第127話 我慢する
今、僕たちのパーティーが潜っているのはワグナの町の壁の外すぐにある中級ダンジョンである。
ワグナの町の周りには合計5つのダンジョンがあり、その中でも食料系のドロップが狙えるこの30階層からなるこのジーナダンジョンは、巨大なワグナの町の食料倉庫の役割もあり、他の中級ダンジョンに比べ敵も強くなくダンジョンに罠すら無いという希な優しいダンジョンなのだ。
なぜこのダンジョンを始めに攻略する事にしたのかというと、全く戦いなどというモノと縁がなかったロイド君に安全に強くなってもらうには10階層までほぼ初級ダンジョンと大差ないレベルの敵が出てきて、しかも、
『さぁ、練習して下さい』
とばかりに、まるでゲームの最初のチュートリアルの様に階層毎に色々な環境のエリアが見本の様に続き、敵も獣系、植物系、爬虫類系とバラエティーに富んでおり、しかも罠が無いというオマケつきなので、満場一致で最初のダンジョンに決まったのである。
初級ダンジョンなら多分踏破出来るレベルの冒険者であるDランク以上しか入れない中級ダンジョンで、わざわざ弱い敵しかいない10階層までの低層でレベル上げをするのは、せいぜいパーティーに加わって格上のダンジョンに挑めるというロイド君みたいな特殊な冒険者だけであり、魔物を倒せば食料が手に入るといっても低層のドロップ品はあまり美味しくないネズミ肉やらトカゲの卵や、食物繊維は取れそうな青臭い葉っぱであるので、ライバルとなる冒険者も少ないのだ。
なのでほぼ貸し切り状態でロイド君をメインに魔物を倒しているのであるが、そろそろロイド君的にも、
「次に進む自信がつきましたので…」
と、初のフロアボス戦に挑みたいと言っており、本日は10階層のボスを倒す為にボス部屋前の待機エリアに来ているのであるが、僕たちの前に待ちが五組も居る為に僕たちはここでボスを倒してリポップするまでの約六時間サイクルを五組分は待たなければならないのである。
「五組だから…30時間かぁ…」
と呆れてしまうが他のチームは、順番待ち要員を残してボスを部屋の先で美味しい食料をドロップする敵を倒して、良い頃合いにこの10階層戻ってきたり、大きな冒険者組織であるクランなどでは上級冒険者が駆け出しの食料調達係の冒険者の為にボスを倒して転移陣で使うメダルを集めていたりするので、どうしてもボス前では待ちが発生するのだそうだ。
しかも、ここから先の11階層からは専業で潜っている冒険者も多く、縄張りなどを形成しているのでボス以外で経験値を稼ぐのが難しくなるのだが、その冒険者達もこのジーナダンジョンのラスボスだけは何故か無駄に強いと資料にあったので、どうやら割に合わないらしく30階層のボスだけは待ちが殆ど無く大概は20階層の転移陣から潜りなおす深層組も再び29階層から20階層のボス部屋に戻ってから地上に戻るそうで、僕たちとしては、
「ロイド君とダグさんはボス戦が初めてだから、とりあえず10階層でどんな感じか見てもらったら20階層はリポップ待ちの間にすり抜けて30階層を目指しますか?」
と提案したのであるが、ロイド君は、
「いえ、時間が勿体無いのでこのまま戦わずにすり抜けて30階層を目指しましょう」
と言ってくれ、ダグさんも、
「食料はマジックバッグにたんまり有りますが、別にもう来ない10階層の転移用のメダルとやらは必要無いですよね…」
と賛同してくれたので、僕たちはそのまま先に進む事にしたのであった。
ボスが倒されて開きっぱなしのボス部屋を通り抜け、その先の階段を下った11階層からは専業の方々が縄張りを持って敵を殲滅しているのか魔物すら見当たらず、休憩している冒険者しかすれ違わない…運良くというとのか、運悪くというのかリポップのタイミングにかち合わない限り戦闘も起こらずただ地図を片手にダンジョンを進む時間が過ぎ、階層毎に暑かったり寒かったりするダンジョンの景色を楽しむだけの時間が流れたのである。
「下手にダンジョンが名物で冒険者が集まるのも考えものだな…」
と呆れる僕にバルディオさんは、
「主殿、それは中級ダンジョンだからこそです…上級ダンジョンでは安全に縄張りを持って狩りをするなど…そもそも最深部に行ける冒険者どころか中層である50階層から先に進める冒険者など一握りも居ませんので…」
と教えてくれたのであるが、その見返りとしてマジックアイテムなどが頻繁にドロップするので、冒険者達は命懸けで富と名声を求めて上級ダンジョンに挑むのだろう。
ちなみに古の賢者がダンジョンについて、
「ダンジョンは人々に試練を与え、乗り越えた者に祝福を与える為に神々が作った…」
と言っているらしいが、僕にはどうも暴力的で欲深い者を奥へ奥へと導いて消す【ゲスい乱暴者ホイホイ】のような気が最近特にしているのである。
このダンジョンの最寄りの町であるワグナは、難攻不落の上級ダンジョンを2つと、安全に運用すれば無限に稼げる中級ダンジョンを3つ抱える冒険者の町であり、勿論ニルバ王国法の元で統治されているのではあるが、ダンジョンの中は別の世界であり、
『強さこそが正義』
と勘違いしている輩が多く、その考えはワグナの町中でも見え隠れしており、治安が余りよろしく無い側面もあるのだ。
その正義である【強さ】が心を起因とする物ならばまだ良いが、腕力や財力、地位等を笠に着て横暴に振る舞う輩がちらほらと、ピュアピュアなロイド君には刺激が強すぎる人間の悪い部分がどうしても目につく為に、
『早く王都からのヨゼフさんの迎えが来ないかな…見送りが済んだら上級ダンジョンに挑むにしても、ここでは無いもっと静かな町を選ぶのに…』
と考える程に、前世の記憶も有る為か、強者が威張り散らしているこの町の居心地が非常に悪いのである。
特に初日のゴミ置場チェックの時に出会った下町と言われているエリアの子供達である。
彼らは元は冒険者の子供として暮らしていたのだが父親がダンジョンで亡くなり、母親の里など帰る場所が有る者は良いが、そうでない場合は行く宛もなく日々の暮らしの為に下町エリアで同じような境遇の方々と肩を寄せ合い暮らすしかないのである。
しかも、そんな立場の弱い方々を何かしらの力を持ち威張り散らしている奴らが良いように食い物にしているという…現に今僕たちの目の前でも、下町出身なのかボロい身なりの少年がポーターと呼ばれる荷物係として縄張りで狩りをしている冒険者達に、
「ほら、ドロップ品を集めておけ!」
などと顎で使われており、威張っている本人達はさっさと休憩に入り、
「投げナイフ1本でも失くしたらお前の日当なんて消し飛ぶから死ぬ気でさがせよぉ~」
などと笑っているのである。
そんな場面を見せられて、どうやら苛立ちが顔に出てしまっていたらしい僕にリーグさんは、
「旦那様…投げナイフを失くさなければ、日当をちゃんと出しているだけマシです…」
と、リーグさんも幼い頃は彼らのような扱いを受けていたそうで、少し冒険者達を擁護するような発言をするのだが、それは【力こそ正義】というルールの元では彼らに雇い主として威張れる権利がある事をやんわりと僕に教えてくれていたのであるが、リーグさんもまた奥歯を噛みしめて何かを我慢している様子であった。
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