第138話 フラれてませんから
昨年のクーデターにより信じていた婚約者に裏切られた姫は長い間引きこもりがちだったらしいがロイド君というピュアな青年と出会い少し自分の殻から外に向かう切っ掛けとなり、そして賢過ぎるのが裏目に出ていたのか同世代の女性の言動が幼く感じて魅力的で無かったというロイド君は少し年上世代で何処か陰を感じる大人な女性であるエカテリーヌさんに魅力を感じて、この二人の距離が縮まるのにさほど時間は掛からなかった様である。
そして、不思議なもので、僕としても初めて見た時はあまりのインパクトにビックリしたエカテリーヌ姫のイボイノシシフェイスであるが、工事現場をロイド君と一緒に見学に来て、好意を寄せる男性と楽しげに話している姫様の顔を見ると、恋する乙女というバフがかかったのか表情の一つ一つが微妙に可愛らしく見えるのでビックリしてしまう、そして、その隣で笑うロイド君もキラキラして見える。
そんな甘酸っぱい青春を謳歌しているロイド君達を見て、壁を作る為にストーンウォールの魔法を師匠であるゼルエルガさんと連発していたカイン様も仕事の手を止めてニヤニヤと見つめている程であり、ロイド君とエカテリーヌ姫との事は皆も祝福ムードなのは僕としても嬉しい限りであるが、唯一納得がいかないのはコーチャー王国の方々が微妙に僕の事を、
『フラれてしまって可哀想に…』
みたいな感じで腫れ物に触るように扱うのである。
どっかのホラ吹き狼騎士団長のせいで、小さな国であるコーチャーの民は勿論、近隣の国々にまで僕が、
『身分の違いから実らぬ恋心を抱え、せめて憧れのエカテリーヌ姫の笑顔の為に命をかけて戦った』
などという与太話を信じており、ムカつくのは嘘もつき通せば本当にでもなったかの様に、エカテリーヌ姫ご本人すら僕にバッタリ出会すと、
「あっ、ジョン様…」
と物凄く気まずい雰囲気を醸し出した後に、僕からスッと視線を外して、
「ごめんなさい…」
とだけ言って、ソソクサと離れて行くのである。
『何だよ! 何かフッた男に出会ったみたいな空気を出して…』
とエカテリーヌ姫のイイ女風の振る舞いにも軽くイライラしていまうが、ここでイライラしている空気を出せば、
【フラれた男が騒いでいる】
と思われるし、騒がなくても姫のお付きの騎士やメイドさん達は泣きそうな顔で僕を見て、中には両拳を僕に見せなが、
『頑張って生きて…』
みたいに軽く頷いてから、
「姫様…」
などと、去り行く姫の後を追って行く…
『新手の虐めか? モテてはいないが僕にだって好みはあるし、選択の自由ぐらいあるはずで、少なくともエカテリーヌ姫のリアルなイボイノシシフェイスではトキメキを感じないというだけなんだよっ!』
と、告白していない女性からフラれたような納得のいかない現状にアル君や我が家のオジサンメンバーに愚痴を聞いてもらいながらカサール建設のテントの片隅で壊れた魔鉱鉄の装備の山を修復し、コーチャーの方々と話さずに済む様に過ごして自分の心を落ち着けている。
ちなみにこの魔鉱鉄の装備は、思いの外壁作りに時間が掛かりそうで、アル君からの、
「壁を作って帰る頃にはワグナの支店からカサールに新たに壊れた装備が届きませんかね?」
という予想から、
『かさばる壊れた魔鉱鉄の山をギャンさんの店の為に持ち歩かなくてもいいか…』
となり、
「なら、スタンピードがチョイチョイ来るぐらい魔物が居るらしいから集落の戦力アップにプレゼントしてマジックバッグの空きを増やしてお土産を詰めて帰るぞ!」
と決めたからである。
特に東の集落には我が家の契約リィース農家さんの畑もあるが、今回の石壁はあくまでも集落周辺のみを囲む計画であり、費用も傘下に加わってくれたコーチャー王国へのお近づきの印にニルバ王国からプレゼントしているだけなので、壁の外の畑エリアには魔物避けの堀を、
