第129話 何かの約束
現在、僕たちは30階層にてドンチャン騒ぎの真っ最中である。
僕の事をチビなどと馬鹿にし『レッドオーガの一発で殺られる』などと評価した冒険者グループに、
『人間の強さは背丈じゃないんだぞ!』
という所を見せる為に、
「悪かったって…」
とか、
「考えなおしてくれよ…」
などと必死で僕の事を止めるあちらのグループのリーダーさんに、
「あそこまで言われてコッチもレッドオーガとやらを一人でシバき回すって言ったんだからもう止まる訳にはいかない…」
と頑なに歩みを止めずにボス部屋に突撃したのが二時間ほど前の事である。
『入室しても定位置に待機して余裕のレッドオーガに扉付近からバーストランチャーで初手から麻痺毒をお見舞いして…』
などと一応作戦は考えていたのであるが、ロイド君が調べてくれていた通り、体調3メートル級の赤鬼さんが棍棒を振り回しても大丈夫な程に広いボス部屋を見た途端に、
『作戦なんてアホ臭っ…』
と、色々とありイライラを通り越してムカムカしていたのもあり、
「出番ですよ」
とばかりにマジックバッグから念のために連れてきていたジェロニモを引っ張り出した僕は、背中のハッチからコックピットへ乗り込むのだが、ジェロニモがレッドオーガの見えない入室センサーにでも触れたかのか、僕がごそごそとコックピットに着席する間に赤鬼はそれこそ鬼の形相でゴーレムの鋼のボディーを棍棒でシバきはじめ、
「ガン」
とか
「ゴン」
という金属ボディーを叩く打撃音だけで耳が痛くなりそうであった。
しかし、乗って起動してしまえば地竜すら殴り殺した経験のあるジェロニモ号の前ではレッドオーガなど棒を振り回すいたずらっ子みたいなものであり、
「この子がまだ起動してる最中でしょうが!」
と、怒りに任せてちょっとジェロニモ号の頭部に仕込まれた魔道具の杖からのストーンバレットで赤鬼の目潰しをすれば、
『目に砂が入ったよぉ~』
と慌てるレッドオーガをロックオンからのタコ殴りである。
ボス部屋の中には、棍棒で金属を叩く音ではなく、今度は金属で肉をシバき回す音とレッドオーガの、
「ぐはっ」
と息と共に漏れる声が木霊したかと思うと、呆気なく赤鬼はドロップ品へと姿を変えたのであった。
「けっ、手応えの無い奴だったぜ…」
などと、ほとんどジェロニモ号の手柄なのにボタンをポチポチしていただけの僕はコックピットから降りて魔石と角を残して消えたレッドオーガに悪態をついた後に、ジェロニモ号に、
「おつかれぃ!」
と労いの言葉をかけてからマジックバッグを押し当てて回収していると、鍵が開いたボス部屋の入り口から上の階層からついてきた冒険者グループが雪崩れ込み僕を見つけた途端に、
「本当に倒したのか!?」
とか、
「あまりにも早いから、てっきり…」
などと口々に言いながら駆け寄ってきて、レッドオーガの魔石などを確認すると今度は、
「お前さん、凄いな!」
などと僕を褒めてくれ、あちらのリーダーさんなどは、
「さっきは馬鹿にして悪かった…だからもう許してくれぇ…」
と僕にすがり付き、
「止めても意地になってボス部屋に入っていくし…俺は…俺はぁ、若い冒険者の未来をしょうもない煽り文句で追い込んで摘んじまったかとぉぉぉ…」
と泣き出す始末であり『仲直り』という訳ではないが、レッドオーガの単騎討伐祝いを兼ねて29階層にて彼らが手に入れたブラックブルの納入依頼品ではないノーマルな肉を提供してもらったので、
「なら、一緒にお食事でも…」
となったのだった。
ボス部屋前の待機エリアにてダグさんが腕によりをかけたブラックブル料理をメインに時間停止機能つきのマジックバッグの中にある作り置きメニューも加えて楽しいお食事会が始まり、冒険者グループは酒を自分達のマジックバッグから取り出し、バルディオさん達にも薦めており、
「いや、しかし…」
などと遠慮しているバルディオさん達に僕は、
