんに、
「リーグさん、あの三人を頼みましたよ…」
とお願いすると、リーグさんは、
「任せて下さい…というか、あれ程身体強化系のマジックアイテムを装備したCランク冒険者パーティーなんてそうそう居ませんから調子に乗って無茶な事をしない限りは大丈夫ですよ」
と、『卒業祝い』などと言って倉庫に有った魔合金製のマジックアイテムの在庫を吐き出すように三人には自分の戦闘スタイルに合わせた装備を持たせてあり、まるで過保護な親に呆れる様にリーグさんは言っているのであるが、
「無茶しない様にリーグさんが見てくれるから安心はしてますが…」
などと、結局王都に到着するまで僕が気にしていたのであるが、別れの際にアル君は、
「旦那様こちらの事は任せて下さい、リーグ師匠も居ますし、自分もリーダーとして頑張りますから!」
と元気に宣言し、バート君は、
「主殿…じゃ無かった、旦那様。 オイラもアル兄ちゃんみたいに商人の勉強をしながら強くなります」
と、いつになくキリッとした顔で僕に伝え、三人の中で最年少となるデニス君は、
「主殿、こんな感じのマジックアイテムが捨てて有ったり、壊れたのを売ってたら集めとくから…マジックバッグとか色々ありがとう!」
とニコニコ笑顔で手を振りながら僕たちと別れて王都から旅立ったのであった。
王都にて残された僕たちも、ララちゃん達はボトム公爵家の方々に連れられて学校へと手続きに向かうためにここでお別れとなり、
「二人をよろしくお願いします…」
と僕が深々と頭を下げている隣ではベル達が、
「二人とも頑張ってね」
とか、
「ベルちゃんこそ頑張って!」
「そうだよ!」
などと三人でお互いを励まし合いながら別れの挨拶をしている。
かなり賑やかだった修学旅行気分も一気に僕とベルの二人だけとなり、寂しくなってしまったのであるが、ボトム公爵様の立派な馬車に乗り換えて王都の奥へと向かうにつれて、ベルは見たこともない金持ち達の豪邸に目をキラキラと輝かせながら、
「うわぁ、なんでお金持ちって庭先に裸の石像を飾るのかなぁ?」
などと…
『そうでした…ベルちゃんはそういうお嬢さんでした…』
と、久しぶりのこの無邪気な感じを懐かしく感じながらも、あの頃より成長したビジュアルのベルにどこか不思議な違和感みたいなものを感じ、
『成長したのか…していないのか…』
などと考えながら、ボトム公爵様がアタフタしつつ、
「あれは芸術であって…う~ん…なんでだろう…」
と、金持ちの庭先に飾られている彫刻についてベルに説明しているのを、
『まぁ、やってる本人達も雰囲気で飾ってるのか…』
と理解したのであった。
そんな事をしながら到着したお城にて、前回同様に部屋に案内されて風呂にでも入るように言われるのかと思っていると、ボトム公爵様が、
「あとの事はこちらに居る担当のメイドに聞いてくれれば解るから…」
などと言い残して、
「では、王都までの長旅の疲れを癒してくれ…今から陛下に報告に向かうが明日までジョン殿への呼び出しは勘弁してもらえる様に伝えておくから…」
と、お城の長い廊下を颯爽と歩いて行かれたのだが、このいきなりの放置プレイに軽く僕がオロオロしていると、待ち構えていたメイドさんが、
「ここからは私、リリーが担当致しますので何なりと…」
と、言って迷路のような城の中を案内してくれ、
「ジョン様がこちらのお部屋で、ベル様のお部屋はあちらの角を曲がった先の階段を…」
と手始めに王都に居る間の宿泊場所に案内してくれたのであるが、このお城を初訪問のベルが、
「えっ、お兄ちゃんと別々なの?」
と驚き、ササッと僕の部屋とやらを覗き込み、
「広い部屋だから二人一緒でいいよ」
などと不安なのかグズり出してしまい、リリーさんが、
「いえ、女性の部屋は別の階でして…ご夫婦でしたら別の階に家族用のお部屋もございますが…」
と困った顔で答えるとベルは何を思ったのか、我が家でメリーさんに叩き込まれたリント式の作法にて、
「ジョンの妻です…」
と挨拶をしてみたのである。
それを見せられた僕は思わず、
「いや、どんだけ一緒の部屋になりたいんだよ…お兄ちゃんって言った後でその作戦は、そもそも無理があるよ…」
とツッコミを入れると、ベルは、
「だって、こんなダンジョンの迷路みたいな建物で別々なんて怖いよ…」
と泣きつくので、僕はリリーさんに、
「僕の方は予定さえ先に教えていただければ勝手に過ごしますのでベルの専属としてサポートをお願いします」
と頭を下げて、ベルには、
「困った事が有ったらリリーさんに相談しなよ…」
と優しく諭して、昔の様に軽く頭を撫でてやるつもりだったのであるが、
『…はっ! 頭の位置が…高い…だと…』
と撫でてあげるには難しい高さにまで成長したベルに気がついた僕はピタリと手が止まり、咄嗟に空中に上げた手を小さく振ってベルとリリーさんが廊下の角を曲がるまで自分にあてがわれた部屋の前にて二人を見送り、そして誰も居なくなってから部屋に入ると、扉の前で、
「身長…」
とだけ、呟いたのちに少し泣いたのであった。
これはあの小さかったベルが成長した事への喜びと、ベルが知らないうちに僕よりも背丈が成長した事への羨ましさ…それに自分の身長が思いの外伸びなかった事への悔しさなど、なんとも複雑なモノではあるが半分以上は低身長な自分への負の感情であり、
『よし、二十歳を過ぎたし、こちらの世界に生まれて初めて酒でも…』
と、なんだか飲みたい気分になったのであった。
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