第107話 取ったどぉ~
裏路地ギャンさんのお店が綺麗になり良い品物が並んだという噂は、新町の冒険者達の口コミによりカサールの冒険者ギルドや冒険者酒場などに居る他所から来ている冒険者の方々に伝わり、
『どんなもんか見に行ってみるか…』
と、興味本位で冷やかしに来た冒険者が、その予想以上の品揃えに、
「コーティングしてある魔鉱鉄の装備がずらり並んでいたぞ!」
と酒場で冒険者仲間に報告すると、一気にお客様が増えたらしく、新町の奥様が繁盛しているギャンさんに、
「ご飯作る暇も無いだろうから…」
とお弁当を差し入れしたり、例の娘さんが母親の薦めでアルバイトとしてギャンさんの店に入ったのは良いが、なんとライバルの娘さんまで現れたのである。
あちらをアルバイトにしてこちらを雇わない訳にもいかず、シフト制の『看板娘』を複数抱える状態が更に男性冒険者を呼び、女性冒険者には女性の気持ちが分かる店員さんの居る店として男女問わずに繁盛しているそうで、なぜか我が家のメリーさんや奥様チームの方々にまで新町の奥様方が、『作りすぎた』という名目のお茶うけなんかを持参して居間で女子会を開き、ギャンさんのちょっぴり刺激的なお店での様子を報告にきてくれており、
『まぁ、ご近所の奥様方とも仲良くなれるし…』
と、僕はここ数日ずっと作業小屋でギャンさんの店から買い取った壊れた生活雑貨や衣服に革製の防具など手当たり次第に直しており、小屋が田舎の『何屋さんだろう?』みたいなバラエティーショップと呼ぶには垢抜けていない片寄った品揃えの、
【服と生活雑貨の店 ○○屋】
みたいな、
『服を選びながら鍋をついでに買う客なんて…』
とツッコミたくなる個人経営の店の様になってしまい、ギャンさんの噂話をしに来た奥様が帰りに、
「ジョンさん、お邪魔しましたぁ~」
と家主である僕に挨拶をしに小屋まで来ると、
「あら、あのボロがこんな綺麗に…」
などと、修復済みの服を手に取り、
「こんな服欲しかったのよ…」
と言ったかと思うと、
「あら、フライパン…」
と直したフライパンも手に取り重さなどを確かめながら、
「丁度欲しかったのよ…最近ってゴーレム作りで鉄って高いでしょ…欲しくてもなかなか売ってなくて…」
などと、新型ゴーレム作りの材料として金属が買われており住民の生活雑貨にしわ寄せが来ているらしく、
『本当に服を選びながらキッチン用品の購入を検討するんだ…』
と驚きつつも、
『皆の生活にゴーレム作りの余波が…これはイケナイ!』
と感じた僕は、その奥様に、
「良かったらどうぞ」
と服とフライパンを渡そうとしたのであるが、奥様は、
「ダメ!」
と僕を一喝して、
「ギャンさんの店から買ったのは見て知ってますし、ジョンさんの修復の魔法とはいえ、手間が入っている物を無料だなんて…今は朝に屋台で冒険者向けにお弁当何かを売ってますがこれでも元は旦那と村で小さな店を営んだ商人の端くれですので商品はキチンとした値段で…」
と言って、服やフライパンを見ながら、
「改めて今じっくり見ましたが、新品って言っても分からないですね…」
と驚くと、少し遠い目をした奥様は、
「死んだ旦那が仕入れをして来てくれ値段を決めていましたが、これなら小銀貨五枚は…今ならカサールの本町でなら小銀貨八枚~大銀貨一枚は…店さえあれば私が売りたいですが、屋台では店を持つまでは…ねぇ…カサール子爵様のおかげで格安で家は建ちましたが店舗を買う前に土地が高くなってしまいましてねぇ…」
と寂しげに語るので、僕は奥様に、
「店が有ればこれを売りさばいてくれます?」
と聞くと彼女は、
「はい…店が有れば…」
と不思議そうに語るので、
『はい、言質を取りました!』
という事で、僕は、
「では、その服とフライパンは手付け金代わりで、ウチの商会の傘下としてまだまだ空いている土地に店を建てるから店長さんとしてヨロシク」
と言ってから、メリーさんに、
「ちょっとカサール子爵様のお屋敷に出掛けてくるね」
と言って居間にある秘密兵器をマジックバックにしまい込み、
「お坊ちゃま、お屋敷までパトラッシュで…」
と薦めるメリーさんに、
「長い話になるかも知れないし…」
と、パトラッシュ荷車の貸し出しを断り、パトラッシュにも、
「今度、買い物の時にはヨロシクな」
と頭を撫でてから唖然として固まっている奥様をそのまま放置しカサール子爵様のお屋敷にルンルンで向かったのである。
要件としては簡単であり、我が家の空き地にて住民の為の店を開き、格安で日用雑貨などを販売する事をカサール子爵様に認めてもらう事と、それにあわせてちょっとゴソゴソとついでに認めていただくというモノである。
我が家のテイカーさんは基本的に他の町を対象にした商売の為に特例としてカサールの商業ギルドに納める登録料のみでカサール子爵家に納める税金は免除してもらっている。
『まぁ、それ以上に何かとカサール子爵家に貢献しているので、それぐらいの癒着は見逃して欲しい…』
