第120話 夏の商会会議
季節は初夏、ウチの商会の石鹸工場も本格的に始動し、カサールの町だけではなく近隣の町にもカサール消臭黒石鹸とカサール保湿白石鹸を販売する計画であったが、予想外に人気が出てしまい、カサール子爵領の需要を賄うのでやっとで、それでもカサールの町に出店した他の領地の大商会が本店のある大都市に送る為に石鹸を求めてウチの商会に独占販売の契約等を持ちかけてくる程であった。
しかし、大都市に本店を持つ金持ち商会との多額の契約金に目が眩み、カサール石鹸というカサール子爵家の宣伝も兼ねた商品がカサール子爵領で買えなくなっては、子爵様達へ顔向け出来ない為に、
『カサール領へ来た方々だけが買える隠れたお土産』
としてウチの工場で生産して、カサールの町とマルダートの町とマーク村の雑貨店等に卸すだけにと留めているのであるが、それでも供給が間に合わない程の売れ行きに僕もテイカーさんも笑いがこぼれてしまうのである。
しかも、働いてくれている新町の奥様方に優先的に保湿白石鹸を販売しており、石鹸を削ってお湯に溶かして酢を少し混ぜる即席シャンプーによるヘアケアの効果の実験にも協力してもらった結果、
『あそこの地域の女性って何故か髪が艶々していないか?』
などという噂が他の領地からカサールに支店を出した商会の方々にも入り、日頃お世話になっている貴族の奥様や令嬢の為に噂の石鹸を求めてウチの商会で働く新町の奥様達に倍の値段での横流しを持ちかけてきているらしいのであるが、これにはあらかじめルールを決めており、
『欲しがっている商会1つにつき担当の職員さんが1ヶ月に1セットのみ横流しを許可し、正しい使い方のレクチャーもして商品を渡す』
というものである。
その為に横流しのお願いに誰が来たかという情報は全てテイカーさんの元に職員さんから集まり、テイカーさんから、
「では、あそこの宝石商の担当は今後ヨロシク…」
と、任命された奥様は、倍の値段ではなくて、
「1ヶ月に1個だけですが…特別に…」
と、正規の値段で『横流し』した風を装い、ウチの職員さんと仲良くなってもらうと、毎月勝手に石鹸欲しさに彼方からやってきて、
『どちらの商品をどのぐらいの数を欲しがっている』
とか、
『もっとこんな感じの商品は無いのか?』
などと、アンケートにご協力してくれ、ついでに撒き餌がわりの商品とも知らずに横流しで手に入れた石鹸を貴族等へ販売してくれたらピンポイントで顧客を広げられ、
『あそこの領主さん石鹸が欲しいらしい…』
などと石鹸を介してズブズブの関係になったつもりの商会の方から担当の奥様に噂話が入った時は、交渉事に強いクリスト様の出番となり、他の派閥であったり接点の少ない遠くの大都市の領主と仲良くなるチャンスで、
『我がカサールの町に出店している商会の後ろ楯と聞きましたので…』
などとパーティーなどにご招待し、欲しがっている石鹸を手土産にして、
『もっと作れる様に原料の生産とか出来たら良いのですが…』
などとクリスト様がグチを溢し、
『カサール子爵領は戦地だったからな…耕作地や村を一から作るのは大変だろう…』
などと、乗って来てくれたら、
『他の貴族家には原料なども内緒にしたいので…』
と、その貴族の領地で製法を非公開にしている石鹸を原料から作る事を提案して仲間に引き込むと、
【製造方法を教えてしまうが、販売地域が被らない場所での石鹸の増産】
というあまり痛くない対価に対して、
【秘密共有し、利益をもたらした貴族の顔を立てるべく、工場の有る村を守る為の防壁をカサール建設に受注】
という狙いや、それがダメでも、
『ゴーレムなんかも作っている注目の町だからな…』
と、大都市を治める有力貴族と国の端っこの復興真っ最中の出来立て貴族家が仲良くなる機会だけは確実に手に入るのである。
そう、これがウチの商会がカサールの町にて【ずっと免税】を勝ち取るべくクリスト様に提案したシステムなのだ。
『いくら今までに無いコンセプトの石鹸がヒットしたとはいえ、それだけで安心して暮らせるとは思っていない…学校に入学したウチの子供達や、地域の皆さんが将来も働ける様に…』
と、我が家の敷地に建てた商会の建物にて、僕は、商会のリーダーであるテイカーさんや職員である新町から採用した方々に囲まれ、
「では、引き続き横流しによる情報収集は継続で…カルセルのご領主様とは既にカサール子爵家はズブズブだから来年末あたりに石鹸製造がカルセル付近でも始まるらしいから、それまでぐらいかな…この作戦が有効なのは…」
などと密談している僕たちの横で、若者と初老の男性が気まずそうにウチの商会の会議に参加している。
その若者は僕が王都への旅の最中に散々放った国王陛下に対しての文句をあえてスルーしてくれた事により個人的に忠誠を誓っているゼルエルガさんの弟子のカインお坊ちゃまの1つ上のお兄ちゃんである、ロイド・ドラーク・ボトム様である。
彼はボトム公爵家一番…いやニルバ王国の中でも一二を争う天才らしく、あのカインお坊ちゃまよりも賢い為に、学校を最速で卒業し、宰相様の元で既に何年も若くして文官をされている国の次期宰相候補の1人であり、今回国王陛下からの任命で、
『同い年ぐらいだし、ジョンという若者は面白い人物だから勉強だと思って近くで見て来なさい…』
という事で監視員兼、人生勉強の為に派遣されたのである。
そして初老の男性はボトム公爵家の関係者で念話ギフト持ちのルーベルさんで、ロイド様のボディーガード兼、王家へのチクり担当であるのだが、
『人生勉強であるなら見て貰おうじゃねぇか!? おぅ、チクるならチクれよ!』
と半ばヤケクソで我が家の密談に参加していただいているのだ。
ロイド様は、
「あのぅ…ジョン殿…これは我々が聞いて良いのでしょうか…」
と心配そうに聞いてくるので僕は、
「国王陛下から近くで見て来いと言われたのですよね? ほら、下手に内緒にしていたら国に良からぬ事を企てていると思われたら心外ですし…我々は至って全うに儲ける企てをしているだけですので…」
と説明し、テイカーさんや職員の皆さんに、
「ねぇ~♪」
と僕がふると、皆さん笑顔で、
「はい♬」
と楽しげに応えてくれる姿を見て、ルーベルさんは、
「なんとなく数ヶ月この地で暮らされたカインお坊ちゃまが逞しくなられて戻られたのが理解出来た気が…」
と、ちょっぴり失礼な感想と共に、
「しかし、ロイド様にはこのような人間の裏の部分も知っていただきたいので…」
と、僕たちに頭を下げて珍しい機会を与えてくれた事に感謝してくれたのである…
『いや…裏の部分って…』
と、健全な商会の作戦会議を酷い云われ様な件については一旦我慢する事にしたのであるが、この天才であるロイド様が箱入りのピュアピュアお坊ちゃまな事が叔父さんに当たる国王陛下も心配らしく、
『まぁ、兎に角…城で文官をしているだけでは味わえない経験を…』
と僕に寄越した人物をピュアピュアのまま帰す訳にも行かず、ドップリこちら側に引き込んで、いずれは公爵家と手を組み好き勝手儲けてやろうという魂胆である。
『見ていろ陛下め…この間リモートでネチネチと宰相様と一緒に僕を虐めてくれた仕返しにロイド様を仕上げて、国王陛下の座を脅かす天才にしてやる!』
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