「畑が荒らされたら皆さん困るから…」
と、少し無理を言って建設用ゴーレムで掘ってもらう様にクリスト様にお願いしているとはいえ、堀を飛び越えて作物を荒らしに来る魔物が居ない訳ではない、
『我が家の米に手を出すな!』
という意味で集落に中級から上級冒険者まで御用達装備であり、手入れを怠っても錆び付かないという魔鉱鉄の装備を直して配布しておくのだ。
あのスタンピードの時に来てくれていた教会のシスターさんの生まれ故郷の村からリィースの生産指導に東の集落に来てくれていた狐顔の男性には特別にウチの商会からという事で良さげな魔鉱鉄の装備セットに時間停止機能付きだが容量が一番小さく使い勝手が少し悪いダンジョン産のマジックバッグを報酬とは別にプレゼントして、
「何か珍しい穀物や食材が有ったら教えて下さいね…」
などと、
『絶対にもっと僕好みのモチモチした米も何処かにあるはず…だって長細くてパラパラなインディカ米っぽいリィースは有ったから』
という狙いでボーナスもはずんでおいたので、今回の農業指導が終わった後に彼の住む南の地方に帰ってから、
『マジックバッグで腐らないから少し買って次の指導に行く時に持って行くか…』
などと、このマジックバッグの効果が出て知らない種類の米と出会える未来があるかもしれない事が今から楽しみである。
契約リィース農家の方々の話では、すでに今年のリィースの収穫は量こそ少なかったが無事に実ったそうで、その作り方を教えてもらったリィースは僕のイメージしていた田んぼで作るモノではなく畑で育てる【陸稲】タイプの米らしく、ビスティア地方は広い為に湿地エリア辺りには田んぼで育てるタイプの米の品種もあるのでは無いかと考えているのである。
それに、もしも米の品種がこれだけだとしても、狐顔の農業指導員であるイズさんのおかげで陸稲タイプのパラパラの米であるが、種まきから育成、刈り取りから脱穀に精米と様々な知識を教えてもらった事を考えるとマジックバッグの特別ボーナスなど安いものである。
しかし、それに伴い、
『ここに来る時に大容量のマジックバッグを3つも無料で失った事を思えば…』
と、未だに軽く納得の行かない出費を思い出すと、今の現状と相まって再びイライラしてしまう僕は、
「よし、魔鉱鉄の詰まったマジックバッグの中身を全部直したら適当に中央町の武器屋に売って、残りは今回のイライラの原因を作ったモリブ騎士団長さんに騎士団の予備装備として買い取ってもらうか…もう、僕のイライラに対して賠償してもらわないと納得出来ないから…」
と勝手に決めたのであった。
そうなると後は、魔鉱鉄の装備を吐き出した10個程ある空の時間停止機能付きのマジックバッグの使い方であるが、それについてはもう既に決めていた事がある…それは、
『地竜を倒して持って帰る』
というミッションである。
鍛冶師のバラッドさんは前回ちょこっとだけ分けてもらいお土産で持って帰った地竜の爪等の素材を見て、
「出来れば骨を大量に欲しかった…」
と少し残念そうにしており、どうやら地竜の骨を使った魔合金を作りたいらしく、ビスティア地方で旦那さんと革細工工房を開いていた我が家の革細工担当のリザさんも、
「地竜の革でしたら最高の服が…」
と言っていたのを思い出し、
『ワグナの町では町中での喧嘩で魔合金の装備を着けて無かったから怪我したけど、普段着や作業着を強い素材にすれば…』
と考えたからで、
「よし、中央町には冒険者ギルドも有るみたいだし、地竜の生息地とかを調べて皆で狩りに行こう!」
と僕は気持ちを切り替えてコーチャーでの生活を満喫する事に集中する事にしたのであった。
『…いや、ある意味でコーチャーから地竜を求めて移動したいと言った方が正確かも知れないな…』
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