とは思うが、しかし最近カサール子爵様には、
『ちょっと僕を便利使いし過ぎてない?』
とも思っていたので、その労働の対価をカサール子爵様に払っていただく為に厳しい交渉に望むのであるが…
『マジックバックの中の例のブツが有れば多分大丈夫だろう』
と自信満々で到着したカサール様のお屋敷でまずチェックするのは、執事さんに、
「本日、クリスト様は…」
と、今回の作戦には障害となる勘の鋭いクリスト様の居場所を聞くと、執事さんは、
「クリスト様はマーク村で石壁をゼルエルガ様と…数日は戻らないかと…」
と答えてくれ、僕は、
「そうですか…」
と、会えない事を残念そうにしてはいるが、心の中では、
『よっしゃあぁぁ!』
とガッツポーズのままカサール子爵様の待つ部屋に通され、学校の建設についての報告書を、
「こういうのが嫌で引退したかったのに…」
とボヤきながら記入していたカサール子爵様も、僕が来た事で、
『息抜きが出来る!』
と満面の笑顔になり、和やかなムードでティータイムが始まったのであった。
あとはカサール子爵様に警戒されない様に話を誘導し交渉のテーブルへと子爵様を着かせるだけであり、ギャンさんの店の話から切り出すとカサール子爵様は、
「あぁ、スラムだった頃から新町の子供達の世話をしていた商人だな…」
と、ギャンさんの事を知っているようで、ギャンさんの話題から新町の方々や本町の昔からの住人の生活に話題を振った後に、
「ゴーレム作りで町は活気づいて、他所の商会までカサールに出店して土地も高くなって…」
というと、カサール子爵様はニコニコと、
「そうなのだよ…財政も潤って…」
と喜んでいるので、僕は少し悲しい顔で、
「そうなんですよ…土地も高くなり、鉄なんかの金属の値段もはね上がり鍛冶職人もゴーレムにかかりっきりで鍋やフライパンが高値に…」
と、土地が高く店を持てない露店商や毎日の生活に不要な出費が増えた住民が居る事を伝えると、カサール子爵様はそこまで知らなかった様子で、
「そうか…町の皆に苦労を…」
と悲しそうにされていたので、そこで僕から、
【我が家の空き地にて地域住民の為の店を開いたり、手に職の無い住民などを雇って簡単な作業にて何かを作る工房を建てる】
という案を出し、
「これならば僕のリペアの魔法で格安に鍋などを直して格安で住人の方々に販売出来ますし、従業員も近隣の方々を雇えば…」
と利点を上げると、カサール子爵様は、
「それではジョン君が損ではないか…」
と心配して下さった瞬間に僕の心の中の釣り師が「フィッシュオン!」と叫びながら竿をあわせ、あとはカサール子爵様から言質を取るだけとなり、
「そこで、ウチのジョン商会の傘下として税金の免除なんてしてくれませんか?」
と踏み込む僕にカサール子爵様は、
「私としては構わないと思うが…クリストにも相談したいし…」
と中々の抵抗を見せる。
『くぅ~、ならば…』
と、僕はマジックバックから最終兵器である我が家のちびっ子三人の描いた絵を取り出しテーブルに置くと、そこには三人で協力して描いたカサール子爵様と自分たちの似顔絵が描かれており、最年長のシルフちゃんが、覚えたてのニルバ文字で、
『カサールじぃじ、だいすき』
と書かれているのを見たカサール様が、蕩ける笑顔になったかと思えば、
「何っ! もう字が書けるのか…」
と驚き、そして、
「流石は私が名付けた三人…シルフちゃんはもう字か書けるか…この字が左右逆だがそれでも天才だ…それにジョイ君は将来が楽しみになる程に元気な似顔絵だし、エレナちゃんは見てみろ将来は有名な画家に弟子入りすれば…」
などと、孫を誉めちぎるお爺ちゃんと化す…そうなのである、こんな事もあろうかとカサール子爵様に名前すら無い幼い三人の名付け親になってもらっていたのだ。
『カサール様が少しは気をかけてくれて、あの子達の将来にプラスになればと思っていたが…それを利用して…こんな悪いお兄ちゃんでゴメン…』
と心の中で懺悔しつつ、僕は、
「三人も会いたがってましたし、どうです、詳しい話は実際に現場で…」
と、提案するとカサール子爵様は、少し悩んだ後に、
「この報告書を書かないとダメだしなぁ…皆の暮らしの為だから、もう今まで通りジョン君の土地からは税金は取らないから、その分安く住人に販売してくれたり、従業員を雇って欲しい…」
と決定してくれ、僕の心の中の釣り師がクレーンに吊るされたカジキマグロの前で焼けた肌に真っ白な歯を見せながら微笑み、
『言質取ったどぉ~!』
と叫びながらも、カサール子爵様の目の前の僕は、
「では、お邪魔にならない様に帰りますね」
と残念そうな雰囲気だけ醸し出し、用事も済んだので、
「明後日には書きあげて遊びに行くと三人に言ってくれ」
というカサール子爵様の声に見送られて部屋を後にしたのだった。
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