「すぐに帰ろうかと思ってたけど、折角だし皆もボスと戦いたいでしょ? 周回するのにリポップまで5~6時間は有るし、別にすぐにボス部屋に突撃しないとダメな理由もないから一眠りしてから倒したら大丈夫だから…」
と酒盛りを許可して、お酒嫌いなロイド君と、お酒を飲んだ事がないアル君と、
『なんか、こちらの世界で成人というくくりではあるが、20才までは…』
と、前世の感覚から飲めなくはないだろうが、あえて飲まない選択をしている僕の三人は、先ほどのレッドオーガの初回討伐ボーナスである宝箱から出てきた首飾りを囲んで、ブラックブルの肉を頬張りながら僕が、
「これ、たぶん魔合金のマジックアイテムだね…ルーン文字っぽいけど少し違う模様も有るからドワーフの作だと思う。 家で何個か直した事あるヤツと同じ種類だよ…それにしてもブラックブルの普通の部位でこの柔らかさと味なら、希少部位ってどんなに美味しいんだろう…」
などと首飾りと肉の感想を述べていると、アル君が、
「あちらの冒険者パーティーの皆さんの話では、この町の領主様が大事なお客様をもてなす為に納品依頼を出したらしくて来週までの期限つき依頼らしいですよ」
と、希少部位についての追加情報をくれ、ロイド君は首飾りを見ながらカバンの中のメモ帳とにらめっこしており、
「お肉も美味しいですが、私はジョン君がどうやってレッドオーガを倒したかが気になりますよ…あと、多分このマジックアイテムは勇気の首飾りじゃないですかね…使用者のピンチの時に気持ちを落ち着けて、少しの勇気を奮い立たせてくれるという…まぁ、あまり効果は期待できませんが、ドロップ品の資料にも有りますし、試験などの時に身につけている人をけっこう見ますので…」
と教えてくれたのだった。
『あぁ、精神安定剤がわりのお守りアイテムか…3つほど倉庫にも有ったけど使えるか解らなかったから倉庫の肥やしだったよ…』
などと思いながらも、首飾りを見つめ、
「どうする? このアイテム…」
という僕に、ロイド君もアル君も、
「出した本人がとりあえず…」
みたいに薦めてくれ、一旦装備してみたのではあるが、
『なんか装飾品が増えたな…』
と感じた以外は、
『勇気が湧いてくるぜ!』
みたいな手応えも無く、効果や僕の反応を期待している二人に、
「う~ん…よく解らないや…」
と使用感を伝えるしかなく、ロイド君達もなんだか微妙な顔をしていると、あちらの冒険者グループのリーダーさんが、
「なに辛気臭い顔をしてるんだよっ! レッドオーガを単独殺しだぜ…Bランクでも一人で倒したなんて聞いた事がない偉業だ。 だからお前さんも飲めぇ~」
と、自分が煽ったせいで一人の青年の人生を終わらせたと凹んでいた所から、僕が無事に戻り気分的に解放された反動でかなり酒を飲んだらしく、既に酔っており僕にまで酒を薦めてくるので、僕が、
「いや、まだ飲んだことがないので…」
と、説明が面倒臭いのでアル君と同じ理由で断ったのであるが、リーダーさんは、
「聞いたぜジョン…お前さん凄い苦労人なんだってな」
などと、あちらサイドで我が家のオッサンチームと酒盛りついでに僕の話をしていたらしく、
「リーグの旦那達も心配してたぜ…」
などと、どの点について心配されているか不安になってしまうが、続けてリーダーさんは、
「3日後には俺達も冒険者宿に帰る予定だし、ブラックブルの依頼も終わってウハウハだろうからこの俺様に全て任せてくれ!」
などと言い出し、何を任せるのかも解らないが、僕達三人の背中をふらつきながらもペチンと酔って力加減も馬鹿になっているのか強めに叩き、
「楽しみにしてて良いぞぉ~」
などと何かの約束をして笑いながら酒盛りチームの所へ帰って行ったのであった。
読んでいただき有り難うございます。
よろしけれはブックマークをポチりとして頂けたり〈評価〉や〈感想〉なんかをして頂けると嬉しいです。
頑張って書きますので応援よろしくお願いいたします。




